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第21話 疑いが一つ減った

 彼女が来る前に、もう場所は全部伝えてた。部屋の正確な位置まで。


 [着いたよ。ドア開けてくれる?]


 返信はしなかった。ただ玄関まで歩いて、何も考えずに開けた。


 開けたら、そこにいた。まだ制服、完璧に着こなして。廊下の光が顔に当たって、抑えた表情が浮かび上がってた。困惑……それとも、悲しみに近い何か。これから聞くこと、なんとなく予感してるみたいだった。まだ確信したいわけじゃないけど。


「入って。寛いでって。黒川さんは最初の部屋」


 一瞬だけ迷ってから、入ってきた。俺の言葉の意味を理解した時、驚きが彼女の顔をよぎった。


 坂本さん、何も言わなかったけど、一瞬だけ表情が強張った。


 それでも、部屋に向かって歩いた。ベッドに寝てる黒川さんを見た瞬間、顔色が変わった。頭の中で、いろんな考えが渋滞しちゃってるみたいに。


「真希ちゃん……大丈夫?」


 黒川さん、ゆっくり起き上がった。まだ体調不良の重さが動きに出てたけど、それでも笑った。


「お見舞い来てくれてありがと。でさ、何か言う前に、話さなきゃいけない大事なことがあるの」


 坂本さん、うつむいて、それから無理やり優しい笑顔作った。


「何の話? でも……でも、なんとなく想像つくかも」


 声、だんだん震え始めた。彼女にしては、なんか変。それを見て、黒川さんもその反応の理由に気づいたみたい。


「そうじゃないから、心配しないで。全部に理由があるの。それを話そうとしてるの」


 うなずいたけど、まだ不安そう。黒川さん、その瞬間を逃さず話し始めた。先に俺に隣に来るよう合図して。


「なんて言えばいいかわかんないけど、言わなきゃ。隠したままは、やっぱイヤだから」


 坂本さん、緊張しながらツバ飲み込んで、真剣に聞いた。


「まずね……」続ける前に、黒川さんが俺を見た。無言で『言っていい?』って聞いてるみたいに。


 彼女の目の迷いを見て、うなずいた。その小さな合図が、勇気になったみたい。


「あのね……和泉くんと私、婚約してるの……違う、そうじゃなくて——」


「おい、何言ってんだよ。説明するのはそっちじゃなくて、なんで俺たちが——」


「真希ちゃん、あんた……あんた……」


 なぜか、彼女泣き始めた。


 突然、熱が消えたみたいに、黒川さんが慌てて手を振った。


「それ嘘。違うの、私、ただ……間違えた。本当に言いたかったのは、和泉くんと私はただの創作仲間。それだけ」


「マジ? 本当に付き合ってるとか、そういうの全然ないの?」


「ないない、付き合ってない」


 二人で同時に答えたら、坂本さんが小さく笑った。


「あの二人、すぐにね……」自分に言い聞かせるみたいに呟いて、考え込んだ。それからまた顔を上げて俺たち見た。「じゃあ……一緒に住んでるってこと? それに、どんな仕事?」


 ………………………… …………………… ……………


 結局、全部説明した後で……


 俺たち、幼なじみなんかじゃなかった。ただの隣の部屋の住人。


 それに、「仕事」ってのも、ちゃんとした仕事じゃなくて、お互いの才能認めて一緒にやろうって決めただけのこと。


 彼女が住めるように、俺の両親に言ったことも説明した。でも全部は話さなかった。


 少なくとも、父さんと真夜には。最初からすごく気に入ってたみたいだけど。


 時々、坂本さんの顔に、疑いと安堵が混ざってた。まだ全部処理しきれてないみたいに。


「嘘ついてごめん。怒られるかもって思って……それで……もう友達やめたいとか、思われたくなくて」


 黒川さん、うつむいて言った。声に、明らかな後悔があった。


「そんなこと言うわけないじゃん!」坂本さん叫んだ。それからベッドに近づいて、隣に座った。「真希ちゃんは私の唯一の友達だし、絶対に離れたりしないよ。ていうか、二人で住んでるって超ビックリなんだけど、もしかしたらね——」


「違う違う。それは無理だから。私たち、そんなこと絶対しないし」


 黒川さん、いつもと違う強さで遮った。まるで、その可能性自体がなんか嫌な感じみたいに。


 そのやり取りの後、坂本さんがなんか違う笑顔した。頭の中で、何かがハマったみたいな。


「アイデアあるんだけど。めっちゃいいアイデア。でもそのためには、二人がどんな話書いてるのか知りたいの。承認欲しい」


 黒川さんと目が合った。多分、同じこと考えてた。俺的には、全然問題ない。


「俺はいいよ。黒川さんは?」


 彼女は驚いてないように見えた。でも、提案に対してちょっと慎重そうだった。


 彼女が答える前に、坂本さんがまた先に言った。


「今すぐ返事しなくていいよ。ていうか、明日放課後に証明するから。絶対OKしてくれるって」


 あの自信に満ちた話し方と、輝くような笑顔を見ると、疑うのは難しかった。


「いいよ。そんなに自信満々だと、何見せてくれるのか逆に気になっちゃうし。和泉くんも、それでいいよね?」


 彼女の落ち着いた口調が、決心を固めた。それでとりあえずこの話は終わり……ってより、むしろ新しい謎ができた感じ。一体何を企んでるんだ?


