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【連載版】愚かな王太子に味方はいない   作者: 遥彼方
【番外編】愚直な国王の味方は頼もしい

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12/12

愚直な国王は傲慢な大公を許さない

「オレリア・ヴァスール・ド・ユベールを俺に譲れ」


 結婚式が始まろうかというその時、ファシナダ帝国の大公ミゲルが、尊大に切り出した。


 ミゲル・ファシナダ。

 俺たちの結婚式と戴冠式のために呼んだ賓客である。


「断る。譲るも何も、オレリアは物ではない。加えて、請われたからと妻を差し出す夫がどこにいる」


 無礼な。

 結婚式の参列者が言う事じゃないだろう。


 俺はこめかみに青筋を立てながら、口の端を吊り上げた。隣のオレリアも不快そうに眉をひそめている。


 ミゲルは昔から婚約者の俺を無視して、オレリアに再三と求婚していた。外遊のために訪れた際、オレリアを見初めたらしい。


 ミゲル・ファシナダ。35歳。

 少し癖のある黒髪に彫りの深い顔立ちで、恰幅のいい男だ。

 ファシナダ帝国の大公であり、後宮に正妃と側室を100人以上囲っている。

 俺とオレリアとは15歳も年上だ。


 年齢差のある結婚も、政略となると珍しくはない。

 だが、ミゲルはオレリアの気持ちや立場をないがしろにしすぎる。大国の要人といえど、他人の婚約者に求婚だなんて非常識であるし、100人以上いる側室の一人として欲しがっているなんて論外だ。


 それなのに昔からミゲルは、オレリアが嫌がろうとも連れまわそうとしたり、馴れ馴れしく腰を抱こうとしたりした。その度に俺が止めに入った。

 当時の俺とオレリアが12歳、ミゲルが27歳の時からだ。ふざけるなよ、このロリコンめ。


 体格のいい成人男性と子どもの俺。止めようとしても、当たり前だが一方的にやられた。

 俺は体格に恵まれず、剣術、体術ともにぱっとしなかったから、成長しても結果は同じだった。


 それでも盾くらいにはなれた。傷はオレリアが治してくれるし、すぐに騎士が止めるので大事にはならなかった。

 だが、はっきり言って外交問題に発展するような案件だ。


 しかし国王である俺の父は少しばかりの慰謝料で黙殺した。母は烈火のごとく怒ったが、慰謝料の額を吊り上げるのに貢献しただけだった。


 父が国王になってから財政は火の車で、豊かで強大な帝国に頭が上がらなかったのだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで他国を侵略していた帝国を恐れていたのもある。


 我が国オベールは、祖父の代まで強国だったのだが。父が軍事に回す財源を減らしたため、徐々に弱体化していた。

 さらに帝国と我が国の緩衝国であった国が侵略され、帝国に吸収されたことで、次は自分だと父は恐れおののいていた。


 必死に帝国の機嫌を取る父と、納得がいかない母。この時の口論で両親の仲はさらに冷え切り、それぞれの散財が加速した。

 まったく。疫病神だな。


「は! まだ妻ではないだろう。それに王や皇族の妻は伴侶を輝かせるための華だ。お前のような凡愚な王より、偉大なる皇帝の下でこそ美しく咲く。この俺が咲かせてやるぞ?」


「やめろ。貴公は妻を装飾品か何かだと勘違いしているのか。妻は夫を輝かせる花でも装飾品でもない。一人の女性だ」


 オレリアに伸ばしたミゲルの手を、俺は叩き落とした。


「確かに結婚式前で正式にはまだ妻ではないが、俺とオレリアの結婚は決まっている。貴公の入る余地はない。オレリアが俺を要らないと言わない限り、俺はオレリアの伴侶だ」

「シモン様」


 きっぱりと言い切ると、オレリアが感極まったように瞳を潤ませた。俺にはベネディクトにオレリアを譲ろうとした前科があるから、余計に響くのだろう。すまない。


「はははははは!」


 ミゲルが笑った。


「現実が見えていないようだな。オベール国が我がファシナダ帝国の要求を断れると思っているのか」


 勝ち誇り、指を突きつけてくる。

 我がファシナダ帝国ではないだろうに。


 ファシナダ帝国は遠征を繰り返し、領土を広げた国である。しかし先代の皇帝が領土拡大の際に東西に遠征した兄弟間で二つの勢力が台頭。それぞれが大公となって公国を治めている。ミゲルはファシナダ帝国西側のグラン大公だ。


「お前の国の債権は、トリュフォー男爵の商会を通じて我が国が押さえている。オレリアを渡せないのなら、今ここで耳を揃えて返せ。どうせできないだろうがな」


 やはりか。

 グラン大公国は数か月前、我が国に攻め入ろうとしていた隣国の背後をついて侵略し、支配下に置いた。その際に男爵の商会が持つ債権を手に入れたのだろう。


「できると言ったら?」

「はははは! はったりはよせ。それに万一返済できたとしても関係ない。武力をもってこの国を侵略するまでだ」

「なるほど。宣戦布告に来たというわけか」


 宣戦布告、という言葉に会場がどよめいた。

 

「お待ちください、グラン大公殿! オベール国は魔族の侵攻を食い止める砦。武力による侵略などもっての外です!」

「その通り。これ幸いと魔族が攻めてくるぞ」

「考え直しを」


 同じく招待した賓客である、共和国首相、連邦国大統領、国王がミゲルに食ってかかった。

 我がオベール国が帝国に落ちれば次は自国だからだ。故に同盟を組んでいる。


 さらにオベール国は大陸の西にある魔族領に面している唯一の国だ。我が国は丁度、大陸の細くなった部分にあり、西側が魔族の国々、東側が人族の国々に分かれている。そのため人族の砦なのだ。


