[9]魔物の影と聖女の終幕
「リード様はあっち行っててください!僕が見てるので」
「なんでそうなるんだ」
「戦闘狂に見守られる方が荷が重いですよ」
「殺人未遂犯に言われたくないな」
「なっ……!」
話し声が聞こえ目を覚ます
「目が覚めましたか?ソフィー様」
「うん。あ!シルファはどう?調子とか」
「あの後寝てしまったんですけど悪夢も見なくなりました!久しぶりに笑顔の家族と話すことが出来ました。ありがとうございました。それに毒の事もほんとどう償えばいいのか」
頭を下げるシルファに私は首と手を振る
「いいのよ。あんなこと大したことじゃないわ。救える人がたまたま貴方だっただけよ。それに気にしてないって言ったでしょ?」
「ソフィー様……」
シルファは赤くなって下を向いてしまった
「我はまだ許してなどおらぬぞ!!」
尾をブンブン振って怒りを表すウエル
「それは……否めません」
「せっかくだ。これも統括者になるための1歩としてソフィーに試練を与える」
「試練?」
「簡単だ。殺人未遂による薬師シルファを裁く事。今後は気にしていないとかでは済まされない事も沢山ある
心を鬼にして裁く事を命ずる」
「私が……裁く……」
「ここはソフィーが治める国とは違うが裁くのも上に立つ者の務めになる」
「………」
(正直この場から逃げだしたい。けど逃げる訳にもいかないわ。きちんと私がやらないと)
「分かったわ。私やる」
フッとリードは笑う
「なーんてね。裁くのは基本こっちに回してくれて構わない。『正義の国』なんでね」
ポカンとソフィーは思考停止してしまう
「すまんすまん。ただその覚悟を聞けたから良かった
まぁ、シルファの処遇はこちらで決めるもし死罪にしたかったら今のうちに伝えてくれると助かる」
「そんな死罪なんて」
「冗談だ。でももう罰は決まってる」
「どんな罰にしたの……?」
「ソフィーに近づくこと1週間禁止令」
「えー!!そんな!」
シルファが突然大きな声を出したのでビックリしてまた固まる
「ソフィー面白い事にシルファはソフィーの事を好きになったらしい」
「リ、リード様何故それを言ってしまうのですか、、、」
「私の事を……」
「我は許さぬぞ!今後は3メートル以内には近づくではないぞ小僧さもなくば丸呑みにしてやろう」
「ウ、ウエル落ち着いて」
「確かに僕のしたことは許される事ではないのは分かっている。だからせめて2.5メートルで」
「ダメじゃ!」
「そんな、、、」
「シルファ、あのね私好意を持たれたことなくってそのどう返事したらいいかとか分からないの。でも気持ちは嬉しいわ」
「いやその、僕も好きな人ができるのは初めてで……」
「はいはーい。ここらで終わり!ソフィーは忙しいからこれにて失礼する」
「リード様!もう少し話す機会を!」
バタン
「あ、」
ぺたりと崩れ落ちるシルファであった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ふぅ、一段落ついたな。それに思ったことがあるんだけどソフィー巻き込まれ体質過ぎないか?」
「私が?」
「自覚ないならいいや。話は変わるがこれから街を案内する歩いて案内すると夕暮れになるから馬車で回って必要な所は降りて解説って形でいいか?」
「リードに任せるわ。そしたら私部屋に戻って準備するわ」
「俺も馬車の手配をするからゆっくりでいい。終わったら外でララと共に待っていてくれ」
「分かったわ」
リードと別れて屋敷に戻ると心配していたララがそこにはいた
「ソフィー様!」
駆け寄ってぎゅっと私を抱き寄せて泣いていた
「私は大丈夫よ。ララこれから街に出るから付き添いお願い出来る?リードも一緒なんだけどリードにそう言われて」
「もちろんついて行きます。ですがその眼帯はどうしたのですか?」
(そういえばここら辺の話してなかった。なんて言えば……あ!こういえば)
「オ、オシャレよ!今どきはこれが流行ってるとか!」
「そうなんですか?私トレンドとかに疎くて。すごいですねソフィー様は
そしたら部屋に戻って必要な物をまとめましょうか」
「えぇ、そうしましょ」
(誤魔化せたけど、複雑な気持ち、ね)
部屋につくとララはカバンを持ってきた
「入れ物はありますか?無ければこれを使ってください」
「これは」
「このカバンは30分前に華來様から届けられたものです」
「華來から?」
「はい伝言もお伝えしますね『上質な布が届いたから作っておいたよ。使ってくれると嬉しいな』と」
「本人に直接お礼を言えないかしら……」
「それならリード様に後でご相談されると良いと思います」
「リードに?」
「はい!この世界は今まで手紙のやり取りとかだったんですけどつい最近と言っても300年前からあるとある方法で連絡をすることが出来るんです!」
「とある方法?」
「それは馬車で話しますね!そしたら荷物詰めちゃいましょう」
(ノートとペンに……あとは……何もないわね!)
