第16話 「これって……デート?」
二人で朝食を終えると、彼は前日と同じように、まるで当たり前のように皿を下げ、流し台へ運んだ。不思議なことに、彼は昨日からずっとこんな感じだ。
「私が……洗うわ。あなたは休むか、出かける準備をしてて」
私が自分の皿を下げる前に、そう言った。
彼はまだやりたがっていたが、結局は私が説き伏せた。もう……こういう時に頑固になるんだ。じゃあ、あの時『守る』って言ったのも、同じくらい真剣なのかしら?
いや、違うわ。結局のところ、私たち知り合ったばかりなんだから。
「いったい何を考えてるのよ……?」
私の頭は、自分でも持っていたくないようなばかげた考えでぐるぐる回り続けていた。でも、なぜかそれが浮かんでくるのを止められなかった。
早く片付けないと。
◇◆◇◆◇
黒川さんは昨日から少し様子がおかしい。
もしかしたら、母と真夜の訪問が、俺が思った以上に彼女に影響を与えたのかもしれない。
それを心配すべきだろうか……いや、必要ないと思う。きっとすぐに元に戻るはずだ。
とにかく、急いで支度をしないと。一日中暇なわけじゃない。
出かけるためにカジュアルな服に着替え、リビングへ出て、黒川さんの部屋の前で立ち止まり、彼女を待った。
なぜそうしているのか、正確にはわからない。心の底では、ある考えがあったけど。
ただ一緒に出かけて、一緒に帰ってくるだけだ。彼女の部屋の前に立ち尽くしている理由なんて、頭の中を巡っていること以外にない。
それでも、彼女が部屋から出てくるまで、そう長い時間はかからなかった。
彼女はとても素敵に見えた。春らしいカジュアルな服装で、黒い鞄を肩から下げている。
ストレートでつややかな髪と、その服装が、俺を完全に魅了した。
俺の口からは何の言葉も出てこなかった。何か言おうと考えたことさえなかったかのように。
「どうかした?」
俺がじっと彼女を見つめているのに気づき、彼女はいつもの冷たい表情でそう言った。
「え? いや、気にしないで、何でもないよ。そんな風に見つめてごめん」
「気にしないで……ただ、二度としないでくれる? 気持ち悪いから」
「ああ……もう行かないと、遅くなっちゃうよ」
彼女はうなずき、俺たちは急いで部屋を出た。エレベーターを降りている間、疑問が頭に浮かび始めた。
今考えてみると、これってデートなんだ。ただ彼女とどこかに出かけるだけで、それがわかる。幸いなことに、緊張はしていない。そうなったら、事態を悪化させるだけだ。
「慧翔くん、どうかした?」
俺は頭が真っ白になって、ばかげたことを考えていたようだ。もしかしたら、よく眠れていなかったのかもしれない。
「いや、ただよく眠れなかっただけだ。気にしないで」
俺の返事に彼女はうなずき、エレベーターが止まるまで、再び沈黙が訪れた。
理解できない、気まずい沈黙に包まれながら、俺たちはエレベーターから出た。
その気まずい沈黙を、エレベーターを出た時からずっと保ちながら、俺たちは中心街へ向かった。
このままじゃ、今日の買い物を楽しむことなんてできない……
「何がしたい?」
沈黙を破るつもりでその質問をしたが、それでも彼女の返事はいつものように冷たかった。
「別に……そういえば、一つだけあるわ」
彼女の目に浮かんだ、自分が何をしたいか正確にはわからないような曖昧さに、俺は食い下がった。
「何がしたいんだ……?」
俺が言い終わる前に、彼女は遮った。
「いくつか質問してもいい?」
「え? なんで急に?」
黒川さんは、さらに冷たくなり、ほとんど軽蔑に近い目つきで続けた。
「黙って、はいかいいえで答えなさいよ」
「わかった。何が知りたいんだ?」
彼女は考え込んだ。まるで質問を準備しておらず、どこから始めようか決めているようだった。
「私がこんなこと聞くの変かもしれないけど……あなた、どんなタイプの女の子が好きなの?」
その質問は、俺が聞くとは思っていなかった最後のものだった。なんでそんなことを聞くんだ?
彼女の全く動じない顔は、それが単なる好奇心ではないことを物語っていた。別の理由があるに違いない。ただ、彼女がそれを教えてくれるとは思えなかった。
「うーん……特にこれって人はいないな。特定の好みはないけど、もし何か挙げるとしたら……料理ができる人、かな。うん、それだけだ」
彼女は手を顎に当て、俺の答えを分析しながら、何か独り言のように呟いた。
「ありがとう。今のところ、それで知りたかったことは全部よ」
彼女の言葉とは裏腹に、特に感謝しているようには見えなかった。
「で、買い物も終わったことだし、これからどこに行く?」
大した買い物ではなかった。後で何か作るための材料を少し買っただけだ。
せいぜい三十分しかかかっていなかったから、まだ何か別のことをする時間はあった。
「わからないわ。あなたは? 行きたいところとかある?」
俺の提案に、彼女は驚いたように俺を見た。俺が彼女に質問を返すとは思っていなかったようだ。
何と答えるか一瞬迷ったが、よく考えた後、決心がついたようだった。
「どう思うかわからないけど、何か飲みに行きたい。それだけ」
「あんた、要求少ないな、見たところ。もっと別のことを提案してもいいのに」
彼女は自分の提案についてまた迷った。まるで完全には納得していないようで、最終的に決断した。
「実は、それ以外に何も思いつかないの。それに……」
「『それに……』? 聞いてもいい?」
彼女は長いため息をつき、俺のしつこさに折れたように、考えていることを説明し始めた。
「服を買いに行きたいんだけど……」
……………
なるほど……そういうことか。なんで前から気づかなかったんだろう……?
