第15話「逃亡者たちの夜明けと、不器用な距離感」
お読みいただきありがとうございます。
ここから【第二部】のスタートです。
組織の手から逃れた玲奈たち。
隠れ家での束の間の休息、そして変化した二人の距離感をお楽しみください。
「……ここなら、当分は見つかりません」
有馬が重い鉄の扉を押し開けた。
そこは、廃ビルの地下にある古びたサーバールームだった。
埃っぽい空気。
でも、奥には有馬が持ち込んだであろう最新の機材と、簡易ベッドが並んでいる。
「すごい……秘密基地みたい」
私は安堵のため息をつきながら、肩を貸していた九条をベッドに座らせた。
「おい、痛っ……」
「あ、ごめん。乱暴だった?」
九条は病院着のまま、腕には点滴を引きちぎった生々しい跡が残っている。
「もう、無茶するんだから。じっとしてて。消毒するわよ」
私は有馬が用意していた救急キットを慣れた手つきで開けた。
消毒液をガーゼに含ませ、九条の腕に当てる。
「……沁みるか?」
「平気。ミナの方がよっぽど泣き虫だったわよ」
「ミナ……?」
「あ、なんでもない」
私はテキパキと処置を済ませ、包帯を綺麗に巻いた。
そして、自然な動作で九条の前髪を払い、額に手を当てる。
「うん、熱は下がってるみたい。顔色も少し良くなったし、これならスープくらい飲めるかな」
「……おい」
九条が私の手首を掴み、怪訝そうな顔で私を見上げた。
「お前……なんか変わったな」
「え? 何が?」
「雰囲気が、その……妙に落ち着いてるというか」
九条が言い淀む。
その耳が少し赤くなっているのに気づいて、私はハッとした。
今の私、完全に「お母さんモード」だった。
あの世界で3ヶ月間、毎日ミナの世話をしていた癖が抜けていないのだ。
「ぶ、部長」
横でパソコンを操作していた有馬が、ジト目でこちらを見ている。
「イチャつくのは勝手ですが、見てるこっちの身にもなってください。熟年夫婦ですか」
「ッ!? ち、違うわよ! これは習慣っていうか、後遺症!」
私は慌てて九条から離れた。
九条もバッと顔を背ける。
「……フン。余計な世話だ」
憎まれ口を叩いているが、その口元が少し緩んでいるのを私は見逃さなかった。
……夢の中の夫は顔が見えなかったけれど、今のこの空気感は、あの日々と地続きのような気がした。
【反撃の狼煙】
「さて、現状整理と今後の作戦会議です」
有馬がパン、と手を叩き、メインモニターに地図を表示させた。
「組織――『プロジェクト・アーカーシャ』の運営元は、玲奈部長を『サンプルNo.2』として認識し、回収に動いています。学校も自宅も、もう戻れません」
「……指名手配犯みたいね」
「実際、似たようなものです。でも、逃げているだけじゃジリ貧です」
有馬の眼鏡がキラリと光る。
「反撃しましょう。このふざけた実験を終わらせるために」
「どうやって? 相手は大企業よ?」
「システムの中枢――『アーカーシャ・コア』を破壊します。そこに、ゲーム内に囚われた人々の意識データも集約されているはずです」
九条の目が鋭くなる。
「爺さんも、そこにいるのか」
「可能性は高いです。ですが、コアへのアクセスには、最高レベルのセキュリティ権限が必要です」
有馬が画面を切り替える。
そこに表示されたのは、見覚えのある不気味なシルエットたちだった。
「かつての被験体、No.1からNo.8。彼らは実験の失敗により、ゲーム内のボスキャラとして配置されています。……そして彼らは、コアへの『アクセスキー』を持っています」
「つまり……」
私がゴクリと喉を鳴らす。
「そいつらを倒して、鍵を集めろってこと?」
「正解です。RPG、格闘、FPS、パズル……あらゆるジャンルのゲームに散らばった彼らを攻略し、全てのキーを揃える。それが、僕たちのクエストです」
壮大な話だ。
でも、不思議と怖くはなかった。
隣には、最強の相棒(九条)がいる。
参謀(有馬)もいる。
そして私には、13年分の覚悟がある。
「やろう。九条、有馬」
私は二人を見渡して言った。
「全部クリアして、ハッピーエンドを掴み取るわよ」
【日常からの通知】
その時、ポケットに入れていたスマホがブブブッと震えた。
画面を見ると、LINEの通知。
相手は、あの高木だった。
『ねえ、ニュース見た? あんたの学校で誘拐騒ぎがあったって大騒ぎだよ』
『警察とかも来てるし、黒服のヤバそうな人たちもうろついてる』
『……二階堂、あんた大丈夫? 生きてるよね?』
いつものギャル語じゃない。本気で心配してくれている文面。
胸がキュッとなる。
私は「大丈夫」と返そうとして――指を止めた。
「……ダメですよね、有馬君」
「はい。通信を傍受されるリスクがあります。電源を切ってください」
私は画面の高木のアイコンを見つめた。
学校。友達。スイーツ。
当たり前だった日常が、もう遠い世界のことのように感じる。
「……ごめん、高木」
私は小さく呟いて、電源をオフにした。
スマホの画面が暗転し、私の顔が映る。
そこに映っていたのは、もう「ポンコツな残念美少女」ではなかった。
戦う覚悟を決めた、一人のプレイヤーの顔だった。
「よし。……まずは腹ごしらえだ」
九条が立ち上がり、不器用に私の頭に手を置いた。
「カップ麺しかないが、食うぞ。……これから忙しくなるからな」
「……うん!」
廃ビルの地下。
私たちの、長い逃亡生活と反撃の物語が、ここから始まる。
第一部、完結。そして第二部「反逆の逃亡者編」スタートです!
30歳編での記憶が、玲奈を少し大胆(?)にしています。
九条もまんざらでもなさそうですね。
次回からは、新たなゲームジャンル「FPS」の世界へ挑みます。
そこに待ち受けるのは、超遠距離スナイパーの被験体。
銃を持ったこともない玲奈は、どう戦うのか?
「第二部も楽しみ!」「九条デレた!」と思っていただけたら、
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