「これで大丈夫だわ」
「ノートとペンだけでいいのですか?」
「他に持ってきた物もないから……うーん万が一に備えてあれも入れておこう」
私は華來がくれた護符と本を入れた
「これで今度こそ大丈夫だわ」
「分かりました。そしたら参りましょうか」
2人で屋敷の外で待っていると馬車が来たがリードがいなかった
すると御者が急いでこちらに走ってくる
「すみません。ソフィー様、リード様は今急な魔物退治の依頼でそっちに向かってしまいました。すぐ終わらせるとの事です。多分ですが、15分頃戻ってくるかと思います」
「分かったわ。ありがとう」
「最近リード様は魔物狩りに忙しいんですよね。なのでこういう事が度々起こってしまいます」
「魔物ってこんなに出没するの?森ならまだしもここは魔物も寄りにくいはずだし」
「確かにソフィー様の仰る通りなんです。ここ数ヶ月は魔物の量が大幅に上昇しています。チェシーヌ王国全域で発生しているんですが、我々の国が特に魔物の出没が明らかに多くなっていて兵士の数では対処が困難になっているのです」
「でもわざわざリードが赴く必要があるってことは強い魔物もいるって事かしら?」
「はい。冒険者などのランクで表すとA+の魔物が多く出没するようになって兵士も冒険者も皆怪我を負ってしまっていて、早く対処するのが最もなんですけど元凶が分からないと聞きました」
「元凶が分からずじまいなのね」
「魔物のせいで他国との交流も阻まれていて最近は物価が少し上がってしまったんですよね。物資などを無事に運ぶ為に優秀な冒険者を雇ったりするからと言われています」
「他の国はどうなの?魔物の出没とか」
「他の国も同じなようで各地で作戦とか考えられているんですけど全く効果はないようです」
「、、、」
(だとしたら私結構お邪魔な気が……!!統括者になるとはいえど他の統括者達に迷惑かけてる訳で、私がいない方が捜査も捗るのでは!?)
私が悶々としていると声をかけられる
振り返るとそこにはルシアがいた
「ソフィー様、薬の件は私の失態でございます。本当に申し訳ございませんでした。シルファの方もしっかり絞っておきましたので今後は一切このような事が無いことを誓います」
「ルシア……良いのよ。この通り私は無事な訳だし」
「ですが、目が……」
私は慌ててルシアをララから遠ざけて耳打ちする
「この目のことララには言ってないの。オシャレって事にしてて」
「っ!私としたことがすみません」
一緒にララの元に戻る
「目がどうかしたんですか?」
「眼帯がオシャレだな〜っと思ったのよ」
「私も眼帯付けたらどうです?似合っちゃったりして」
「貴方は怪我するわよ」
「あ、確かに、、、私は流行りにものれないだなんて!」
「落ち着いてちょうだい」
「はい……」
「それで……リード様は?」
辺りを少し見渡してから聞かれる
「魔物が出没したみたいでそれの殲滅をしに行ったみたい」
「また、なんですね。リード様は戦ってる場合じゃないのに……チッ全く使えない兵士共ですね。時間があれば訓練兵を私が厳しく指導します」
「ルシアは強いの?」
「そっか!ソフィー様は知らないんですね!我らがメイド長兼統括者側近のルシア様はとても強いです!」
「説明になってないわ」
「でもルシア様は強いです!誰と比較したら分かりますかね」
ララは考えるように思考を巡らせる
「早い話です。訓練兵達を一斉に私にかかってくるように命令を出せばいいのです」
「それじゃオーバーキルのような気がしますが」
「この国の兵士を務めるのならば私に傷1つ付けること。これが出来なければ訓練兵からは登ることは出来ません」
「そうとなったら訓練兵のいる所まで行きましょ!リード様も丁度いませんし良い暇つぶしになりますよ」
「ソフィー様がいることで訓練兵の意識も上がるでしょう」
「だったら少し見学させてもらおうかしら」
グイグイと引っ張られながら訓練兵のいる訓練場に向かう
カン/カンカン/
と木のぶつけ合う音が聞こえる
訓練場に入るルシアに続こうとすると他の兵士に止められた
「貴方は?見たことない顔ですね」
「私は……」
「この方は時期統括者様のソフィー様です」
「!!それは申し訳ございませんでした!」
「きちんと私の言ったこと守れているようで安心したわ」
「ハッ!ルシア様には沢山の事を教わりこのように成長出来ま……」
シュッ/