「いいよ、行こう」
それに、彼女に付き合うって言い出したのは俺の方だ。そんなことで緊張するべきじゃない。
「でもその前に、買ったものは部屋に置いていかないと、だよね?」
彼女の言う通りだ。そうすれば荷物が軽くなる。
「そうだな。それに、ここからそんなに遠くもないし」
そう言って、二人でマンションに戻った。俺は部屋まで上がり、彼女は一階で待っていることにした。
わざわざ上がってまた出てくるのが面倒だったんだろう……
結局、買い物を置くために一人で部屋に戻り、すぐに下りてきた。黒川さんが待っているところへ。言い訳は単純だった。
「あなたが行ってよ。ちょっと休憩したいから」
彼女はそこに留まり、俺はすぐに戻って、これを早く済ませようとした。
まだ、なぜ彼女がそんな質問をしたのか気になっている。
「『俺のタイプ』、か……?」
実際にそんなこと考えたことはなかったが、彼女がその考えを頭に植え付けた今、はっきりした好みがないことに気づいた。誰でもいいんじゃないか……
いや、そんなこと考えないほうがいい。考えるだけでクラクラする。それに、今のままがいい。ネットの掲示板で読んだけど、彼女がいるってのは頭痛の種らしい。少なくとも、多くの人がそう言ってた。
「構いすぎ」「何でも怒る」というコメントが一番多かった。海外の掲示板だったけど、日本人の返答もあった。
それを読んでから、誰かと付き合いたいという気持ちは完全に消え去った。
そんな考えは横に置き、また黒川さんと合流した。彼女は誰かにLINEを送っているようだった。
俺の存在に気づかなかったが、それでも自然に近づいた。
「戻ったよ」
彼女は驚いて小さく跳び、俺だとわかると、いつもの態度に戻った。
それでも、彼女は慌ててスマホをしまい、俺たちは再び中心街へ歩き始めた。
彼女が誰と話していたのか聞く権利はなかった。だから、考えるべきでもなかった。
「慧翔くん、今もう一つ質問してもいい?」
「ああ。何だ?」
「……慧翔くん、坂本真昼さんのこと、どう思う? ほら、女性として」
待って……最後の部分、どういう意味だ? もしかして、坂本さんのことが好きだと思ってるのか?
いや、そんなの馬鹿げてる。考えただけで、人生で最もばかげた考えに思える。きっと彼女は別の意味で言ってるんだ。
別の意味で……
「うーん……そばにいてくれるすごくいい友達だと思う。たまにちょっと変だけど」
答えた後で黒川さんを見ると、彼女の表情は、とんでもないことを聞いたばかりだと言っているようだった。彼女の目は真剣で、少し不愉快そうだった。
「なるほど……そういう風に見てるのね。かわいそうな真昼さん。~」
「最後の部分、どういう意味だ? 俺が知らないこと、あるのか?」
「いや、何でもないってことにして。余計な時間使わないで、行きましょう」
彼女は俺を待たずに先に歩き出した。まるで、その話題を続けるのを避けたいかのように。
彼女についていくしかなかった。
「おい、ちょっと待てよ」
結局、俺たちはまた並んで歩くことになった。
人の多いエリアを通りかかった時、彼女は徐々に人混みの中に紛れていき、気づけばもう私のそばにはいなかった。
振り返って彼女を探し、数歩後ろにいるのを見つけた。彼女のいる方へ歩いていった。
まあ、彼女についていくしかない。
「おい、ちょっと待てよ」
結局、俺たちはまた並んで歩くことになった。
人が多くいる場所を通りかかった時、彼女は徐々に人混みの中に紛れていき、気づけばもう俺の後ろにはいなかった。
振り返って後ろを見ると、彼女を見つけることができた。彼女の方向へ歩いたが、人の流れが彼女をあちこちに押しやっているようだった。
彼女が人混みの中で溺れそうになっているのを見て、俺は人混みに飛び込み、彼女の手首をつかんで、外へ引っ張り出した。
彼女をそこから出すことだけに集中していて、彼女の手を握っていることさえ気にしていなかった。
「ちょっと、慧翔くん! 私の手、握ってる」
強く握りすぎないように、彼女を傷つけないように気をつけながら、彼女を人混みから連れ出した。彼女を見ると、顔が少し赤くなっていた。彼女にとってはあまりに突然すぎた……すぐにわかった。
少し間を置き、彼女の手を離した。
「もう迷子にならないように、握ったままにしとくべきだと思うけど」




