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第24話 すれ違いと、思いがけない提案

 黙ったまま弁当を食べ終えた。


 片付けていると、不意に黒川さんが話しかけてきた。


「で? 弁当、どうだった?」


 突然すぎて、一瞬言葉が出なかった。


 でもすぐに、適当にごまかす。


「すごく美味しかったよ。俺より料理上手いかも」


 彼女はパッと視線を逸らした。


 どうやら予想外だったらしい。


 それから、小さくうなずく。


 認めた、ってことか。


 それを坂本さんが見ていた。


 でも、追及はしてこなかった。


 その代わり、俺に向かってニヤリと笑う。


 まるで「全部分かってるよ」って言いたげな笑顔だ。


 何を知ってるんだよ……。


 しばらくして、二人はコソコソと話し始めた。


 そして、またこっちを見る。


「ちょっと、こっち見ないでくれる?」 「真希ちゃんと話してるから」 「和泉くんの視線、なんか気持ち悪い」


 ひでぇ……。


 三人でいるのに、完全に蚊帳の外だ。


 でも、言われた通り視線を逸らした。


 二人はすぐに、何事もなかったかのように会話を続ける。


 俺の話でもしてるのか?


 いや……ないか。


 俺の話題なんて、誰の役にも立たないし。


 しばらくして、また二人がこっちを見た。


 なんだよ……。


 もういいや。


 聞いてもどうせ教えてくれないだろうし。


 そのうち、休み時間終了のチャイムが鳴った。


 二人は軽く別れの挨拶をすると、黒川さんはさっさと自分の席に戻っていった。


 完全に無視された形だ。


 家に帰ったら話そう。


 なんだか避けられてる気がする。本人は隠してるつもりなのかもしれないけど。


 でも、その後もずっと避けられ続けた。


 放課後。


 坂本さんを待つため、校門の前で立ち止まる。


 今だ。


「黒川さん……なんか俺に不満とかある?」 「もしあるなら、遠慮なく言ってくれていいから」


「え? 別にないけど?」 「何か不満に思うようなこと、あったっけ?」


「それは……俺が聞きたいんだけど……」


 予想外の返事に、言葉が詰まる。


 その時、坂本さんがこっちに走ってきた。


 また今度だな……。


 仕方ない。三人でいる時に、なんとか切り出すか。


「ごめんごめん、待った?」 「ちょっと片付け遅くなっちゃって」 「よし、行こっか」


 突然、坂本さんが俺の腕に抱きついてきた。


 まるで彼氏みたいな扱いだ。


 でも顔は、ただの優しい笑顔。


 俺は黒川さんを見る。


 彼女はジッとそれを見ていた。


 何を考えているのか、読み取れない表情。


 でも一瞬だけ、チラッと睨まれた。


 すぐに目を逸らされた。


 何とか話しかけようとした。


 でも……。


「真希ちゃん……どうかした?」


 坂本さんに声をかけられ、黒川さんは小さく首を振った。


 それから、ふっと笑う。


「ううん、何でもない」 「ちょっと考え事してただけ」


 坂本さんは一瞬迷ったようだったが、深くは追及しなかった。


 俺も、何も言わなかった。


 三人でファーストフード店に向かう。


 坂本さんがずっと言いたがっていたことを聞くためだ。


 席に着き、飲み物を注文する。


 それから彼女は、ゆっくりとリュックを開けた。


 中から何枚かの紙を取り出す。


 紙には──


「二人が書いてる小説、私がイラスト描きたいの」 「そのために、今朝描いたやつを見てほしくて」


 想像もしていなかった提案だった。


 彼女は誇らしげに紙を差し出す。


 そして、また席に座った。


「どうかな?」


 紙には、いくつかの絵が描かれていた。


 男女が楽しそうに何かを共有している絵。


 別の女の子が、前を向いてポーズを取っている絵。


 何枚も続いている。


 ライトノベルっぽい絵柄だ。