兵士はドサッと後ろに倒れる
「少しは成長したかと思えば……隙を作るなと何度も教えたはずだ。剣を取られ首を狙われる戦場ならばお前はとうに死んでいる。いい機会だお前も来い私が一から鍛え直してやろう」
訓練場に近づくに連れて訓練兵達がこちらを見て駆け寄る
「ルシア様どうかされたのですか?」
「今から私に皆でかかってきなさい。もちろん真剣で」
「真剣で、ですか?」
1人の訓練兵が戸惑いがちに尋ねる
「もちろんよ。分かったなら30秒で支度して戻ってきなさい」
ルシアは自身の武器を取り出す
「このモードに入ったルシア様は誰も止められません。ソフィー様あそこに座って見てみましょう!危ないですし」
「え?えぇ」
訓練兵達は真剣を持ちルシアを囲う
「ルールは簡単。5分以内に1人でも私に傷を付けること」
「はいはーい。私の合図で開始ですよ」
訓練兵達に緊張が走る
「よーいスタート!」
バッ
と訓練兵達が踏み込みルシアに剣を向けるが瞬時に向けられる剣を斧で薙ぎ払った
「甘過ぎる!剣と重心を合わせろ!」
ドサッドサッっとどんどん訓練兵がやられていく
「隙のある剣の振り方を教えた覚えはない!」
とまた1人1人場外に飛ばされる
「毎日訓練しているとは思えない程酷い有様だな。このまま成長せずに終わるつもりか!その程度でリード様の援護に入れると思っているのか!」
ルシアがそう言うと訓練兵達の顔色が変わる
1度飛ばされた剣を拾いしっかり狙いを定めルシアに攻め入る
「その調子だ。相手をきちんと見極めて切りかかれ!」
(ルシアはきちんと兵士を1人1人見ているのね。指摘するところがあればきちんと指摘しているわ)
「無駄に力を入れた太刀筋じゃ遅い。無駄な力を抜け!じゃないと剣が……」
ガキンッ!ドサッ
「壊れるぞ」
先程より様になった太刀筋はまだルシアに傷を付けるのは難しそうだ
「次は剣で私の攻撃を上手く受け止めろ。剣は盾じゃないそれだけは覚えろ」
先程までは受け身だったルシアが攻めに入った力強い一振にどんどん訓練兵が飛ばされる
「この飛ばされている隙に死んでいると思え!きちんと自身を見据えるのも大事だ」
だが誰一人とルシアの一振に立ち向かえる者はいなかった
ドーンッ!
「しゅーりょー!!」
ララが空砲を打ち上げ声をかけると訓練兵達はみんな一気に地に手をつく
ルシアは武器をしまう
「これはまだ序章に過ぎません。訓練を怠らないように」
「「「ルシア様ご指導ありがとうございました!!」」」
「凄かったわ。凄く迫力があった。私も出来るようになりたいわ」
「でもルシア様の強さはこんなものではありません!多分力の半分も出していないですよ」
「そんな風に見えたのなら光栄だわ。ソフィー様どうでしたか?」
「斧であそこまで軽々しく身動き出来るなんてすごかったわ」
するとさっきの斧を取り出した
「この斧は強靭な肉体を持つものでないと持つことが出来ません。そして強力な一振を放つのには重くなくてはいけませんが私はこれを片腕で持つことが出来ます。ですが、素早く振る事が出来ても主のサポートには全く及びません」
「確か昔に負けそうな戦いがあったけどリード様1人加勢しただけで戦況が一変したとか」
「その話は本当です。今でも思い出しますあれほどの無駄な動きがない人を私は見たことがありませんでしたから」
「ルシアは妖術では戦わないの?九尾だからてっきり妖術とかを駆使するのかと」
「お恥ずかしながら私全く妖術が使えないんです。沢山の妖力はあっても戦いに向いた妖術なども全くできませんん。ですが、このしっぽの狐達はしっかり使えるので困ってはいないのです」
「そうなんだ。妖術って私も使えるのかな?」
「基本皆が持つものは魔力ですが、妖怪もしくは適性がある者は妖力も持ち合わせているようです。私は師匠の元で妖術について学びましたが学がついただけなんです妖術も才能の1つでも九尾の一族にとっては私の存在は恥だったのでしょう。だから捨てられてしまったんです」
「…………」
「ですがこれは昔の話今は何とも思ってません。近いうちに師匠にもお会いしたいです。捨てられなければこんな運命は歩んでいませんでしたから」
「ルシア様……」
「さて長話がすぎましたね。屋敷の前に戻りましょう主が戻ってきてるかも知れません」
「そうね」
屋敷の方に向かうとリードが誰かと話していた
(あの人……見たことあるような?)