「ふん。砦はオベール国そのものではなく、聖女の結界だろう。随一の聖女オレリアを俺が妻に迎えれば問題ない。それに攻めてきたところで魔族など帝国の敵ではない。蹴散らしてくれる」


 確かに砦といっても聖女頼みだ。魔族は聖女の結界を超えることができない。ただそれだけ。

 決してオベール国の軍事力が優れているわけではない。結界に守られているが故に魔族に攻め込まれたことはなく、戦いの経験はないのだ。


「なんと傲慢な」

「傲慢もなにも事実だ。東大陸も西大陸も、全て帝国が統一してやる」


 当たり前だが、式に各国の賓客を呼ぶにあたって、厳重な警備体制を敷いている。だがそれは、我が国で出来得る最善での警備だ。賓客たちも護衛を連れて来てはいるが、数十人程度である。


 ファシナダ帝国の総兵力は10万強と推定される。対する我がオベール国は、正規兵が3万ほど。

 オベール国は先代国王の散財がなくとも、ファシナダ帝国に財力、軍事力ともに及ばない。それなのに現状、軍の予算は削減され兵の質は落ちている。


 同盟国の援軍もあてにはできないだろう。軍という大規模な人数がここまで駆けつけるには時間がかかるし、王や首長が人質状態だ。下手に手を出せないはず。


 まともに戦えば勝ち目はない。


 まともに戦えばな(・・・・・・・・)


「ミゲル・ファシナダ。俺は君主の支配ではなく国民が主体の共和国を目指したいと思っているのだが。反対されてな」

「は?」


 脈絡のない俺の言葉に、ミゲルは何を言っているのだこいつは、という目を向けた。

 そうだろうな。まあ不器用な俺は順を追っていかないと説明できんのだ。少し付き合え。


「国民主体の国家は素晴らしいが、共和国の興りは往々にして革命による。革命とは君主に不満があるから起こるのであって、国民から絶対的な支持を得ている君主が立とうとしている時に革命など起こるわけがない、とな」


 普段は温厚なヴァスール公爵にそれはもう怒られた。あんなに怒られたのは、子どもの頃ひな鳥を助けようとして木から落ちた時以来だった。

 その数日後、バティストとアルマンに久方ぶりに拉致られて、城下町に連れて行かれたわけだが。閑話休題だな、話を戻そう。


 革命の原動力は国民の不満と怒りだ。


「つまり君主に不満があれば革命は起こる。貴国のようにな」

「何を言っている‥‥‥?」


 ミゲルが彫りの深い顔をいぶかし気に歪めた。


「オベール国の新しき(太陽)にご挨拶申し上げます」


 ミゲルの後ろにいた護衛たちが、俺に向かって敬礼を取った。その中の一人が進み出る。


「何だ、どういうことだ。貴様は‥‥‥!」

「革命を主導しているエイブ・コリンズと申します。お初にお目にかかります、シモン陛下」


 彼とは二度目だが、王太子時代だから国王としては初だな。


 エイブは旧隣国の元王子だ。


 ファシナダ帝国は度重なる領土拡大によって、元いた国民よりも他国民の数が上回っていた。奴隷として虐げられていた彼らの鬱屈。侵略のための徴兵と兵糧の徴収による国民の不満。追い打ちをかけるように起こった干ばつからの貧困。

 革命の土壌は整っていた。


 革命のうねりを抑えようと焦ってさらなる領土拡大を図ったのだが。それが自らの首を絞めた。


「シモン、謀ったな! こんなことをして無事に済むと思っているのか! 貴様は帝国を敵に回したのだぞ」

「心配するな。ベガ大公とは話がついている」

「なんだとっ!!」

 

 ファシナダ帝国は領土拡大によって二つの大公国を建国した。一つはミゲルが治めるグラン大公国。もう一つは先代の弟の息子が治めるベガ大公国である。大公国はそれぞれ自治権を持っているが、宗主権を持つ皇帝の座は一つ。次期皇帝の地位を狙い、ミゲルとベガ大公は熾烈な内部争いをしていた。

 敵の敵は味方、というやつだ。


 ちなみにエイブとベガ大公の間で、エイブが元隣国の土地の自治権と奴隷解放の代わりに、ベガ大公を次期皇帝として支持するという協定が結ばれている。

 今回の革命はミゲル一人が断頭台に送られて終わり。ほぼ無血だ。


「くそ!!」


 暴れるミゲルは己の元護衛に拘束され、引きずられていった。

 それをエイブがなんとも言えない表情で見送っている。


「浮かない顔だな」

「断頭台に登るのは、我が身だったかもしれませんので」

「それは俺も同じだ」


 栄光も没落も、紙一重だ。今ここにこうしていられるのは運が良かっただけだ。


 エイブと一緒になってミゲルを見送っていると、こつんとオレリアに額を小突かれた。


「今のこの輝かしい場は、シモン様の努力が作り上げたものです。何度も踏み固めた土台は、簡単に崩れるません」

「そうだな」


 俺はオレリアの柔らかい手を取った。


「式を始めよう」


 オレリアと共に赤いじゅうたんを歩くと、拍手と音楽に包まれた。

これで借金と侵略問題は解決です。

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