第12話「50人抜きの女神と、開いたチャック」
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一夜にして時の人となった玲奈。
しかし、現実はそう甘くありませんでした(主に有馬のせいで)。
翌朝。
私が校門をくぐろうとすると、そこには異様な光景が広がっていた。
「あ! 来たぞ! あの子だ!」
「マジで動画のまんまだ……!」
「すいませーん! 握手してくださーい!」
近隣の高校の制服を着た男子生徒たちが、校門前に群がっていたのだ。
スマホのカメラが一斉に向けられる。
「え? 私? キャー、やめてくださいよぉ~」
私は満更でもない顔で手を振りながら(髪をかき上げながら)、校舎へと入った。
これが、モテ期。
ついに私の時代が来たのだ。
【教室のアイドル】
教室に入ると、さらに状況は加熱していた。
「二階堂さん! サインください!」
「昨日の動画見たよ! あの動き、どうやったの!?」
廊下には他学年の生徒まで押し寄せ、私の席はアイドルの撮影会状態になっていた。
「いやー、才能かな? 私、昔から『秘めたる力』があると思ってたんだよねー」
私は机に肘をつき、アンニュイなポーズで答える。
「最初は断ったんだけどさー、どうしてもって頼まれちゃって」
「すげぇ……二階堂さん、マジでカッケー……」
男子たちのキラキラした視線が心地いい。
今まで「ガチャ廃人の残念美少女」扱いだったのが嘘のようだ。
ふふん。見たか。これが本当の私よ。
「……おい、そこ退け」
その時、人垣を割って入ってくる影があった。
一年生の有馬だ。
「あ、有馬君じゃん。どうしたの? 君も私のサインが欲しいの?」
私は余裕の笑みでペンを取り出した。
しかし、有馬は冷ややかな目で私を一瞥すると、淡々と言い放った。
「……部長。浮かれてないで鏡見てください」
「は?」
「何にも変わってないですよ。寝癖、すごいことになってます。アホ毛がアンテナみたいです」
「えっ」
私は慌てて頭を押さえた。確かに、今朝はセットする時間がなくて爆発気味だったかも。
「あと、リボン曲がってます。給食当番みたいです」
「うそっ!?」
「極めつけに……スカートのチャック、半分開いてますよ」
「――ッ!?」
私はバッと腰元を確認した。
……開いていた。
着替えた時に布を噛んじゃって、あとで直そうと思って忘れていたのだ。
シン……と静まり返る教室。
さっきまで私を女神のように見ていた男子たちが、一斉に目を逸らす。
「……あー」
「……やっぱ、二階堂だな」
「解散、解散」
魔法が解けたように、人垣がサーッと引いていく。
「ちょ、ちょっと待って! 今のはオシャレ! ダメージジーンズ的なやつだから!」
私の必死の言い訳も虚しく、教室にはいつもの「残念な空気」が戻ってきた。
「……有馬ぁぁぁ!!」
私は真っ赤な顔で有馬を睨みつけた。
「あんたねぇ! もうちょっと言い方があるでしょ!? せっかくのモテ期が台無しじゃない!」
「事実を言っただけです。それに、そんな状態でチヤホヤされても『ピエロ』なだけでしょう」
有馬は全く動じず、眼鏡の位置を直した。
「……はぁ。これだからノンデリ(ノンデリカシー)は。有馬、そんなんだからモテないんだよ」
「モテなくて結構です。それより部長、ちょっと来てください」
有馬の表情が、ふっと真剣なものに変わる。
「……笑い事じゃない状況になってます」
【招かれざる客】
有馬に連れられて、人気のない渡り廊下へ移動する。
「なによ、改まって」
まだチャックを気にしながら文句を言う私に、有馬はタブレットを見せた。
「今の騒ぎ、ただのファンだけじゃありません」
画面には、SNSのタイムラインが表示されている。
そこには『特定班』による書き込みが溢れていた。
『50人抜きの聖騎士、〇〇高校の二階堂玲奈で確定』
『住所特定した』
『運営に通報済み。チート(不正行為)疑惑あり』
「えっ……住所まで?」
「はい。そして、もっと悪い知らせです」
有馬が校門の方角を指差す。
そこには、生徒たちに混じって、明らかに雰囲気の違う「黒いスーツの大人たち」が数人、こちらを伺っていた。
「メディアの取材陣……に見えますが、違います。あれは『アーカーシャ』の回し者です」
「え……?」
「さっき、学校に電話がありました。『VR教育プログラムの特別奨学生として、二階堂さんを面接したい』と」