金髪の髪に黒い服を着た男。そして私達が近づくのにつれてこちらを見る赤い瞳を持っていた
金髪の彼がこちらを見ているのを見てリードも私達の方を見ると簡潔な挨拶をしその場から消えてしまった
「黎舞が来ていたんですね」
「ああ、黎舞の剣の点検をさっき済ませた所だ」
「あの私黎舞?を見た気がして」
「ソフィーは見たことあるぞ」
「……彼は1回みたらそんなに忘れるような見た目じゃないのに」
「それは黎舞がソフィーの記憶を弄ってるからだと思う」
「記憶を?」
「黎舞は女性とまともに話すことも目を見ることも出来ない、シャイボーイという訳です」
「シャイボーイ、、、」
「そう。だから相手の記憶から自身を抜き取って覚えられないようにしてる、話さなきゃいけない状況だとほぼ死んでるのと同じ状態になる」
「女性が苦手なのね」
「黎舞は暗殺を得意とする『黒騎士』という種族になるんだが、人と関わることが少ない種族。だから前は同性の俺にですら話すことが出来なかったんだ」
「思い出しますね。私を見た時の黎舞の顔」
「ルーファさんの護衛で俺の屋敷に来た時の話か。あれは思い出すだけでも笑える」
「私を仲間と知った時は安心したようなそうでないような顔をしていましたからね」
「ま、話はこのくらいにして街を案内するから着いてきて」
「うん」
「行ってらっしゃいませ。主、ソフィー様」
「行ってらっしゃいませリード様!ソフィー様!」
手を振ってからリードに着いていく
馬車を目の前にすると御者が待っていた。
そして中に入る時に手を貸してくれる
「ありがとう」
「お気になさらず」
「じゃあ、よろしく頼む」
「はい」
馬車が動き始める
「そういえばララから聞いたの。魔物の出没が多いからリードが片付けることが多くなったって」
「そうなんだよな。普段はそんなに湧かないんだが連日湧くせいで兵士は疲れが取れなかったり魔法使いは魔力切れを起こしたりで俺がそこまで赴いて片付けているんだ」
「リードは疲れないの?」
「俺の魔力について話した事は覚えているか?」
「うん。治癒効果があるんだよね」
「そう。それのお陰で幾分かマシになるんだ。でも俺より動いてる人はいるからな」
「リードより?」
「華來さんだよ。あの人体力化け物だから仕事をこなしながら偵察、自国の管理に色々やっている」
「そしてあの大量の護符と本……」
「ソフィーは華來さんの素顔見たことあるか?」
「いいえ。ないわ」
「だよな。実は俺もないんだあの人の素顔全く見たことないでも不思議だよな無理やり見たいとも思わない」
「言われてみれば確かに」
「因みにあれ素顔隠してる訳じゃないんだ。視覚の情報を切ってるらしい本人が言ってたから嘘じゃないと思う」
「そうなんだね。皆何かと苦労しているのね」
「しかもあの人の本業統括者じゃないから」
「本業は違うってこと?」
「本業は祓い屋。妖魔とか怪異を色々な方法で常世に送ってる祓い屋の仕事してる時はかっこよく見えたのを良く覚えてる」
「統括者っていうから皆堅物な人かと思っていたけどそうじゃないって知ってなんだか嬉しいわ」
「皆堅苦しいのは好きじゃないから、それにあの人達人間じゃないんだよね俺の事も人間といっていいか分からない」
「リードは見た目は殆ど人間よね」
「俺はエルフの母親と獣人の父親の結合児なんだけど普通の耳だし見た目は人間とはほぼ変わらないんだけど母さんも父さんも長命種だから俺も長生きしてるんだよね。それに今も親は生きてるしたまに帰省するけど未だに子供扱い」
「でもそんなに生きているのなら色々と知ってそうね。リードは年齢は幾つなの?」
「俺の年齢?そんなもの知ってどうするのさ。まぁ、覚えてないとだけ」
(明らかにはぐらかされた…!)
