表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

第29話 二人と、ひとつの答え

 彼女たちが向かいに座り、彼は俺の左隣に、子供みたいにはしゃぎながら座った。


「なあ、お前……えっと、慧翔だっけ?」と彼が小声で言う。


 俺が顔を向けると、彼は何か大事なことを言うみたいに手で合図した。


「どうかした?」


 彼はからかうように笑い、さらに声を潜めた。


「どっちと付き合ってるんだ?」


「……え?」


「とぼけんなよ。うちの妹か、それともあっちの子か」


 最後の言葉で、彼の視線はキッチンで真昼ちゃんと一緒にいる黒川さんに向いた。


「どっちとも付き合ってないよ」


 自然にそう答えた。


 彼は残念そうな顔をしたが、すぐに食い下がる。


「じゃあ、どっちが好きなんだ? どっちかいるだろ」


「えっと……今は誰かと付き合いたいとは思ってないんだ。二人ともたぶん同じだと思うし、付き合ってる余裕ないくらい忙しいから」


「なあ、お前ほんと鈍いな。気づいてないみたいだけど……そのうちの一人はな……」


 そのとき、真昼ちゃんの視線がこっちに向いた。しかも、はっきりと怖い。


「何二人でこそこそ話してるの?」


 背筋が凍って、俺たちはすぐに首を振った。今なら彼の気持ちが少しわかる気がする。


「真昼」


 宏に呼ばれて、彼女が振り返る。


 さっきはちらっと見るだけだったのに、今は本気で何の用か気になっているみたいだった。


 だが――


「頑張れよ、ちっちゃい妹。お前にはそっちの方が必要だ」


 彼女は少し眉をひそめ、その意味を考えようとして――理解した瞬間、トマトみたいに真っ赤になりながらも、必死に平静を装った。


 結局、しぶしぶうなずいた。


「二人で何の話してたの?」


 宏は悪戯っぽく笑う。


「そのうち本人から聞けるって。楽しみにしてろ」


「お兄ちゃん、ちょっと黙ってくれない?!」


 彼は黙ったが、真昼ちゃんをイラつかせるような笑みは消えなかった。


 結局、残りの料理を運び終え、食べ始めた。


 沈黙は心地よく、聞こえるのは食器の音だけだった。


 食べ終わると、休む間もなく黒川さんが立ち上がり、真昼ちゃんと一緒に食器を流しへ運んだ。


「すごく美味しかったよ。特に天ぷらが最高だった」


「ありがとうございます」と黒川さん。「でも真昼ちゃんも半分作ってるから、そっちも褒めてあげて」


「ありがとう、坂本さん。美味しかったよ」


「い、いいよ……どうせ気に入ると思ってたし……」


「ん? 大丈夫? 声ちょっと震えてたけど」


「気にしないで、なんでもないから」


 彼女はそう言って、それ以上は聞かせてくれなかった。


 仕方なく諦める。……でもやっぱり気になる。


 そのとき、スマホに通知が来た。黒川さんからのメッセージだった。


 [明日、文芸部の誰かに小説の感想、聞いてきてほしい]


 なかなか無茶なお願いだ。あそこに知り合いなんて一人もいない。


 [自分で聞きに行けばいいじゃん。黒川さん人気だし、断る人いないよ]


 すぐには返事が来なかった。忙しいみたいだ。でも、そのうち返してくると思った。


 やっぱり。


 [あなたが行くの。決まり]


 顔を上げると、彼女の目は……明らかに見下すような目つきだった。


 背筋に冷たいものが走る。


 [わかったよ。行けばいいんだろ]と急いで送った。


 メッセージを読むと、彼女の表情はすぐにいつものものに戻った。


 それで、空気も元通りになった。


 いつの間にか夕暮れが近づき、帰る時間になった。


 玄関先で三人、少し立ち話をする。


「あ、そういえば……お兄さんは?」


 さっきまで彼女の隣にいたのに、もういないことに今さら気づいた。


「あの人はいつもそう。部屋にこもりっぱなしで、母さんも私も何してるのかさっぱりわからないの」


 こもりっぱなし……中で何してるんだろう。


「じゃあ、真昼ちゃん、おやすみ」


 彼女がうなずく。


「また明日ね、真希ちゃん、和泉くん」


 大きな笑顔で手を振った。


「また明日、坂本さん」


 こうして一日が終わった。 結局……思ってたより面白い一日だった。


 家に帰る道すがら、最近のことを黒川さんと話さないといけない。


 でもその前に――


 黒川さんは少し離れて歩き、スマホに集中していて、俺を無視しているみたいだった。


 説明してもらわないと。


「坂本さんのこと、相当大事に思ってるんだな。尾行までして」


 彼女の目が見開かれる。


「き、気づいてたの……ただ、ちゃんとやってるか見てただけで、それだけ……」


 今だ。


「本当にそれだけか?」


「嫉妬してたの。あんたたち、デートみたいだったし……私、友達と出かけたことすらないのに」


 突然の告白に、言葉が出なかった。


 顔を赤くしながらも、はっきりそう言った。


「今度、二人で出かけないか。俺たちも友達だろ」


 軽い感じで言ってみた。


「いいよ」彼女は平静を装って答えた。「それに、小説の参考にもなるし」


 らしいと言えばらしい考え方だ。


「そうだな。じゃあ来週あたりどうだ?」


 彼女は迷いなくうなずいた。


「うん。楽しみにしてる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