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【23】なろう作家はかくありけり

 俺は、現代日本に……帰ってきた。


 ……帰ってきた?

 なぜか、そう思えたというか……?


 一度も行ったことのない駅の裏の…雑木林の枝に引っかかっていた俺は、早朝、朝練に向かう女子に発見されて、通報されて、助かった。


 通報されたのは、俺がすっぽんぽんだったせいだ。

 女子は、木の枝の上で露出している人がいると…、パニックになって通報したのだ。


 どうやら俺の衣服の全ては、崖の上の道路のガードレールの隙間から転落した時に…、木々に引っかかって破れ、全て枝に持っていかれたようだ。背の高い木々の枝を折りながら、ところどころで引っかかりつつ落ちて行ったおかげで、大きなケヤキの木の中ほどで止まることができたらしい。


 俺を支えていた太い枝は半分ほど折れていて…、もしあと1時間発見が遅れていたら下に落ちていたと言われた時は、冷や汗が止まらなかった。なぜなら、俺の引っかかっていた枝の下には、ごつごつとした岩場と雑草の生い茂る湿地が広がっており、まず発見されることはなかったはずだと確信できたからだ。


 九死に一生を得た俺は、入院中の持て余した時間を利用して…小説を書くことにした。

 

 ぼんやりとしか覚えていないが…、俺は、確かに…、誰かと、小説を書くという約束を交わした気がしたのだ。


 なぜだかわからないが、使命感がある?俺には書けるはずだという自信?やらなければいけない?焦燥感のようなものに駆られて、書いたこともない物語という文章を…綴り始めた。

 

 初めに書いたのは、自分のやらかしをぼやいた、エッセイだった。

 深酒をして我を失い、道に迷った挙句進入禁止の場所に足を踏み入れ、ガードレールのない場所から転落して、すっぱだかを披露し、こっぴどく怒られ、反省をしたというエピソードは…信じられないくらい、注目を集めた。


 続々と感想が届き、励ましの声やお叱りの言葉をいただいた。 

 その中に、たまに…俺の文章を褒めてくれるようなものがあった。うれしくなって、小説を書いてみたいと思っていると返信したら、ぜひ読んでみたい、応援するという返事が続々と返って来て…、俺はやけにテンションがあがってしまったのだ。


 元々読み専だったこともあり、いろんな設定やシチュエーション、トンデモ展開が次々に思い浮かんで、執筆はサクサクと進んだ。執筆初心者であることを公言しているからか、読者の皆さんも暖かく俺を見守ってくれて…、二重表現やおかしな慣用句の使い方をすれば即指摘してくれてありがたかった。

 もともと無知ぶりには自信があったので、読者の皆さんと一緒に作品を完成させていくような…手探りの執筆を続けた。感想返しで休みが潰れる事も珍しくなかった。


 従来の物語の常識を蹴散らすようなありえない展開と、足りない語彙力をフルに生かして幼稚な表現でゴリ押しするスタイルが思いのほかウケて、予想外にポイントをいただくようになり、どんどん執筆のモチベーションが上がっていった。


 …気がつけば投稿作品数は100を超え、長編もPV数がうなぎ登りで、驚くばかりだ。


 やりがいを得て、愚痴吐き目的で飲みに行くことが減り、互いに切磋琢磨できるような執筆仲間ができた。

 この年になって、人間関係が広がるとは思いもしなかった。

 世代を気にしない交流が楽しすぎて、俺はどんどん…暴走した。


 オーバーワークになり、肩こりで首が回らなくなってしまい…視力も落ちてきたため、執筆を休止することにした。


 俺のもとには、たくさんのいたわりの声、励ましの言葉が届いた。


 執筆をしなくなって一週間ほど経ったある日、仲間からストレッチをすすめられた。

 簡単だというのでやってみると、背中が伸びた感じがして…とても心地が良かった。


 その事を活動報告に書いたら、別の仲間から散歩もすすめられた。 

とりあえずやってみると、血液が体中を巡る感じがして…とても心地が良かった。 


 少し散歩の距離を延ばしてみると、創作のアイデアが次々に降りてきた。


 散歩に行くたびに、アイデアが…、書いてくれと俺に懇願するようになった。

 

 少しずつ、少しずつ…短編から書くことを再開させた。


 ストレッチをしながら、身体を労わりつつ…物語を執筆した。

 散歩をしながら、健康を意識しつつ…物語を執筆した。


 まさか、長年80キロ後半をキープしていた体重が、60キロ前半になるとは思いもしなかった。


 健康的になったせいか、ものを考える力が飛躍的にアップして、毎日溌剌としている。

 日課となった執筆は、もうすっかり…俺の生活の一部になっている。


 ……さて、今日はどんな話を書こうかな?


 昨日は肉体がない世界の話を書いた。

 昨日の前はめんどくさい魔法の設定についてまとめた。

 昨日の前の前は記憶と魂がかけっこをする話を書いた。

 昨日の前の前の前は読めない物語を読もうとする知りたがりの話を書いた。

 昨日の前の前の前の前は…ちょっとふざけ過ぎたと反省したんだったっけ。


 我ながら…俺の描く世界ってのは、なかなか見ない個性的なものばかりだな。

 なんでかなあ、既存の設定とか…、物足りなく感じてしまうというか。

 ついつい、おかしな世界観を恥ずかしげもなく披露してしまうというか。


 どうしてこんなにも…アイデアが出てくるのかね?


 もしかしたら……、創作の神に見守られていたりして!


 俺はたった今思いついた新しいプロットを書き留めてから、日課の散歩に向かったのだった。


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