 坂本さん、俺たちの返事聞いて、小さく飛び上がって喜んだ。


 その仕草を見て、黒川さんがほんの少し笑った。隠し笑いだけど、完全に心からのやつ。


 当然だよな。だって親友だし……それに、これからうちのプロジェクトに加わるかもしれないんだし。


 何を見せてくれるんだろう? もしかして小説書いたことあるとか? それとも全然違う何か?


 その質問は後回しにしよう。お見舞いに来てくれたんだし、ちゃんと対応しないと。


「坂本さん、ちょっと待ってて。せっかく来てくれたし、何か飲み物でも——」


 彼女、手を振って否定した。


「いやいや、気にしないで。ていうか、私も真希ちゃんの看病手伝いたいし。だって親友だし……それに、あんたのこと信用できないし」


 なんの脈絡もない言葉で、余計に混乱した。


「信用できないって、どういう意味?」


 坂本さんと俺が微妙な空気で見合ってると、黒川さんがこっそり笑った。明らかに状況を楽しんでる。


「大丈夫だよ、坂本さん。この人、変なことなんてできないから。ていうか、『守る』って約束したし……信じてるから」


 それでも坂本さんは、もう数秒、疑いの目で俺を見てた。その視線がだんだん和らいで、結局ため息ついた。


「わかったよ。真希ちゃんがそう言うなら、信じる」


 その言葉、意外とホッとした。


「いい友達持ったな、黒川さん」


 彼女は柔らかく微笑んだ。でも坂本さんの方は、照れがめっちゃ出てる。


「べ、別に……真希ちゃんのためを思ってるだけだし……それに、私の唯一の友達だし……」


 彼女の言葉、感情がこもってた。特に、クラスメートの二人が一緒に住んでるって知った後だから。


 なんとか受け入れてくれたみたいだけど……ただ、俺の両親に話したことだけは、絶対にバレないでほしい。もしバレたら……


 部屋出て、キッチンで何か飲み物用意した。


 戻った時、すぐには入らなかった。邪魔しないようにノックしようかと思ったけど、その前に中から俺の名前が聞こえた。


 遮らなかった。ドアの向こうで、じっとして聞いてた。良くないってわかってるけど、好奇心には勝てなかった。


「よかった〜、なんか変な感じかと思った」坂本さん、まだちょっと緊張残した感じで言った。


「ううん、全然悪くないよ。むしろ逆。すごく優しいし」


「ふふ〜、もしかして好きになっちゃう? やだよ、許さないからね。ははは」


 二人、自然に笑った。まるで軽くて無邪気な秘密を共有してるみたいに。


 へえ……無駄な心配だったみたい。そろそろ入るか。


 タイミング逃さず、ノックして入った。


「はい、お茶。口に合うといいけど」


 笑い声、すぐに止まった。でも目にはまだ楽しそうな輝きが残ってた。


 テーブルの上に置いた。坂本さん、お辞儀してお礼。


「楽しそうだな」つぶやきながら、二人見てた。


 黒川さん、さっきより元気そうだった。正直、具合悪いのにあんな自然に笑うの、なんか変な感じ。


「女子トークしてただけ〜」小さく笑いながら言った。


 坂本さんも共犯者みたいにうなずいた。俺には絶対に理解できないことを共有してる感じ。


 あんまり気にしないことにしたけど……


「なんかお前ら、共通点多くない? ずっと前からの友達みたいだな。ていうか、親戚の姉妹みたい」


「え?」


 二人、同時に驚いて、それからお互い見合った。


 すぐに、二人して真剣な目で俺を睨んだ。


「深い意味はなくてさ……良い意味で言ったんだけど。なんか悪かった?」


 突然、坂本さんが黒川さんをギュッと抱きしめた。まるで生き別れの妹を見つけたみたいに、嬉しそうに笑って。


「全然悪くないよ。ていうか、私たちのことそう思ってくれるの、なんか嬉しい」


「え?! なんで急に? でも……和泉くんの言う通りかもね」


 二人、なんかいつもより距離近い。本当に同じこと考えてるのかな……


 話と笑い声が続くうちに、気づけば夜も更けてた。


 そろそろお見舞いタイム終了。黒川さん、またベッドに戻った。熱だいぶ下がったし、この調子なら明日にはかなり良くなってそう。


「じゃあね、真希ちゃん。また明日学校で。もし来なかったら、またお見舞いに来るから」


 黒川さん、優しくうなずいた。


「うん、またね、真昼ちゃん」


「坂本さん、送ってくよ。それまで休んでて」


 彼女もう一回うなずいて、俺は坂本さんと一緒に部屋出た。


 もう夜だった。静かな通りは、街灯だけがぼんやり照らしてた。こんな時間に一人で帰らせるわけにはいかない。何かあったら、絶対に後悔するから。

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