第11話「0.1秒の攻防と、見えない斬撃」
お読みいただきありがとうございます。
50人抜きを果たした玲奈の前に立ちはだかる、謎のプレイヤー「No.4」。
常人には理解できない、次元を超えた戦いが始まります。
『FINAL BATTLE』
リングの中央にホログラムが表示される。
私と対峙するのは、フルフェイスの小柄な戦士、No.4。
身長は私より頭一つ分低い。
武器も構えていない。
ただの棒立ちだ。
なのに、私の「金欠センサー」……じゃなくて「危機感知能力」が、かつてない警報を鳴らしている。
(……来る)
ゴクリ、と喉が鳴る。
『READY……GO!!』
開始のブザーが鳴った、その瞬間だった。
消えた。
No.4の姿が掻き消える。
いや、違う。速すぎるんだ。
正面? 右?
(――上!)
私は反射的に両腕を頭上でクロスさせた。
ガギィィィンッ!!
重い金属音が響き、私の膝がガクンと折れる。
防いだはずの腕に、焼けるような激痛が走る。
(速い……! しかも重い!)
No.4は空中にいた。
重力を無視したような動きで、無数の蹴りと手刀を繰り出してくる。
ガガガガガガガガッ!!
連続する衝撃音。
防戦一方だ。
見えている。ナインの動体視力が、相手の攻撃を捉えてはいる。
でも、体が追いつかない。
ガードの上からHPがゴリゴリ削られていく。
(痛い、重い、苦しい……!)
脳が熱い。
視界のノイズが激しくなり、世界が赤く染まる。
『……オソイ』
ヘルメットの奥から、無機質な声が聞こえた気がした。
No.4の右足が、鎌のように私の首を捉える。
(あ、これ死ぬやつ――)
ガードが砕かれた。
ズドンッ!!
私の視界が反転し、強烈な衝撃と共に意識がブラックアウトした。
【退屈なリプレイ】
『K.O.! WINNER, No.4!!』
電子音が鳴り響き、私はベンチに強制転送された。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
心臓が破裂しそうだ。
全身に冷や汗が吹き出し、指先が震えて動かない。
負けた。完敗だ。
一瞬も気が抜けなかった。数千回の攻撃を受けた気分だ。
さぞかし、凄い試合だっただろう――そう思って顔を上げると。
「……はぁ?」
隣で高木が、つまらなそうに頬杖をついていた。
「なに今の。やる気あんの二階堂」
「え……?」
「だって棒立ちじゃん。開始早々、一発殴られて終わりとか……50人抜きの勢いはどうしたのよ」
会場の観客たちも、呆れたようにざわついている。
『なんだ今の……期待はずれだな』
『まぐれが切れたか』
『一発K.O.って、反応すらできてなかったぞ』
私は呆然とモニターのリプレイ映像を見上げた。
そこには、開始のブザーと共に私が棒立ちになり、No.4に背後から一撃を入れられて吹き飛ぶ様が映っていた。
「嘘……私、あんなに防いだのに……」
『……部長。リプレイを解析しました』
有馬の声が、氷のように冷たく響く。
『0.1秒。……ブザーが鳴ってからK.O.までの0.1秒間に、217回の攻防が行われています』
「に、217回……?」
『はい。お互いの速度がゲームのフレームレート(描画速度)を超えています。だから、普通の人間には「棒立ち」に見えたんです』
有馬が一呼吸置いて、問いかける。
『……部長には、見えていましたか?』
「……うん。全部、見えてた」
『……それが問題なんです』
有馬の声に、隠しきれない恐怖が混ざる。
『今の部長は、人間じゃない。……あちら側の領域にいます』
「……あちら側」
私は震える手で、自分の顔を触った。
人間じゃない。
その言葉が、敗北感よりも重く、ドロリと胸の奥に沈んでいった。
【本物のゲーマーたち】
「ま、いっか。二階堂にしては頑張ったっしょ」
