【19】読み解く力
なんだ、簡単じゃないか。
て
す
と
し
ま
す
こ
の
て
す
と
の
こ
た
え
は
み
ら
い
で
す
せん
た
く
す
る
の
は
み
ら
い
で
す
こういう一見意味不明の文章ってのは、だいたい縦読みすれば一発解決するんだよな。
ホント使い古された面白くないパターンだよ、こんなの保育園児でも思いつくだろ。
こんなのが問題だなんて、大したことないな‥魔法ってやつも。
ちょっとカッコイイ感じの言葉を出したら、あっという間に大魔導士になれるんじゃないの?
バーニングフレアとか、ダークイリュージョンとか、ファイヤーメテオとか…言葉のイメージ通りの魔法とかダサいしハズいけど、まあ、使えるもんなら使わせてもらおう。
「じゃ…、 お げ ん き で 」
俺は無事に、魔法のある世界に転生したわけだが。
魔法というものへの、思い込みが…消えなくて、苦労することになった。
呪文を唱えれば魔法は発動するものだという、魔法の存在しない世界の常識が邪魔をしたのだ。
魔法はこういうものだ、こうあらねばおかしいという、魔法の存在しない世界の常識が習得を阻んだのだ。
火は酸素と結合するから燃えるのだという思い込み。
水は普通こうあるべきだという異世界の日常の光景。
闇は悪いものの代表だとしか思えない頑固さ。
土がこんなふうになるはずがないという現実逃避。
現代日本のラノベを読みまくって得た知識に毒された価値観。
既存の、誰かの創り上げたイメージしか浮かべることができない貧弱な発想力。
言葉だけで何とかしようとするずるい考え方。
みんなが魔法を使える世界で、俺だけが魔法を使えない。
魔力を微塵も感じない。
魔力を微塵も見出せない。
魔力を微塵も信じられない。
努力しても努力しても、魔法のまの字も使えない。
何度呪文をノートに書き写しても、魔法が発現しなかった。
どれほど呪文を唱えても、魔法が放たれることはなかった。
おやじもおふくろも、一生懸命魔法を教えてくれたが…、結局、一度も魔法が発動することはなかった。
魔法がありふれているので、魔法なしで何かを成し遂げることが異端でしかない。
誰かに魔法を施されて生活し続けることが、苦痛でしかない。
一人ぼっちで山に暮らし始めて、もうずいぶん長い。
……ぼんやりと時々思い出すのは、この世界に来る前のことだ。
あの時俺は、何を見たんだったっけな。
どうせこんなの縦読みだよと決めつけて、文字そのものを見なかった。
ごちゃごちゃした読みにくい文章なんか、見なくてもいいだろと思ってしまった。
あの時、違う選択をしていたならば……。