特別奨学生。
聞こえはいいが、要するに「実験体としてのスカウト」だ。
「目をつけられましたね。……逃げられませんよ、部長」
その時。
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムと共に、校内放送が流れた。
『2年B組、二階堂玲奈さん。二階堂玲奈さん。至急、校長室まで来てください。お客様がお見えです』
無機質な放送の声。
有馬と顔を見合わせる。
「……来た」
私の「モテ期」は、どうやら最悪の形で幕を開けたようだ。
【校長室の罠】
「失礼します……」
私が恐る恐る校長室のドアを開けると、そこには校長の姿はなく、一人の初老の紳士が革張りのソファに座っていた。
「やあ、待ちたまえ。君が二階堂さんだね」
紳士は柔和な笑みを浮かべた。
「君のゲームプレイ、拝見したよ。素晴らしい才能だ。我が社が推進する『次世代VR適性プログラム』の特待生に、ぜひ君を迎えたい」
「は、はあ……」
「もちろん、報酬は弾むよ。それに……君の友人の九条くん。彼も我々のプログラム参加者だが……少しトラブルを抱えているそうだね」
ドキリ、とした。
「九条のこと、知ってるんですか?」
「ああ。彼を救うには、高度な医療設備が必要だ」
紳士が身を乗り出す。
「君が我々に協力してくれるなら、彼を最先端の医療センターに移送して助けてあげられる。……どうかな?」
九条が助かる。
その言葉に、私の心が揺れた。
「協力って……何をすれば?」
「簡単なことだ。君が持っている『古いロケット』を渡してくれないか? あれは本来、我々の所有物でね」
「ロケット……?」
私は無意識にポケットの上から、あの金のロケットを握りしめた。
これを渡せば、九条が助かる?
私がポケットに手を入れかけた、その時だった。
ザザッ……キィィィィン!!
校長室のスピーカーから、耳をつんざくようなハウリング音が響いた。
『部長! 耳を貸しちゃダメです!』
スピーカーから、有馬の必死な叫び声が飛び出した。
『そいつらは敵です! その「医療センター」は病院じゃない! 実験施設です!』
「えっ……有馬!?」
『九条先輩と同じ目に遭わせる気ですか! 逃げてください!』
紳士の表情から、瞬時に笑みが消えた。
「……ネズミが紛れ込んだか」
その声は、氷のように冷徹だった。
彼が指を鳴らすと、控えていた黒服の男たちが一斉に私に向かってくる。
「嘘つき!」
私は近くにあった重厚な花瓶を掴み、紳士に投げつけた。
ガシャーン!!
「うおっ!?」
紳士が怯んだ隙に、私は窓を開け放ち、中庭へと飛び降りた。
【強制執行】
「はぁ、はぁ……なんなのよ!」
私は校舎裏へと走った。
ここは学校のはずだ。なのに、どうして命を狙われているの?
「いたぞ! 確保しろ!」
前方からも黒服が現れる。挟み撃ちだ。
逃げ場がない。
「……手荒な真似はしたくないが」
追いついた紳士が、懐からスマホのようなデバイスを取り出し、私に向けた。
「『キー』の回収を優先する」
彼が画面をタップした瞬間。
キュイイイン……!
不快な高周波音が鳴り響いた。
「っ!?」
私の懐で、金のロケットが激しく振動し始めた。
熱い。まるで焼けた石のように熱を持ち、赤い光を放ち始める。
「あつっ!? 何、これ……頭が……」
ロケットからの逆流信号が、ニューロ・パッチを通じて私の脳を焼く。
視界がホワイトアウトする。
立っていられない。意識が強制的にシャットダウンされていく。
薄れゆく視界の中で、紳士が冷たく笑うのが見えた。
「良い夢を。……我々の2人目の適合者、サンプルNo.2」
プツン。
私の意識は、そこで途切れた。
……同時刻。
遠く離れた総合病院の集中治療室で。
それまで昏睡状態だった九条蓮が、カッ、と目を見開いた。
「……二階堂ッ!!」
調子に乗った代償は、スカートのチャックだけではありませんでした。
ついに「組織」が牙を剥きました。
連れ去られた玲奈。目覚めた九条。
物語はここから、予想もしない方向へと転がっていきます。
次回。
目覚めた玲奈が見たものは、黒服の男たちではなく……。
「30歳の私」でした。
「有馬のノンデリ最高」「急展開すぎる!」と思っていただけたら、
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