「そしたらアレイ様は?神様とも違うよね?」
「アレイ様の類は創造者とか言うけど本当の種族は俺もよく分かってない。というか本人が分かってない前に聞いた時は『私の種族?私も与えられた創造者という肩書きしか知らないんだ。すまないね』っていわれたから」
「そうなんだ」
(今すっごくアレイ様の真似似てた!)
「確かルーファさんは天使なんだよな。それも位の高い天使様なんだとか」
「天使に位なんてあるんだね」
「ルーファさんが言うには天使にも位事の役割があるんだって」
「例えば?」
「例えば精霊とかに名付けをしたり、祝福を授けたりあとは常世に迷った人を浮世に戻したりとか色々あるんだってでもルーファさんはその仕事を全部放棄してる状態。でも誰も指図出来ないんだ
ルーファさんこそが天使の種族の上に君臨してるから」
「つまり下の子達に任せっきりって事ね」
「大体合ってる。でも人間でも溜まる負のオームみたいなのを浄化してあげてるんだよな。だから1番仕事してたりする」
「浄化って大変なんじゃないかしら」
「浄化しつつもらった毒素をあのキセルで吐き出しているんだ。最初みると喫煙者に見えるよな」
「あのキセルにそんな効果が……」
「あれはアレイ様が作ってあげた物なんだってさ、特別仕様〜ってやつ」
「じゃあ華來は?」
「華來さんは鬼と龍のハーフだって聞いた」
「じゃあ龍になれたりするの?!」
私はワクワクしたように聞く
「ああ、龍になることも出来るらしいけど圧倒的に今の姿の方が楽って言ってた。龍の住む国が実はチェシーヌ王国のずーっと上にあるらしいんだ。連れてってもらったことあるけど向こうからしたら人間は珍しいらしくてずっと視線感じたけどな。でも景色とかはここと全く違くて夢を見ているような感覚なんだ」
「素敵ね!私も行ってみたいな」
「色々落ち着いたら華來さんの方から誘ってくると思うよ。あの人は人の喜ぶ顔が好きだからさ」
「ちょっと、いや結構優しすぎるんじゃないかしら?ほとんど初対面の私にも優しくしてくれて…」
「お人好しなんだよ。それに自分から進んでやってる事だから気にしなくていいと思う
優しくしてもらったりしたら素直にありがとうって言えばいいんだ」
「確かにそうね。優しさを無下にしていたのね」
「ん〜。無下にはしてないじゃないか?それに頼りがいのある人だから変に遠慮もしなくていいと思う俺の主観だけどな」
「ふふ、そうね。彼には感謝しないといけない事が沢山あるわ」
「ソフィーは律儀だな。ま、悪くない性格か」
「そしたらイ…」
キィー /ガタン
「着いたみたいだな。で、何か言いかけてなかったか?」
「ううん。なんでも無いよ」
私はまた後で聞いてみることにした
馬車を降りると綺麗な街並みが広がっていた
見回りをする兵士に剣のおもちゃで遊ぶ子供たちに平和に過ごす人々
「中央の国とはまた別の平和があっていいわね」
「確かにそうだな。でも中央の国とは建物の造りが全く違うんだ」
「確か中央の国はレンガ造りだけどここは鉄骨造なのね」
「よく分かったな。鉄骨造は耐久力と耐火性があるんだ多分他にも効果はあると思う。まぁ、家なんてなんでもいいだろ次行くぞ」
(どうでも良くないと思うけど多分説明がめんどくさいんだわ)
ソフィーは少し呆れつつリードについて行く
少し歩くと真っ白な神殿がそびえ立つのが見える
「あの神殿見えるか?あれは聖女がいる所なんだ」
「セイジョ?」
「ソフィーは聞き馴染みない感じか。どう説明しようかな」
説明するために考えているのかしばらく沈黙で歩いていると「あ」と言って私に振り返る
「聖女はなんか神から信託を受けてそれをみんなに知らせるみたいな奴!とっても胡散臭い!こっちは信託とか知らねーよって感じ!なのが聖女」
「そんな事言っていいの?いくらリードでも怒られるんじゃ」
「なんてな。まぁ、聖女を信仰してる奴等は怒るだろうな。でも信託を受けても当たったこと一回もないんだぞ
そりゃあんな感じの説明されても仕方ないだろ。俺は聖女とかの為に神殿を建てた訳じゃない」
「元々は違う使い道が?」
「元々は怪我とかした者を治療する為に用意した建物だ。治癒魔法が使える者を探して兵士とか一般人も治せる診療所のようにしたかったんだけどな」
