第16話「弾丸の雨と、歩く囮作戦」
お読みいただきありがとうございます。
第二部「反撃編」、スタートです。
玲奈たちが挑むのは、銃弾が飛び交うFPSの世界。
しかし、玲奈の装備とスキルは、戦場にはあまりに不向きでした。
「次のターゲットは『No.5』。FPSゲーム『バレット・ストーム』の廃墟エリアに潜伏しています」
有馬がモニターに荒廃した都市のマップを映し出す。
「エフピーエス?」
私は首を傾げた。
「ファースト・パーソン・シューター。要するに、銃で撃ち合うゲームだ」
九条が手入れしたばかりのアサルトライフル(のアバター装備)を点検しながら答える。
「えぇ!? 無理無理! 私、銃なんて撃ったことないし!」
私はブンブンと手を振った。
「エイム(照準)とか自信ないし、リロードとか分かんないし!」
「問題ない」
九条が真顔で私を見た。
「お前の役割は『撃つこと』じゃない」
「え?」
「ただ走れ。……敵のヘイト(注目)を集めろ」
「……それって、要するに囮じゃん!!」
【蛍光色の的】
文句を言いながらも、私たちは『バレット・ストーム』にログインした。
転送された先は、瓦礫の山と化した灰色の都市フィールド。
空気は砂埃で煙り、遠くで乾いた銃声が響いている。
「うわ、リアル……」
私は自分のアバターを見下ろした。
そして、絶句した。
「……なにこれ」
九条は周囲の瓦礫に溶け込むような、高性能な迷彩服を着ている。
なのに、私は。
目がチカチカするような蛍光ピンクのダウンジャケットに、黄色いズボン。
「なんで私だけパリピみたいな格好なの!?」
『……バグですね』
インカムから有馬のため息交じりの声が聞こえる。
『部長のIDだけ、なぜか初期装備のテクスチャが読み込まれていません。エラー表示のデフォルトカラー……一番目立つ色になってます』
「最悪! こんなの『撃ってください』って言ってるようなもんじゃない!」
「いいや、好都合だ」
九条が冷徹に告げる。
「それなら、敵も無視できない。……行くぞ、二階堂」
「鬼! 悪魔!」
【見えない死神】
私たちは、味方のNPC部隊(傭兵たち)と共に、大通りを慎重に進んでいた。
私はハンドガンを持たされているが、正直、お守り程度にしかなっていない。
「……静かすぎる」
九条が銃を構えたまま、鋭い視線を周囲の廃ビルに向ける。
その時だった。
パンッ。
乾いた破裂音と共に、先頭を歩いていたNPCの頭がスイカのように弾け飛んだ。
「ひっ!?」
「スナイパーだ! 散開しろ!」
九条が叫ぶと同時に、NPCたちが物陰に滑り込む。
しかし。
パンッ。パァンッ。
隠れたはずのNPCたちが、次々とその場に崩れ落ちていく。
遮蔽物を貫通しているのか、それともあり得ない射角から撃っているのか。
『……解析不能!』
有馬の焦った声が響く。
『射程外からの攻撃です! 弾道計算ができません! この距離で百発百中なんて、チートを超えています!』
「姿が見えないんじゃ、戦いようがないわよ!」
私は瓦礫の陰で震え上がった。
相手は被験体No.5。
コードネーム『Snipe』。
姿なき死神だ。
「……あぶり出すしかない」
九条が私を見た。
その目が何を言わんとしているか、分かってしまった。
「……嘘でしょ?」
「走れ、二階堂。……お前の『強運』なら、当たらない」
「根拠がないーっ!!」
【ラッキー・タンク】
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
私はヤケクソで大通りに飛び出した。
蛍光ピンクのジャケットが、灰色の世界で嫌というほど目立つ。
「ここよ! 撃ってみなさいよヘボ砂ァ!」
精一杯の挑発(という名の悲鳴)。
瞬間。
ヒュンッ!!
風切り音が耳元を掠めた。
「ひいっ!?」
私は驚いて、足元の瓦礫に躓き、派手に転んだ。
ドシュッ!
直後、さっきまで私の頭があった空間を、大口径の弾丸が通過してコンクリートを粉砕した。
「……え?」
さらに2発目。
私は慌てて起き上がろうとして、バランスを崩して尻餅をついた。
カァン!!
頭上の錆びた看板が落下してきて、私の目の前で弾丸を弾いた。
「……あ、当たらない」
私の意思じゃない。
転んだり、物が落ちてきたり、靴紐が解けたり。
あらゆる「不幸な偶然」が、結果として最強の「回避行動」になっている。
『すごい……弾道予測がすべて外れています!』
有馬が興奮気味に叫ぶ。
『部長の予測不能な動きが、AIの照準を狂わせています!』
「計算じゃないわよ! 必死なだけよ!」
【高速の乱入者】
「……見えた!」
九条が叫ぶ。
私の囮のおかげで、敵の発砲位置が特定できたのだ。
ダダダダッ!
九条のアサルトライフルが火を吹き、300メートル先のビルの窓を粉砕する。
しかし。
「……チッ、逃げたか」
手応えがない。
敵もまた、人間離れした速度で移動している。
「こっちだ!」
九条が走り出す。私も慌てて追いかける。
だが、誘い込まれた先は、袋小路の路地裏だった。
「しまっ……」
九条が舌打ちする。
前方のビルの屋上。
そこに、揺らめく影があった。
ギリースーツ(迷彩服)を纏った人影。
その手には、身の丈ほどもある巨大な対物ライフルが握られている。
No.5だ。
ジャキッ。
巨大な銃口が、真っ直ぐに私に向けられる。
もう遮蔽物はない。
転んでも避けられない至近距離。
「……あ、詰んだ」
死を覚悟した。
その時。
キィィィィンッ!!
横合いから、赤い閃光が走った。
「……え?」
No.5が放った必殺の弾丸が、空中で何かに弾き飛ばされ、火花を散らした。
「……遅いのよ、あんた達」
土煙の中から、小柄な影が現れる。
猫のようなしなやかな動き。
背中には身の丈に合わない巨大なガントレット。
あの日、格闘ゲームの決勝戦で私を絶望させた、あの少女だった。
「勘違いしないでよね」
少女――No.4は、不敵な笑みでNo.5を見据え、言い放った。
「あいつの首を取るのは、この私なんだから」
FPS編、開幕です。
蛍光ピンクの囮、いかがでしたでしょうか。
転んで弾を避ける主人公、斬新ですね。
そしてラストには、頼もしい(?)助っ人が登場!
かつての強敵が味方になる展開、燃えますよね。
次回、玲奈&九条&No.4の即席チームが、見えない死神に挑みます。
「玲奈の強運最強!」「ツンデレキター!」と思っていただけたら、
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