 しかも、めちゃくちゃ上手い。


「すごく上手いけど……これ、どういうこと?」


「二人と一緒に仕事したいの」 「あんたたちの小説に、イラストを描きたいんだよ」


 ………………


「──え?」 「──え?」


 黒川さんも俺も、あまりに予想外すぎて固まった。


 坂本さんがジッと俺を見ている。


 早く反応しろよ、って顔で。


「えっと……なんて言うか……」 「急すぎて、今は何も言えない……」


 黒川さんもうなずいた。


 二人とも、どう反応すればいいのかわからない。


「ダメなの? いいじゃん、やろうよ」 「それとも、嫌だった?」


「いや、そういうわけじゃなくて……」 「あまりに急で、頭が追いつかなくて」


「私も正直、びっくりしてる」 「でも、真昼ちゃんと一緒に仕事したい」 「だって、友達だもん」


 坂本さんは一瞬きょとんとした。


 何かブツブツ言っている。


 それから急に立ち上がり、黒川さんを抱きしめた。


 まるで妹が褒められたみたいに。


「真希ちゃん……ありがとう!」 「やっぱりわかってくれると思った!」


「どういたしまして」 「三人で一緒にできるなら、私も嬉しいよ」


「黒川さんがそう言うなら、俺もそれでいい」 「それに、絵もすごく上手いし」


「えへへ……ありがと」 「これからよろしくね、二人とも」


 そうして、小さな会議は終わった。


 これから時々、彼女と打ち合わせをすることになった。


 * * *


 そして、約束の日がやってきた。


 あの日以来、坂本さんとはほとんど話していない。


 電話以外では。


 坂本さんと黒川さんは、何やら準備していたらしい。


「絶対うまくいくように」って。


 黒川さんも色々アドバイスしていたみたいだ。


「デートを成功させるには、こうした方がいいよ」って。


 デートって、そんな準備が必要なのか?


 よくわからないけど……まあいいか。


 しばらく歩いて、待ち合わせ場所の時計台の前に着いた。


 今朝、黒川さんは図書館に行くと言って出ていった。


 なんだか様子がおかしかった。


 一緒に住み始めてから、あんなのは初めてだ。


 それに最近、ほとんど話していない。


 小説の進捗について、少し話すくらい。


 あとはもう……まるで幽霊と暮らしているみたいだ。


 どう話しかければいいのか、わからない。


 それに、日を追うごとに難しくなっている気がする。


 このままじゃ、小説にも影響が出そうだ。


 話しかけようとすると、無視されるか……部屋にこもられるか。


「和泉くん〜、こっちこっち!」


 顔を上げる。


 遠くに坂本さんがいた。


 やけに輝いて見える。


 髪もきちんとセットしていて、白い夏のワンピースがよく似合っていた。


 学校では制服姿しか見ていなかったから、余計にドキッとする。


 彼女はこっちに走ってきた。


 ずっと待ってました、って感じの輝く笑顔で。


「ごめんね、待った?」


「いや、俺もさっき来たところ」


 彼女はホッとした顔で、小さく息を吐いた。


「よかった〜」 「じゃあ……今日はどこ行きたい?」


 その質問、普通は俺がするやつなんだけど……。


「どこでもいいよ。君の行きたいところで」


 彼女は俺の腕を取って、にこっと微笑んだ。


 なんか……胸、小さい?


 いや、制服だと隠れてただけかもしれない。


 今は服が薄いから、余計に……平らに見えるだけで。


「どうしたの? ジロジロ見ないでよ……気持ち悪いから……」


「あ……悪い。そんなつもりじゃなかった」


 彼女はまた微笑んだ。


 今度は、少し照れくさそうに。


 それから、決めていたらしい場所に向かって歩き出す。


「よし、行こっか」


 俺は何度かうなずいた。


「どこ行くの?」


「──えへへ、秘密〜♪」




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