「でもそんな人達よりリードの方が位が高いでしょ?」
「一部の過激派が居たんだ。そいつらが神殿を乗っ取ってしまった。争いを嫌うアレイ様はそれを渋々承諾したって訳。俺は暗殺することも同時に禁止されて何も出来ないんだ。でも聖女を嫌っている訳じゃない
聖女になり変わってる奴が嫌いなんだよ。そいつに騙されている人をこうして直接見ている。いわば監視
騙されている者達が見ているのは本物じゃなくニセモノだ」
「まるで集団催眠にかかってる感じね」
「そう。本物の聖女がいれば人々は目を覚ましニセモノは消える」
「信託は存在するの?」
リードは黙って指を私に向ける
「?」
ちょいちょいと私の首に巻き付くウエルを指さしていた
「あ!ウエルも神様だったわね。ウエル?あぁ……寝てる」
「後で聞けばいいか。でも信託についてはよく分からないことだらけだからなウエルに聞いた方が手っ取り早いと思ってたけど寝てるとは」
「とりあえず聖女サマに会いにいくか。ソフィーには目の色を変える魔法をかけるそれで大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ」
サッと目を覆われるがそう長くはなかった
「何となくで俺と同じ青の瞳」
「ふふ、お揃いね」
「お揃いか、悪くはないな。それと俺からは離れるなよ」
「分かったわ」
リードの後ろをついて行くと神殿前で人が待ち構えていた
「これはこれはリード殿待っておりました。そちらの方は?」
「彼女は時期統括者ソフィーだ。彼女に用があったら俺に言ってくれ」
「承知しました。では聖女様がお待ちなのでご案内致します」
(神殿の中は普通ね。で、これからニセモノの聖女と対面…)
コツコツ
「いやぁ、リード殿に会えて我々は嬉しく思います。聖女様もこの日を楽しみにして……」
(相変わらず神官は俺のご機嫌取りか、つまらない御託ばかり並べて耳障りだ。聖女が楽しみにしてるとかそんな言葉で踊らされる俺だとでも言いたいのか。まぁいい早く聖女の皮を被った奴を剥がすまで)
コンコン
「聖女様リード殿がいらっしゃいました」
「どうぞ。お通しして」
ドアが開けられリードとソフィー2人が入る
バタン
「リード様今日はわざわざ来ていただいてありがとうございます。あら?そちらの方は?」
「時期統括者になるソフィーだ」
「初めましてソフィー様。私は聖女の『セフィロア』です。セフィロアと呼んでちょうだい」
「初めましてセフィロア様」
「さあ、お二人共こちらに座って」
リードと共に椅子に座る
「それでソフィー様は私のような聖女は初めて見る感じかしら?」
「はい。私の国にはそう信仰するもの自体ありませんでしたから」
「そうなのね。私にはその人の未来が少し先見えるのよ
良ければ見てあげましょうか」
「そ、そうなんですか?」
『胡散臭い占い始まったな』
「え?」
「どうかしましたか?」
チラッとリードを見る
『目の前で本人の悪口言えないだろ』
私も話しかけるように返す
『確かに』
『コツはばっちりだな。この聖女サマがよんでくれる未来とやら聞いて見よう』
『うん』
「手を貸してね」
聖女が目を瞑りながら話す
「おかしいわね」
そういうと聖女は目を開いて私に言った
「あなたの未来が全く見えないわ。そんな事今まで無かった。どうして」
「神への祈りはしてるのか?」
「勿論よ。朝昼晩とかかしたことは一回もない」
「ちゃんと言われた通りにしてるのに」と聖女は小さく呟く
「神力が弱くなっているのかしら。でも人々の信仰は弱まっていないのに何故……今日は帰ってくれるかしら私今日は体調が優れないみたいなの」
「ニセモノが本物に勝てるわけがないよな」
リードが勝ち誇った顔で言う
「どういうことですか。私に何かしたのですか…」
セフィロアはよろけながら立ち上がる
「所詮はその程度だったってことだよ。ニセモノの神に祈りを捧げても何もならない」
「何を言っているのか全く分かりません。
私への冒涜として信者達に連行してもらいますよ」
「力も弱まっている聖女サマの催眠って効力あるのかな」
「っ!」
(どういうこと…何が起こって…)
『ソフィー大丈夫。ソフィーのおかげだ。こいつの化けの皮を剥せる!』
