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14・掌返してきた人達を捨ててみました

 私に声をかけてきたのは、かつて友人……「友人だった」人達だ。

 婚約が破棄されるなり、ドグス達に加担して私を切り捨てた人達。

 当時のことが、脳裏に蘇ってしまう。


 ――「え? あ~、その……婚約破棄はかわいそうだけど、まあドグス様のご都合もあるし、仕方ないよね。うちとしても、ハイドランシア家を敵に回したくはないし……もう話しかけないでくれる?」

 ――「ていうか、婚約を破棄されるなんてフィオーレにも原因があったんじゃないの? よく知らないけどさ。でも私ならもっと上手くやったけどな~」


(……今更、よく私に声をかけてこられたな)


 私がヴィルフォードの婚約者という立場になったから、謝ろうとでもいうのだろうか。だとしたらずいぶん都合がいいな、とは思うけど。とはいえ、謝ってくれるというなら、向き合おう。そう考えていたのだけど――


「久しぶりに会えて嬉しいわ~。公爵様の婚約者なんていいわね! これから、また仲良くしましょ!」

「ね、最近全然お茶会とかできていなかったものね! 今度、公爵邸に遊びに行かせて!」


(――え?)


 謝罪は受け入れよう、と思っていたのに。一気に心がざらつく。

 謝りもせず、全部有耶無耶に誤魔化して終わらせる気?

 そうすれば、なかったことにできると思っているのだろうか。……いや。彼女達の中では、もう既に「何もなかった」という認識なんだろう。悪気なんて、ひと欠片もなさそうだ。


『……ヴィルフォード。私が今、この子達に言いたいことを言ったら、あなたの計画に何か支障があるでしょうか?』

『いいや、構わないさ。君の好きなように言うといい。俺は一緒にいた方がいいか? それとも、俺がいると言いづらいこともあるかな』

『言いづらい、というわけではありませんが……。そうですね、少し席を外してくださると助かります』

『わかった』


 この二人は、ヴィルフォードの前では猫をかぶって本性を出さないだろう。なので、あえて三人だけで話したかった。


「おや、フィオーレの友人達か。久々に会ったというのなら、積もる話もあるだろう。俺は先に戻っているよ」

「ああん。もう行ってしまわれるのですか、ヴィルフォード様ぁ」


 元友人達は甘えるような声でそう言ったが、ヴィルフォードは去ってゆく。彼の姿が見えなくなったところで、私は彼を真似た完璧な笑顔で、彼女達にきっぱりと告げる。


「私はあなた達と、以前のような付き合いをする気はないわ」

「え、どうして? そんなの寂しいわ、フィオーレ!」

「そうよ。冷たいのね……」


 自分が何をしたかも考えず、「冷たい」とこちら側を悪人にして、「私の申し出を受け入れないなんて心が狭い」という雰囲気にする。……結局この子達も、やることがドグスと同じだ。


「どうしてって……ドグスとの婚約破棄のあと、『もう話しかけないでくれる?』『フィオーレにも原因があったんじゃないの?』と言っていた人達と、友人には戻れるわけがないでしょう」

「え? そ、そんなこと言ったっけ?」

「……言ったわ。もう忘れてしまったのかしら?」


 記憶違いなど有り得ない。だって、私には「記録」のスキルがあるのだから。今でも、一言一句違わずあのときの言葉を突き付けることができる。


「何その言い方……私達が悪いっていうの? 私達、ちょっとすれ違っちゃっただけでしょ。だから、仲直りしましょって言ってあげてるのに」

「言ってあげてる……? 仲直りするかどうか決める権利は、自分にしかないと思っているの……?」

「なんなの、さっきから。昔のことなんて水に流してくれればいいでしょ。心が狭いわ、フィオーレ」

「そうよ。それに悪いのはフィオーレだってドグス様も言っていたし、皆がそう言うから!」


(……私は、こんな人達のことを友達だと思っていたのか)


 ふっと、自嘲のような笑みが浮かぶ。


「――『皆』がわかってくれなくても、身近な人にくらい、わかってほしかっただけよ」


 数少ない、友達だと思っていたのだ。当時は。

 でも私達は、最初から友達なんかじゃなかった。それだけだったのだろう。


「……別に、今更当時のことを責めるつもりはないわ」


 当時私に味方をすればハイドランシア家を敵に回すことになり、彼女達の立場も危なかった。そう考えれば、その点に関してはあまり責めるのは酷だ。自分を犠牲にしてまで私を守れ、なんて言うつもりは毛頭ないし、そもそも悪いのはドグスとローズなのだから。


 責めるつもりはない、という言葉に、彼女達はほっとしていた様子だった。

 だけどその直後に、私は意識して目を鋭く細める。


「でも、私が弱っていたときに寄り添ってくれることなく追い詰めるだけだったのに、今更になって掌を返してこないでいただけるかしら?」


 私の立場が上になったから、今更擦り寄って甘い汁を啜ろうなんて。そんなのは許さない。

 私の言葉に、二人は呆然としていた。当然私が許してくれて、公爵家との繋がりができると考えていたのだろう。やがて彼女達は、悔しそうに震え出す。


「そんな……そんな言い方、しなくても……!」

「あら、どんな言い方ならご満足いただけたのかしら。……どんな言い方であっても、あなた達は満足しなかったと思うけどね」


 にっこり。最後まで優美な笑みを絶やさず、別れの挨拶をした。


「私は、あなた達にとって都合のいい、公爵家とのパイプじゃないのよ。……そういうわけで、さようなら」

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