【16】特殊能力(チート)を受け取る覚悟
「まず確認したいんだけど、君はチートというものについてちゃんと考えているのかい。とてつもない能力というのはそれだけ使い方も豊富にあるということで、使いこなすことができなければただの使わない能力でしかなくなってしまうって事なんだけど」
使いこなすも何も…、やってみなけりゃわからないじゃないか。
俺はわりとこういう時、悪運ってやつが発動して…なんとかなるんだ。起きてないことを心配してどうのこうの言うなんて、まさに捕らぬ狸の皮算用だろう。
あれこれ心配し過ぎて、結局何もしないままできないまま終わって、後悔するなんて馬鹿げている。いらぬ心配をしても仕方がないっての。
まあ…、気難しく考えなくても大丈夫だろ。
「はは、大丈夫ですよ。受け取ったからにはできることをやらせてもらいますから!」
笑顔を向けるも…、男性はやけに渋い表情をしているな。
「能力というのは、そうだな…君たちのいうところの神的な存在が、この人ならすべて使ってくれると信じて託すものなんだ。渡したものを使わないで過ごすということは、とても…そうだな、失礼なことに当たる。それを踏まえたうえで受け取ってもらわない事には…」
なんだ…、やけに忖度ありきの…いろいろしちめんどくさいことを言っていて、気が滅入ってくるな。
ていうか、心配し過ぎじゃないの?
そんなにぎゃあぎゃあ言わなくても、ちゃんと使うっての…。それこそ神が想定した使い方を上回っちまう可能性だってあるわけでさ!大丈夫だって!
「はは、大丈夫で…
「いいかい、君は…おろかだ。そのことを肝に命じておくこと。こんな所に迷い込むなんて、ごく普通の人というくくりを設けるのだったら…普通はない事なんだよ。ここに来てしまったくらい、君は道理というものを外れていることに気が付かないと。それほどまでに外れてしまっているのに、ごく普通の道理という観念が手離せていないのもどうかと思う。チートがあれば贅沢で気ままでやりたい放題の生活ができる、そんな都合のいい展開はないということを自覚できるのかい?」」
いい加減、大人しく聞いているのがめんどくさくなってきたぞ…。
人の言葉を遮ってまで言う事なのか……?
「伝説の化け物みたいになりかねないと言っているんだよ。驕っていれば必ず潰しにかかるものがいる。明らかに異質なものというのは、平凡に混じることは難しいんだ。そもそも転生や転移というのは、魂に刻まれた記憶に引っ張られて間違った判断をしやすい。おかしな思い込み、おかしな予想、おかしな決断が、延々と続く地獄に繋がってしまう事も珍しくはない。君だって、意味もなく雑草を食み続けるような存在にはなりたくないだろう?だいたいね、君はちょっと…」
どうしたらこのうっとおしい難癖付けを止められるんだ。
俺は延々草を噛み続ける牛なんかになるつもりは一ミリもないってのにさあ…。
「そうですねぇ、うーん……」
腕を組み組み模索してみる体で、わざとらしく唸ったら…、説教の猛襲がやんだ。
…そろそろ解放してくれるのかな?
「……君はいきなり知らない人に自分のうんこをプレゼントすることはないだろう?誰かにとってお宝である物質を君が生成できるとして…、その宝をすべての人がありがたいものであると認識して受け取ることを期待してはだめなんだよ」
「そんな、いきなり知らない人の目の前でうんこするわけないでしょ?!大丈夫ですってば!!」
思いがけずおかしなことを言い出したので、つい反射的にツッコんでしまった。
なんで俺は…こんな場所で脱糞の事を論じなければならないんだ?!
「でも…」
ああもう!!
黙って聞いていれば…なんだこいつ?!
グダグダと説教かましやがって…めんどくさいな!!
「大丈夫だって言ってるでしょ?!あの、ホントにチートを渡す気あるんですか?もしかして実はないから焦らしてるとか?!ちゃんと誠心誠意いただいた力はフルに活用して素晴らしい世界を創り上げてみせますってば!!」
思わず会話を遮って力説してしまった。
ヤバイ、もしかして怒らせたか…?
男の表情は、少し悔やんでいるような、いないような…。
「……まあ、まだ起きていないことを今この場所でくどくど言っても仕方がない…確かにそうだ。悪いね、心配性の私の癖がついつい顔を出してしまったみたいだ。危うく2000字越えの説教をしてしまうところだったよ。君にとっては耳障りの悪いものだっただろう、すまなかったね」
申し訳なさそうに頭を下げた男…、反省するくらいなら口に出さなきゃいいのに。
こっちはしっかりアンタの言ってることが聞こえてるんだからさ、ちょっとは忖度ってもんをしたらどうなんだよ…。そんなことを言われたら俺が不快に思うとか考えられないのかね。
人には先の事を心配しろだのなんだの言うくせに…まあいいや。
ここで許さない選択をしても意味がないし。とっとと先行こ、先。
「いえ…大丈夫です。それで、結局僕はチートをもらえるんですか?」
「ああ、もちろん差し上げよう。…そうだ、お詫びに…、君にプレゼントをあげよう」
男が空中?をスッと握る?と…、薄汚れたスーツケースを一回り大きくしたような木箱が現れた。
プレゼントというくらいだからラッピングされた何かを期待したのに…とんだ肩透かしだ……。
こんな汚いものが、俺に必要なもの・・・?
「これを見て何を思うか…それは君次第だ。たぶん君には荷が重過ぎるものだが、足りていないものを補填するためには必要なものだよ。けど、今の君にとっては…受け入れがたいものでもある。もしかしたら、ショックを受けることになるかもしれない。不審に思うなら、開けなくてもいい。君にはこの箱の中身を受け取るだけの度量がなかったということだからね。これがなくても、君は異世界に行くことは…できる」
なんか歯にモノが挟まったような言い方だな。
「これを持っていくのと持って行かないのとでは、明らかに異世界での生き方に違いが出る。今のままの君にはチートは重過ぎる。たぶん、すぐに死ぬだろうね。でも、チートのせいで死ねない。何度も何度も死ぬだろう。ちょっとした手違い、些細な勘違い…、身に染み付いた日本での常識は、君の命をあっという間に掻っ攫う。チートがあるから、命はすぐに戻ってくる。だがそれは…ああ、すまない、また長くなりかけてしまったようだ。…で、どうする?」
怒りがふつふつとわいてくる。
俺は今…、こうして、ここで生きている。
なのに死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…、死ぬことばかりいいやがってさ。
チートがあればそんなに簡単に死ぬわけねえだろ。
もしかして、俺のことをラノベのパッパラパー主人公どもよりも頭が悪いおっさんだとバカにしているのか……?
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