『どういうこと』
「本当は神託を授ける神も聖女もニセモノだ」
「そんなはずそんなはずは!!ないはず!神からのお告げだって」
「信託」
「え?」
「当たったことないだろ。信託」
「あ、、」
セフィロアは髪を振り乱し「そんなはずはない」と何回も繰り返す
「私こそが本物の聖女!セフィロアよ!他に居ないわ!!私以外にはいないの!!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
セフィロアの体から禍々しいオーラを纏った何かが現れる
「やっと姿を現したか。長かったな」
「私ハ完璧にギソウしていたハズなのニ……ナゼ!」
「簡単な事だったんだな。お前の化けの皮を剥がすのは」
「一体どういう事なの?」
「ソフィー1番身近に神が居るのを忘れたのか?」
「ウエルの事ね!」
「そう。ウエルの神力が高くてニセモノの神力が打ち消されたんだ
そしてお前は聖女になれなかった成れの果ての集まりだな」
「ソンナコトオオオオ!!!!わたシこソが聖女デあり、神のシンタクをうける者」
「話しが通じないな。それにいちいち大声だして騒ぐなよ」
「アァ、カミヨ。ワタシニシンタクヲ。ワタシイガイニイナイセイジョニオツゲヲ」
『こいつ瘴気を纏ってる。鼻と口を服で抑えてなるべく呼吸しないように。コイツと決着をつけられるのは神であるウエルのみだ。とりあえず転移魔法を使う』
『うん。わかった!』
シュウウウ
撒き散らす瘴気と共に転移をした
「信徒達から離されてさらに醜く化けたな」
「ワタシコソガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
「できるだけ時間を稼ぐからウエルを起こしてくれ!流石の俺でも瘴気だけ取り除いて呼吸は無理だ」
「わかったわ!」
ソフィーは首に巻きついているウエルを膝の上に置いて声をかけてみる
「ウエル!ウエル!!起きてお願い!!」
(全くダメだわ。どうしよう)
「この寝坊助ー!起きろー!!丸焼きにするわよ!」
(これもダメなんて)
「あ!!だ、誰かがウエルの事長く生きてる割には使えないって言ってたわ!それと神なのに威厳ないとか!それと、あとは、あとは…そうだ!古代からいるくせに名が知れ渡ってない老いぼれとも言ってたわ!」
「それは本当か」
(またしっ…)
「あー!ウエル!目を覚ましたのね」
「それより。我を老いぼれだの使えないだの言っている輩は何処じゃ」
「あれ!あの瘴気の怪物が言っていたわ!」
「若造には少し説教が必要なようじゃな」
ウエルは人に擬態する。
髪の長くスラッとした女の人
(綺麗…誰なんだろう…じゃないわ!伝えないと!)
「ウエルの悪口言ってたあの怪物は神であるウエルの神力で消せるって!」
「我の事を老いぼれなどと言いおって許さぬ『神力陣展開ー第四地底朽刀ー(しんりきじんてんかいーだいしちていくがたなー)』」
リードは瘴気の怪物から離れウエルに任せた
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとか思いついた暴言でウエルを起こすのに成功したけど、、はぁ」
「ソフィーにしては良くやったよ。ほら」
スゥ/カキン
ウエルが擬態した女性が納刀すると共に瘴気を纏った怪物は塵となって消えた
「あやつで終わりか?まだ怒りが収まらぬ!!」
「ま、まあまあ、みんなの事救った英雄だよウエル」
「何があったのか分からぬのだが」
事の経緯を話す
「そんなことが我が寝ていたばかりに迷惑をかけたのう」
「ウエルが寝るから私片目で大変だったんだから!」
「それは何も言えない…のじゃ」
「それはそうと一回神殿に戻らないといけない。だからもう1回転移魔法をつかう」
「うん。ウエル」
手にウエルを乗せるとスルスルっと首に巻きついた
転移門が展開されると私たちは先程いた場所に戻る
「まさかあんなに手を焼いていた問題がこうもあっさり解決するとはおもわなかった」
「意外と難しくなかったりする時はちょっと落胆しちゃうよね」
「これは、アレイ様に報告するソフィーとウエルのおかげで解決できたと」
「それより神殿の人達大丈夫かな」