高木が立ち上がり、パキポキと指を鳴らした。
「ここからは、私らの出番ね。行くよマツ君」
「おう! 仇は取るよ、玲奈ちゃん!」
高木と松田がリングに向かう。
相手チームはNo.4、そして中堅と大将の3人。
ここからが、本来の「バレット・アーツ」の試合だった。
「オラァッ!」
高木の猛攻が始まる。
彼女のアバターは軽量級のスピードタイプ。
華麗なステップで相手の中堅を翻弄し、的確にコンボを叩き込む。
「す、すごい……」
私は息を呑んだ。
高木、口は悪いけど本当に上手い。
「マツ君、スイッチ!」
「了解!」
松田との連携も完璧だ。
二人は阿吽の呼吸でスキルを重ね、相手チームの中堅・大将をあっという間に撃破してしまった。
「っしゃあ! これで1対1!」
「見たか! これが全国ランク上位の実力だ!」
高木と松田がハイタッチする。
強い。この二人、伊達にゲーマーやってない。
「さあ、ラスト! あのチビ(No.4)をボコして優勝よ!」
高木が意気揚々とNo.4に向かっていく。
勝てるかもしれない。そう思った。
だが。
「……ダメ! 高木、逃げて!」
私の叫びは届かなかった。
No.4が、ゆらりと動く。
高木の最速の蹴りが、No.4の顔面を捉える直前。
バシッ。
乾いた音がして、高木の体が不自然に折れ曲がった。
「え……?」
次の瞬間、高木の体はボールのように後ろへ吹き飛ばされた。
反応できた人間はいなかった。私以外には。
「エリ!?」
松田が激昂して突っ込む。
しかし、彼もまた、見えない一撃を受けて吹き飛ばされた。
圧倒的な実力者であるはずの二人が、赤子の手をひねるようにあしらわれている。
「な、なんだよコイツ……バグか……!?」
高木が恐怖に顔を歪める。
No.4は追撃しなかった。
ただ、冷たい複眼のようなカメラアイで、ベンチにいる私を一瞥し――ログアウトしていった。
『WINNER, TEAM PROJECT!!』
【準優勝と、忍び寄る影】
表彰式に、No.4の姿はなかった。
優勝チーム不在のまま、私たちは準優勝のトロフィー(データ)を受け取った。
「……最悪。何だったのよ、あいつ」
高木は不満げだったが、どこかホッとした顔をしていた。
本能的に理解したのだろう。あれは戦ってはいけない相手だったと。
私は疲労困憊で、立っているのがやっとだった。
視界が揺れる。頭が割れるように痛い。
「……二階堂、あんた大丈夫?」
高木が、少しだけ心配そうに顔を覗き込んできた。
「顔色、死人みたいだよ。……ま、今日はありがとね。参加賞のスイーツ、奢るからさ」
「……うん。ありがと」
私は力なく笑った。
翌日。
ネットニュースの見出しは、優勝したNo.4ではなく、別の話題で持ちきりだった。
『彗星のごとく現れた天才美少女! 脅威の50人抜き!』
『正体は? 謎の聖騎士アバターを追え!』
私の動画が拡散され、SNSでトレンド入りしている。
そして、その騒ぎの裏で。
とあるオフィスの一室で、モニターを見つめる男たちがいた。
「……No.9のデータと酷似しています」
「適合者か?」
「あるいは、偶発的な同期か。……いずれにせよ、放置はできませんね」
男は受話器を取り上げ、短く告げた。
「対象を特定しろ。……『回収』の準備を」
格闘ゲーム編、完結です。
玲奈が見ていた世界と、周囲が見ていた世界。
そのズレが、彼女の「異常性」を浮き彫りにしました。
高木さんも、最後はちょっとだけデレましたね。
しかし、目立ちすぎた代償は大きかったようです。
運営組織が動き出しました。
玲奈の日常に、黒い影が忍び寄ります。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
下にある【☆☆☆☆☆】マークで応援をお願いします!




