第18話「温かいスープと、彼女の名前」
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悲しい勝利のあと。
玲奈たちは新しい仲間を連れて、隠れ家へと戻ります。
そこで待っていたのは、少し不器用で、温かい時間でした。
帰りの車内は、重苦しい沈黙に包まれていた。
ハンドルを握る有馬も、助手席の九条も、無言だ。
後部座席には私と、そしてNo.4が座っている。
彼女は膝を抱え、窓の外を流れる夜景をじっと見つめていた。
手には、No.5が遺したカードキーが握りしめられている。
(……あの子、泣いてないかな)
私は彼女の横顔を盗み見た。
泣いてはいなかった。ただ、その瞳は深く、暗い色をしていた。
「……何よ」
視線に気づいたのか、No.4が不機嫌そうに呟く。
「ジロジロ見ないで。減るもんじゃないし」
「あ、ごめん。……お腹、空いてない?」
私が聞けるのは、そんなことくらいだった。
【隠れ家の食卓】
廃ビルの地下、隠れ家に戻った私たちは、遅い夕食をとることにした。
といっても、あるのは備蓄の缶詰とパスタくらいだ。
「私が作るわ」
私は簡易キッチンの前に立った。
30歳の世界で培った主婦スキルが火を噴く時だ。
手早くトマト缶とコンビーフでソースを作り、パスタを茹でる。
数分後、湯気を立てる皿が4つ並んだ。
「……いただきます」
有馬と九条は慣れた様子で食べ始める。
しかし、No.4だけはフォークを持ったまま固まっていた。
「どうしたの? 毒なんて入ってないわよ」
「……違う」
No.4は小さな声で言った。
「温かいご飯なんて……久しぶりだから」
彼女は恐る恐るパスタを口に運んだ。
もぐもぐと咀嚼し、ゴクリと飲み込む。
その瞬間、彼女の瞳が少しだけ潤んだように見えた。
「……美味しい」
「でしょ? おかわりもあるからね」
私が笑いかけると、彼女は猛烈な勢いで食べ始めた。
まるで、今まで食べたことのないご馳走かのように。
それを見て、私は胸が締め付けられた。
あのアーカーシャの施設で、この子たちはどんな扱いを受けていたのだろう。
温かい食事すら与えられず、ただ戦う道具として扱われていたのかもしれない。
No.5の少年の顔が脳裏をよぎる。
(……もう、誰もあんな目に遭わせない)
私は密かに誓った。
【シノ】
食後のコーヒー(No.4にはホットミルク)を飲みながら、私は切り出した。
「ねえ。これからどうするの?」
No.4がカップを置く。
「……どうするも何もないわよ。私は組織の追っ手。帰れば処分されるか、再調整されるだけ」
「じゃあ、ここにいなよ」
「は?」
No.4が目を丸くした。
「私と一緒に戦おう。組織を潰して、あんたたちの自由を取り戻すの」
「……バカなの? 私はあんたを殺そうとしたのよ?」
「でも、今日は助けてくれたじゃん」
私は彼女の手を取った。
その手は小さく、冷たかった。
「私は、あんたが欲しい。戦力としてだけじゃなくて……友達として」
「と、友達……!?」
No.4の顔がボッと赤くなる。
「あ、あんたみたいなトロい女、友達なんてお断りよ! ……でも」
彼女は視線を逸らし、モジモジと指を絡ませた。
「……行くところ、ないし。ご飯も……美味しかったし」
「うん」
「だから……いてあげても、いいけど」
典型的なツンデレだ。可愛い。
私は思わず彼女の頭を撫でようとして、手を払われた。
「触んな! ……あと」
彼女は咳払いをして、小さな声で言った。
「……No.4って呼ぶの、やめて」
「え?」
「……シノ」
彼女は私を見ず、そっぽを向いたまま言った。
「私の名前。四宮詩乃。……シノでいいわよ」
「シノちゃん!」
「ちゃん付けすんな!」
シノは真っ赤になって怒ったが、その表情は今までで一番人間らしかった。
こうして、私たちのチームに最強のスピードスターが加わった。
【次なる標的】
「さて。感動の場面にお邪魔して悪いんですが」
有馬が空気を読まずにパソコンを開いた。
「次のターゲットが決まりました。シノさんが持っていたデータから、次のアクセスキーの場所が判明しました」
画面に表示されたのは、禍々しいアイコンだった。
「被験体No.2。コードネーム『Berserk』」
「No.2……」
九条が眉をひそめる。
「玲奈がサンプルNo.2と呼ばれていたが、関係あるのか?」
「いえ、別人です。No.2は、実験の初期段階で精神崩壊を起こし、制御不能になった怪物です」
有馬が説明を続ける。
「現在、彼はアクションゲーム『デッド・ライン』のボスとして隔離されています。……理性を失い、ただ破壊を撒き散らすだけの存在として」
シノの顔が強張った。
「バーサーク……知ってるわ。あいつはヤバい。私でも正面からやり合ったら勝てない」
「えっ、シノちゃんより強いの?」
「速さは私の方が上。でも、あいつは……痛覚がないの。いくら殴っても止まらないゾンビみたいなやつよ」
シノが身震いする。
「……行くの? 本当に?」
「行くよ」
私は即答した。
「鍵が必要だし、それに……その人も、救ってあげなきゃいけないから」
苦しみ続けているなら、終わらせてあげなきゃいけない。
No.5の時のような悲劇は、もう御免だ。
「……はぁ。あんたって本当にお人好しね」
シノが呆れたように、でも少しだけ頼もしそうに笑った。
「分かったわよ。付き合ってあげる。……私の速さ、使いこなしなさいよね」
シノちゃん(No.4)、正式加入です!
ご飯で餌付け作戦、大成功でしたね。
ツンデレな彼女ですが、これからは頼もしい味方として活躍してくれます。
そして次の相手は、No.2『バーサーク』。
痛覚のない暴走戦士。
どうやら一筋縄ではいかない相手のようです。
「シノちゃん可愛い!」「チョロイン確定w」と思っていただけたら、
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