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28・新たな真実が明らかになりました

 ――これは、私達がかつて国王だった化け物のブレスを受けて転移してから、再び奴のもとへ転移するまでのこと。


 ゼラニウムの森の中に身を潜めていた私達は、アランさんから話を聞くことになった。


「俺が国王の秘密を知ってた、って件なんですがね。話せば長くなるんですが……俺は、元は別の世界に住んでいたんです」

「……! やっぱり、アランさんも異世界転生者ですか!?」

「いえ、俺は死んだわけではないので、転移ですかね。……っていうかフィオーレ様、異世界転生って言ってわかるんですか?」

「あ、はい。私は転生者なので」

「そうなんですか! すごい偶然ですね……。異世界転移なんて信じてもらえるか不安だったんですが、それなら話が早くてよかったです」


 アランさんは、事情を説明してくれた。


「この世界でのアランって名前も、まあそのままなんですけどね。日本での名前は、葉山亜藍(あらん)。俺が十代の頃、ある日突然、気付いたらこの世界に……ゼラニウムにいたんです。誰かに召喚されたとかでもなく、本当に偶然だったみたいで。いやもー混乱しましたよ。何もわからず、知り合いもいなくて孤独で、絶望しました。金もないし、数日間何も食べず、野宿生活で……いっそ自分で命を絶ってしまおうかと考えてたとき……ルシアヴェール様が、助けてくださったんです」


 当時のことを思い出すように、彼は目を伏せる。


「当時のルシアヴェール様はゼラニウムの王妃になったばかりで、ヴィルフォード様を授かる前でした。彼女はいつも公務をこなす合間に城下に来て、困窮している民に力を貸していたんです。それで、俺を見つけてくださった彼女は……俺の衣服を見て、転移者だと気付いてくださったんです」

「衣服を見て、転移者だと気付いた……?」

「ルシアヴェール様は、転生者だったそうです」

「何……?」


 ヴィルフォードは微かに目を見開く。息子である彼すら、その事実は知らなかったようだ。


「ルシアヴェール様は俺に、当面の生活費と、この世界の知識をくださいました。俺は、この世界で一人で生きていくために、商人を目指したんです。転移者としての知識を活かすなら魔道具職人とかの方がいいのかもしれませんが、俺は魔力もないし。あと、性格的に一人で黙々作業するより、いろんな人と関わってる方が好きなので」


 ルシアヴェール様のことを語るときのアランさんは、とても優しい目をしている。彼女を心から慕っていたのだろう。


「ルシアヴェール様からの援助を受けながら、なんとか商人として独り立ちできるようになった頃、彼女はヴィルフォード様を授かりましてね。とてもおめでたいことですが、出産や育児のため、お会いすることはできなくなりました。ですが、ヴィルフォード様が五歳になる頃……ルシアヴェール様が、密かに俺のもとへいらっしゃいました。俺に、託したいものがあるのだと。……それが、この手紙です」


 アランさんは、懐から手紙を取り出す。そこには、魔力紋が押されていた。


「これは……確かに母の魔力紋だ」

「もしもヴィルフォード様が何者かに殺されるようなことがあれば、この手紙の中身を公開してほしい、とのことでした。何故そんな大事なものを俺に、と思いましたが……理由は明白でした。俺は転移者ですから、日本語を読むことができます。日本語は、この世界の人々にとっては解読できない言語ですから。もしも王の手先に見つかっても、いくらでも言い訳ができます」


 なるほど。それで、彼が秘密を託す相手に選ばれたのか。


「重要な手紙を託されるのは、俺にとっても危険でした。ですがルシアヴェール様がいなければ、異世界転移してきたばかりの俺は、孤独に耐えられず、自ら命を絶っていたでしょう。俺は、あの方に命を救われたんすよ。ですから、あの方のためならなんでもやる所存でした」

「アランさんは、ルシアヴェール様のことを……」

「……愛していました」


 アランさんは、目を伏せてそう言った。だけど次の瞬間、はっと顔を上げる。


「ああでも、誓って、不貞とかしてたわけじゃないですよ! 俺が勝手に愛してただけです。ルシアヴェール様にとって俺を助けたのは完全にただの善意でしたし、俺の想いを彼女に打ち明けたこともないので。ヴィルフォード様は、紛れもなくルシアヴェール様とデルビスの子ですからね!」

