2.村人A、薪割りで大人を超える
広場の一角に並べられた丸太を見て、俺は内心でため息をついた。
「これを全部割るのか……?」
薪割りは村の重要な仕事の一つらしい。焚き火や料理に使う燃料を確保するため、男たちは毎日この作業をしている。
「レイン、大丈夫か? 最初は無理しなくていいからな」
そう声をかけてきたのは、俺を迎え入れてくれた中年の男性、グラムだった。
「はい、頑張ります!」
俺は元気よく返事をし、斧を手に取った。
しかし、そこで気づいた。斧が妙に軽い。いや、それだけじゃない。手の感覚がすでに斧の重心やバランスを完璧に把握していた。
(ああ……これもスキルか)
俺は「武器操作」「筋力増強」「器用さ向上」など、ありとあらゆるスキルを持っている。つまり、薪割りの動作一つとっても最適解を導き出せるのだ。
(とはいえ、あまり目立つのは良くない……)
俺は慎重に、一回目はゆっくりと斧を振り下ろした。
バコーン!
乾いた音が響き、丸太が綺麗に二つに割れる。周囲の村人たちが驚いたように俺を見た。
「おおっ!? なかなか筋がいいじゃねえか!」
「お前、本当に薪割り初めてか?」
大人たちが感心したように言う。俺は少し焦ったが、平静を装いながら笑う。
「えっと……コツが分かった気がします!」
そう言って、次の丸太をセットする。今度は少しだけ力加減を調整して、わざと手こずるようにした。
だが——
バキン!
またしても、一撃で丸太が真っ二つになった。
「……おいおい、まぐれじゃなさそうだぞ?」
「なんて腕力してんだ、レイン……!」
しまった。さすがに目立ちすぎたか?
けれど、薪割りの感覚があまりにも自然すぎて、どうしても力の調整が難しい。俺の身体は既に最適な薪割りの方法を理解しており、それを無意識のうちに実践してしまうのだ。
「レイン、ちょっと貸してみろ」
そう言って、大柄な村人の一人が俺の斧を借りて丸太に挑んだ。彼は渾身の力を込めて斧を振り下ろす。
ドスッ!
丸太には深く刃が食い込んだが、真っ二つには割れなかった。
「なっ……!」
周囲の村人たちがざわめく。
「お前……本当に十歳か?」
「いやいや、いくらなんでもすげぇぞ」
俺はどう誤魔化そうか考えながら、必死に笑顔を作った。
「えっと……体が軽いから、勢いがつきやすいんじゃないですかね?」
「そういうもんなのか……?」
どうにか納得してもらえたようだったが、内心ヒヤヒヤだった。
(やっぱり、手加減しないとまずいな……)
こうして、俺の「村人A」生活は、思わぬ形で注目を集めることになったのだった。