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第七話・圧倒的じゃありませんか我が護衛は、ですわ

「あ、なんだこのガキ? おい、どっから入ってきやがったんだ」


「入口」


「なにぃ? チッ、何サボってやがるんだあいつら。こんなガキなんぞ通しやがって……」


 掴みかかろうとした盗賊その三の腕をすり抜け、歩みを止めないスタン。

 その三は、どうやって避けられたのか困惑しながらも、振り返って再び掴もうと腕を伸ばした瞬間、脇の下から血を噴き出しました。


「あ、あぁ? 何だ、こりゃあ……!?」


 手で押さえても無駄なことです。それくらいで止まるような勢いではないのは私でもわかります。太い血管をやられたのでしょう。

 血の勢いが弱まるにつれ、草花が萎れるようにその三は元気を失い、洞穴の入口付近で見張りをしていたその一とそのニのように、へたりこんで動かなくなっていきました。


「んだこらぁ!」


「やりやがったなガキぃ!」


 盗賊その四とその五がスタンに殴りかかります。まだ武器を使わないあたり、子供相手と侮っているのでしょうね。

 当然、さっきの仲間と同じ末路を彼らは辿りました。これで残りは七人ですね。

 しかし、淡々と殺しますねスタンは。ためらいが全くありませんし、命を奪ったことに内心でショックを受けてる感じもないです。

 自らの手で二番目の兄を殺害したとき、そのような情は捨てたのかもしれません。


「先程から流れるように仕留めていますけど、ギフトでも使ってるの?」


 スタンは頭を振りました。否定です。

 そうなると、これは技術なのでしょうか。まあ、魔法には見えませんから、きっとそうなのでしょうね。暗殺術恐るべしです。



 さて。

 残り七名はスタンに対し、これはただ者じゃないぞと(ようやく)判断して武器を持ち始めました。

 斧、剣、剣、短剣、斧、剣、曲刀というレパートリーです。飛び道具の使い手はいないのかと思いましたが、盗賊その四が座っていたそばに弓矢がありました。なので、もういないということです。


「ふざけやがってこのガキども……たった二人でこのガバゲン一家を潰しにきたってか? 舐めるにも程があるぞ!」


 おお、吠えます吠えます。今のうちに頑張って大声を出すといいですよ。直に気力も体力も無くなるのですから。これが最後の機会です。


「わめき散らすよりも、恥も外聞もなく逃げ出したほうがよろしくありません? まあ逃がしませんけどね。一人たりとも」


 洞穴の奥、結構な広がりがあった空間のあちこちで燃え盛る松明の炎に照らされ、盗賊の親玉らしき人物の顔が憤怒で真っ赤に染まっていくのが見えました。


「言うに事欠いて、一人も逃がさんだとぉ~~! 逆だクソアマ! 逃がさねえのはこっちのセリフだボケェ!!」


「威勢のいいこと」


 話しながら歩みを進め、広い空間の中央、焚き火のそばまで行くと、案の定、何名かが私とスタンが入ってきた通路を塞ぐように回り込みました。


「これでもう()()()()()()()。泣いて謝ろうが許しはしねぇ。死にたくなるまで、じっくりとなぶり尽くしてやらぁ!」





「こ、ころひて、くだせ」


 両腕がもげた親玉さんが、泣きながら命乞いならぬ死乞いを始めました。



 まず、なぜどちらの腕も肘から先が無くなったのかですが、それは曲刀の一撃を私が生身の腕でガードして『返した』結果の悲劇です。

 他の方々は一足先にスタンによってあの世に送られました。残るは、のたうち回るこの方のみです。


 しかし、まことに悲惨なのはその後でした。


 「一思いにやってやれ」という無言の圧力がスタンから感じられたので──まあ、狩るのは好きですが、いたぶるのはさほど好きではないからいいんですけど──曲刀を拾って、背中に突き刺したのですが、なぜか致命傷になりません。

 痛がってはいるので効いてはいるはずですから、何度も何度も刺してはみたものの、多少は弱りこそすれ、死ぬほどのダメージにならないのです。


「まさか」


「どうしたんだ?」


「『逃げられない』だけでなく、『死にたくなるまでのなぶり尽くし』も反射したのかもしれませんわ」


 だから、痛みがあっても『まだ生きていたい』から死には至らないのでしょうね。そう考えるとこの異様なしぶとさへの疑問が氷解しました。


「え、なら、つまり」


「そういうことになりますわね」


 うっかりミスで一人の悪人を生き地獄へ突き落としてしまった私でした。てへ。


 そんなわけで、私は親玉さんが自らの死を願って天に昇るまでグサグサすることになりました。

 スタンも手伝ってくれたので案外早めに願ってもらえたのは助かりました。延々と朝まで刺し続ける羽目になるかと思いましたわ。



「後は燃やして終わりにしましょうか」


 刺し傷だらけになった親玉さんにようやく安らぎを与えると、スタンに洞穴の外に出るよう指示した後、私は焚き火に飛び込みました。

 すると、焚き火の炎が弾かれ、一気に激しく燃え上がり、炎の嵐となってこの空間に広がって全てを飲み込んでいきます。

 そして爆炎が洞穴の入口から私ごと吐き出されました。なんだか吐瀉物の中身になったみたいで嫌ですわね。


「わあ」


「お嬢様!」


 宙に投げ出された私をキャッチするスタン。まさかこんな形でお姫様抱っこされるとは予想外でした。

 ですが、悪くありませんわね、こういうの。年齢からくる体格差のせいで、大きな荷物を男の子が抱えてる感じですけど。もう少しスタンの背丈があればよかったですわね。


「やることなすこと無茶苦茶すぎるぜあんた」


「……リシアでよろしくてよ」


「?」


「あんたとかお嬢様ではなく、これからはできるだけリシアと呼びなさい。わかりましたね?」


「どういう風の吹き回しだ?」


「思いがけない体験に、気分がいいんですの。それだけですわよ? 裏はないから安心なさいな」



 こうして、盗賊団、えーと……何たら一家は私とスタンの活躍で壊滅しました。めでたしめでたしですわ。

これが後の黒○げ危機一髪である。

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