「ああ、わかっているさ。……まあ、あの化け物の血など受け継ぎたくなかったから、いっそあなたの子だと言ってもらってもよかったけどね」

「あー……まあ、ヴィルフォード様は、デルビスには全然似てませんよ。性格も、外見も……。めちゃくちゃ、ルシアヴェール様似で……」


 アランさんはそう言うと、ルシアヴェール様のことを思い出すように、じっと彼の顔を見る。


「本当に、ルシアヴェール様似でお綺麗ですよねえ……」

「はははは、うっとりと俺の顔を眺めるのはやめてもらおうかな」


 こほんと咳払いをし、ヴィルフォードは話題を元に戻した。


「……この手紙、読んでもらえるか」

「あ、私が読みます」


 手紙は日本語で書かれていた。私はそれを読み……書かれていた真実を、ヴィルフォードは静かに受け止める。


 そこには、ルシアヴェール様がデルビスのスキルを知っていたこと……魔獣化して人を殺していたと、知っていたことが、書かれていたのだ。


 手紙の内容を聞き終えると、ヴィルフォードはあらためてアランさんに尋ねた。


「……アラン。あなたは、この手紙の内容も知っていたのだろう。何故、舞踏会の前日俺達と出会ったときに、言わなかった?」

「何故って……あれから十年以上経って、あなたの心の傷も少しは癒えたかもしれないのに。今更『実はあなたの父親は人殺しです』なんて言えないですよ。俺を襲ったあの魔獣が、デルビスなのかな、とは思いましたが……。あのとき奴が殺そうとしていたのは、あくまで俺であって、あなた達ではなかったですし。何より……」

「何より?」

「俺はあなたが復讐しようと考えてるなんて、全然知らなかったですから。愛する人と婚約して幸せでいてくれているなら、余計なことを知らせる必要なんてないと思ってたんです」


 なるほど。確かに他者から見れば、あのときのヴィルフォードは、ようやく婚約者ができて、やっと幸せになれた公爵だろう。過去のしがらみなど知らせたくないという考えにも頷ける。


「まあ、結果的に言えば、あのとき全部話してた方がよかったのかもしれませんけどね。ははっ!」


 アランさんは頭をかきながら、明るく笑い飛ばす。

 そんな彼に、ヴィルフォードはあらためて尋ねた。


「……アラン。あなたは、デルビスが罪を犯していると知っていたのだろう? 事実を公表しようとは考えなかったのか」

「……デルビスの事実を公表したら、ルシアヴェール様が懸念していた通り、あなたの立場は『殺人者の息子』になってしまいます。下手したら、奴の息子であるという理由だけで殺されてしまいかねない。ルシアヴェール様は自分の命をかけてでも、あなたを守ろうとしたんです。それを、俺が壊すわけにはいきませんよ」


 アランさんの答えを聞いて、ヴィルフォードは自分を責めるように目を伏せた。


「……そうか。俺は、母にもあなたにも、無理をさせてしまったな。罪を知っていながら隠し続けるなど、良心の呵責があっただろうに……」

「違いますよ、ヴィルフォード様」


 そこで、アランさんは確かな口調で言った。


「大人達の汚い事情は、断じて、当時まだ幼かったあなたのせいではありません。無理をさせてしまった、とかじゃない。さっきも言った通り……あなたは、守りたいと思われていただけです」


 ――ルシアヴェール様は、王の罪を隠していた。それは、王妃として、人としては許されるものではない。もし彼女が生きていれば裁かれていただろう。それでも……そこには、親としての、子への想いがあった。


「……そうか……」


 手紙の内容、そしてアランさんの言葉を受け止め……ヴィルフォードはゆっくりと天を仰ぐ。


「……やっと、真実を知ることができた。化け物が自ら母を殺したなど、想像以上に最悪ではあったがな……」


 ヴィルフォードはずっと、復讐を望んでいた。

 同時に、真実を知りたい、とも思っていたのだろう。……何故母が死んだのか、十四年もわからずにいたのだから当然だ。知ったところで過去が変わるわけではなくとも、今まで抱えていた靄が、少しくらいは晴れたかもしれない。


「……それにしても、ルシアヴェール様も転生者で、前世は日本人だったなんて」


 驚きからぽつりと零れた言葉に、アランさんが反応する。


「ええ。それに、ここだけの話なんですがね。ルシアヴェール様、前世では男だったそうですよ。元の名前は、松宮鈴斗」

「……え!?」

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― 新着の感想 ―
 最後の「……え!?」は、まさに「……え!?」だったよ!!
おや…?と思って読み返してみたらやっぱりそうだった 母は嫉妬相手でもあったとかヴィルフォードの心情は複雑すぎでしょw
衝撃の事実!同級生の男の子ですよね。 母が男の子で前世の記憶で嫉妬した相手で… ヴィルフォード君の情緒がめちゃめちゃになりそう(笑)
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