倒れている人にリードは近寄り息があるかを確かめる
「気を失ってるだけか、聖女を信仰してた者は多分全員気を失っていると思う。目を覚ました時どうなるかが分からない。とりあえず起こしてみるか」
リードは気を失っている若い信徒をペシッと叩く
「ちょっとダメよ!気を失ってる相手に何してるのよ」
「まぁ見といて」
リードはペチペチと叩いているとやがて信徒は目を覚ます
「ん、頭が、、、ってここはどこだ?」
「聖女の事は覚えているか?」
「聖女?誰ですか?そんな人わからないですし、それに何だこの服は」
「あいつを信仰していた者は記憶が無くなってるらしいな」
「あ!そうだ元々のセフィロアは?」
「確認しないとな」
ドアを開けると倒れている老婆がいた
「うん。死んじゃってる」
「元々は人間なんだからな。神力の力で若さと寿命を伸ばされたらそうなる」
「彼女は元々は悪い人じゃないのよね。せめて」
「分かっている。管理人さんとアレイ様にとりあえず報告だな」
そうリードは言うとシーツを剥ぎ取りセフィロアに被せた
「勝手に宿る器にされたんだ。次はいい人生を送る事を願う」
「そうね」
「とりあえずここは封鎖するから出るぞ」
「うん」
ドアを閉めると赤紐でドアの取っ手を結ぶ
「これは故人がいるっているのを表すんだ」
「そうなんだね」
「事件続きだな。一回周りにいる兵士に信徒達を介抱するように言いに行く。だからソフィーはこれでアレイ様に連絡を取ってくれ」
胸ポケットから懐中時計のようなものを取り出し私に渡すと居なくなってしまった
私は場所を変える為に神殿の外へ出て階段の所で懐中時計のようなものを見る
「どう使えば…」
「これを開くのじゃ」
「こう?」
パァッと映し出される
「凄いわね。文明の機器だわ」
「ん?ソフィーじゃないかどうしたのかな?」
「アレイ様。私リードに頼まれてこの機械で連絡するように言われて」
「あぁ、なるほどね。どういった要件かな?」
「北の国にある神殿の話でして」
「長い間手を焼いているニセモノ聖女とその信徒達の話かな?」
「はい、そのニセモノの聖女セフィロアは死にました」
アレイの顔から笑みが消えた
「どういうことだい?」
「聖女が信仰をし祈りを捧げていたのは神ではないそうなの。それと聖女は聖女になれなかった者達の怨念みたいなものでセフィロアの身体を乗っ取っていたらしいんです。でもその瘴気を纏った怪物が消えた今、聖女基セフィロアは老いて死に。信仰していたもの達は聖女などの記憶を忘れているのが現状です」
「でも、何故今まで本性を現さなかったニセモノは姿を現したんだい?」
「それはウエルのおかげなんです。聖女よりも力の強い神力のあるウエルのおかげで打ち消すことが出来たとリードが言っていました」
「ふむ。かなり興味深いものになったものだね。そしたらセフィロア自体は被害者となる訳だね。丁重に常世に送り出さなければならない。私から管理人さんに連絡をするから元信徒達の介抱をよろしく頼むよ」
「はい。分かりました」
「ウエルも良くやったね。もし何か必要な物でもあれば遠慮なく言うといい。ソフィーには今手に持っている通信機も送ろうか
他にも欲しいものがあれば何でも言う事だよ。それじゃあね」
「はい」
プツン
「はぁ、なんか連日疲れることばかりね」
ソフィーは雲一つない空を見上げる
「ソフィー様」
私は名前の呼ばれた方を向くとセフィロアが立っていた
だが、彼女は透けている
「セフィロア様」
「私の事を助けてくれてありがとうございました。私は元々聖女に憧れた子供でした。ですが、その心に付け込まれあの怪物に身体を支配されてしまいました。でもそれを断ち切ってくれた。ありがとう」
セフィロアは頭を下げて涙を浮かべ微笑む
「私は何も…でもあなたがそれで良かったのなら私は嬉しいわ」
「ソフィー様。私はニセモノの聖女として上手くやれていたのでしょうか。例えそれが私の移行でなかったとしても」
「そうね……救われた人はいるはずよ。きっと…きっといるはずだわ」
私がそう言うと彼女は「そうだと良いな」と良い風に乗って消えてしまった
「あなたが安らかに眠れますように」
ソフィーは空に向かってそう呟いた