【21】読み専歴10年越えの実力
………。
この、一見、支離滅裂な…文章。
偉そうに『問』などと書いてあるから身構えてしまいがちだが…大したことはない。
よくありがちな縦読みが仕込んであるが、《テストの答えはミライ》と言っているだけで、問にある《究極の呪文》とは一言も言っていない。恐ろしく簡単なひっかけ問題だ。
クソ長い文章の最後の部分に、わざとらしく【呪文は『今』だ】などと書いてあるが、これはおそらく、長文を読むのをめんどくさがった奴らをひっかけるための罠だ。よくよく読めば《素晴らしい明日を創る呪文》と書いてあるし、こんなのに引っかかるようなバカ、いるのか…?
《のーざんSNSNSNSNSさうざんてぇてぇ魔法》これはおそらく、キュウキョク魔法の事を言っている。SとNで思い浮かぶものは、S極、N極…極!SとNが九つ並んでいるから、キュウキョクだ!!
よくよく内容を読めば…、過去を絶賛している事が読み取れる。
おそらく、この文章の作成者は…未来は存在していないという事が言いたいのだ。過去は今という時間を何度も過ごして、積み重ねられたものであり、己の生きてきた軌跡は自分にしか貯めることのできなかった宝物である…という事を言いたいのだろう。
……こういうのは、文章の作成者とシンクロするのが一番いいんだ。
何が言いたかったんだろう、何を言おうとしているんだろう…、作者の胸の内を読み込むように、深く、慎重に、言葉の意味を推理しながら文字を追えば、だんだんと見えてくるものがあるのさ。
俺をなめるなよ…?
これでも月間200万文字を読む…コアななろうユーザーなんだ。
新規投稿作品を片っ端から読むような、こだわりゼロの古株読み専である俺のポリシーは…【読めない文章など一つも存在していない】だ。
ホラーもファンタジーもエッセイも詩も童話も定番の異世界転生ものも…目に付いた端から読破していく俺にかかれば、どんな文章であろうと磨けば輝く原石状態。クセの強い作品であればあるほど、描写が少なければ少ないほど、ガッツリ読み込んで…作者の裏の裏を窺い、物語に足りない情景を自分の頭の中で創造して補完するクセが俺には備わっている。
伊達に10年以上…読み専をやっていない。
俺は、意味の分からない文章に隠された作者が伝えたい真意を読み取れたとき…、この上なく喜びを得るのだ。描写の乏しい物語に己の読書経験と想像をミックスして脳内で仕上げれば…どんな作品も一大スペクタルロマンの大ベストセラー間違いなしの物語に…って、まあ、これは小説じゃなくて魔法書?だったか……。
「……やあやあ、考察お疲れさまです!!あ、大丈夫ですよ、ハイ、今ね、判定しました!!」
なんだ?
まだうんともすんとも言っていないのに…、男性がやけにハイテンションで俺をのぞき込んでいる。
「なるほどねえ、あなたはずいぶん…そうですねえ、魔法と相性が宜しくない事がわかりましたよ!」
「……、そうなんですか?」
正直、ちょっと意外だ。俺は魔法の世界の知識は…ライトノベルや素人作品とはいえたくさん読んできていて、何かしら有効利用できそうな気がしていたのだ。
「実はね、魔法の世界というのは、わりとかなりシビアというか…実につまらない仕組みがありましてねえ。事実ありきでなければ生きていけないタイプしか生息していない、発展性に乏しい世界なんです。あそこは文字の並びをそのまま運用するような…、型押ししたような不偏の世界で、自由も無ければ余裕もなくて、発想というものが乏しくて…はっきり言って、あなたを送るのはもったいない!!!」
もったいない?
俺に…もったいないと言えるような、何か特筆すべき特技があるという事なんだろうか。
俺はただの…週に一度の飲み会を楽しみにしている、なろうで小説を読む事ぐらいしか趣味のないつまらない人間であり……。
「あなたはね、つまらなくなんてないんですよ?!足りないものを補完するセンス…素晴らしいとしか…あ、言い忘れてましたけど、あなたの考えてることはね、全部筒抜けなんですよ、ええ!!こんな無防備な状態で色々さらけ出して…いやあ、ホントこれはめっけもんだ!!!正に奇跡だ、無事に残っているなんて!!!クー、いいぞ、この調子!!!」
筒抜け…?
無防備…?
何かよくわからないが、助かるのか?俺…?
「ああ、思わず興奮してしまって…失礼しました!ええとね、今すぐ私が便宜を図ってあげることに決めました。ですから、あなた、小説を書いてください」
「え?!でも僕は小説なんて書いたことがないし…そんなの無理ですよ」
俺は工業高校の出だし、国語の成績もさっぱりで文章なんか書けやしない。自分の頭の中でぼんやりと出来事を想像することはできるけど、単語は知らないし主語と述語も使いこなせないし、文字化なんてできるはずもない。読むことに精いっぱいで、物語を順序だてて文章化する事なんかやった事もないし、漢字も読めはするけど書けないうえに、熟語やことわざも知らなくて、人の書いた小説を読みながらググることもしょっちゅうで……
「書くんです、書かせます、書き続けてもらいますよ?!いいですか、君は《書けない》のではなく《書かない》にすぎないんです!!創造力を勝手な思い込みで出し惜しみされては困ります!!!」
「で、でも・・・
「デモもすんもない!!!あなたの創造力があれば、つまらない魔法の世界が活気づくかもしれないんですよ!いや、絶対に盛り上がる!!あなた、そっちの世界で自由に文字を綴って、世界を構築してください、というか、させますので覚悟してください!!!
い い で す ね ? ! 」
……ドンっ!!!
「…へっ?!」
胸のあたりに、衝撃を受けた…俺はっ!!!
急激な、重力加速っ?!
が、あが、あガガガガガガ!!!
あ、あ、あ……、アアアアアアア!!!
【23】→→→なろう作家はかくありけり