第10話「無自覚な50人抜きと、冷ややかな視線」
お読みいただきありがとうございます。
RPGの衣装のまま格闘大会に出場した玲奈。
「ナインの動き」をインストールした彼女の快進撃が始まります。
「……ナインなら、こう動く」
私の体は、思考よりも先に「正解」をなぞっていた。
見えない剣を振り下ろす軌道で、相手の顎に掌底を叩き込む。
ドンッ!!
鈍い音が響き、巨漢のサイボーグが宙に浮いた。
「がっ……!?」
相手は白目を剥き、そのままポリゴンとなって爆散した。
『K.O.! WINNER, RENA!!』
スタジアムに勝どきが響き渡る。
「……え?」
私は自分の手を見つめて呆然とした。
今、何したの私?
なんか勝手に体が動いて、気づいたら勝ってたんだけど。
ベンチに戻ると、高木と松田が目を丸くしていた。
「うっそ、マジで勝ったし!?」
高木が私の背中をバンバン叩く。
「見た今の!? 相手が躓いたところにラッキーパンチ! 二階堂、持ってるなー!」
「そ、そうかな? あはは……」
「運も実力のうちだよ! ナイスファイト、玲奈ちゃん!」
松田も親指を立てる。
どうやら二人には「まぐれ」に見えたらしい。
まあ、私自身も何が起きたか分かってないし、結果オーライか。
【止まらない快進撃】
しかし、その「まぐれ」は止まらなかった。
2回戦、3回戦、準々決勝……。
私の体は、相手が強くなればなるほど、精密機械のように反応速度を上げていった。
(……見える)
視界に、時折「砂嵐」が走る。
でも、その向こう側にある相手の攻撃予備動作が、スローモーションのように鮮明に見えるのだ。
シュッ。
相手の蹴りを、首を数センチ傾けるだけで避ける。
ドレスのマントが優雅に舞う。
トン。
隙だらけの鳩尾に、軽く手刀を入れる。
それだけで、相手は吹き飛んでいく。
『WINNER, RENA!!』
『30人抜き達成!!』
会場の空気が変わっていくのが分かった。
最初は「イロモノ」「コスプレ」と笑っていた観客たちが、今は静まり返り、息を呑んでモニターを見つめている。
『……部長。同期率が上がっています。ナインの動きとの一致度が、危険域に入りつつあります』
有馬の声が脳内に響く。
『でも、気をつけてください。脳への負荷がかかり始めています。視界に異常はありませんか?』
「……うん。ちょっと、チラチラするけど……まだ平気」
嘘だった。
本当は、頭が重い。水の中にいるみたいに思考が鈍い。
でも、体が勝手に戦うことを選んでしまう。
【彼女の冷たい視線】
準決勝。相手は優勝候補の一角だ。
「いけぇぇぇっ! 玲奈ちゃん!!」
ベンチから、松田の熱い声援が飛ぶ。
彼は全国ランキング上位5%に入る実力者だ。だからこそ分かってしまったのだろう。
私の動きが、まぐれなんかじゃないことに。
「すごい……! あのステップ、完全にマスタークラスだ! 玲奈ちゃん、君は天才か!?」
松田が身を乗り出して叫ぶ。
その時だった。
「……ねえ、マツ君?」
隣から、絶対零度の低い声が響いた。
「ひっ!?」
松田がビクッとして振り返る。
そこには、ゴミを見るような冷ややかな目で彼を見下ろす、彼女(高木)の姿があった。
「あんさー。さっきから『玲奈ちゃん』連呼しすぎじゃない? てか、私より熱入ってない?」
「い、いや! これはチームメイトとして純粋な応援をだね……!」
「ふーん? チームメイトねぇ……」
高木は長い爪先をトントンと自分の腕に当てた。
「てかさー、私の出番いつ? 暇なんだけど」
「あ、あと一人倒せば玲奈ちゃん……あ、いや二階堂が交代するかもだし!」
「チッ。使えねーな」
高木は不機嫌そうに足を組んだ。
彼氏が他の女(しかも格下の私)を褒めるのが気に入らないのと、自分が「マスタークラス」の腕前を披露できずに暇なのとで、イライラがピークに達しているようだ。
……ごめん、松田君。
私、まだ負けそうにないわ。
【50人目の生贄】
準決勝の大将戦。
私の掌底が、相手の顎を捉えた。
50人目。
相手が崩れ落ち、勝利のファンファーレが鳴り響く。
『驚異の50人抜き達成ーーッ!! 謎の美少女アバター、決勝進出です!!』
ウワァァァァッ!!
スタジアムが揺れるほどの大歓声。
私は荒い息を吐きながら、リングの上に立ち尽くしていた。
「はぁ……はぁ……」
視界が歪む。
歓声が、遠い耳鳴りのように聞こえる。
勝った。スイーツチケット、ゲット。
……あれ? 私、なんでこんなに必死に戦ってるんだっけ?
思考がまとまらない。
ただ、強烈な眠気と、脳を焼くような熱さだけがある。
『……部長、次です』
有馬の緊張した声で、我に返った。
『決勝戦。相手チームのエントリー名は『チーム・プロジェクト』。……先鋒に、ターゲットがいます』
リングの向こう側。
スポットライトを浴びて現れたのは、小柄な人影だった。
フルフェイスのヘルメット。
身長は中学生くらい。
武器も防具も持たず、ただ黒いライダースーツだけを着ている。
プレイヤー名:『No.4』。
「……見つけた」
有馬の予想通りなら、あれは「被験体」。
九条と同じ実験を受けた、かつての人間。
No.4が、ヘルメット越しに私を見た気がした。
その瞬間。
ゾクリ、と背筋に冷たいものが走った。
殺気なんて生易しいものじゃない。
あいつは、私と同じ「向こう側の住人」だ。
高木さんの嫉妬が怖い回でした。松田くん、強く生きて……。
無自覚なまま50人抜きを達成した玲奈ですが、脳への負荷は限界に近づいています。
次回、決勝戦。
「0.1秒の攻防」が始まります。
常人には見えない戦いの果てに、玲奈が見たものとは?
「玲奈すげぇ!」「高木さんコワ可愛い」と思っていただけたら、
下にある【☆☆☆☆☆】マークで応援をお願いします!




