【14】質問
「…やあ、こんにちは」
薄暗い廊下で、ろうそくの明かりを受けつつ、俺を見る…男性。
穏やかではあるが、にっこり笑っているという感じではない。
…そうだな、初めて会う人だし、警戒も…するか。しかも、こんな場所だしな。
穏やかに声をかけてくれたということはおそらく、こちらの動向を一切気にせずいきなり攻撃を仕掛けてくるようなタイプではないはず…。
「こ、こんにちは…」
悪い人でないことを祈りつつ、極力不信感を抱かせないよう、朗らかに挨拶を返す。
不信感をもって接すれば、相手もまた不信感をもって接してくるものだ。フレンドリーに接したら、きっとフレンドリーに接してくれるに違いない……。
「あの、ええと…ここって、どこなんだか、わかります?僕、気がついたらここにいたんですよね」
緊張感でややひきつった笑顔を向けると、男性はにっこりと笑った。
ちょっとだけ、総務課のシゲちゃんに似た、柔和な雰囲気に…安堵感を感じる。印象は…悪くない。
「うーん、そうだね…教えてあげてもいいけど、信じられないかも?」
ほんの少しだけ、優しさのある表情に見えたのは…気のせいか?
もしかしたら、俺は今、聞いてはいけないことを聞き出そうとしているのかもしれない。
「…教えてください。どうせ…今のままの状態でい続けることは難しそうだし。もしかして突拍子もない事だったりします?はは、やばいなあ、心の準備…、しておかないと」
少しおどけて、不安な気持ちをごまかしてみる。
地獄か天国か、はたまた異次元か…おそらく俺はおかしな場所に迷い込んでしまったに違いない。
思わず、ふうとため息をつくと、男性が何やら口元を抑えながら、もぐもぐと始めた。
何か……食べている?
いや、なにかを取り出すような仕草は見ていない。
これはいったい…。
「…モグ…もぐ、失礼。すみませんね、気になりましたよね。そうだな…そうですね、何から話そうか。あのね、ここはあの世に近い場所なんですよ。私は…そうですね、管理人とか天使とか悪魔とか神とかそういう系統のものでしてね。今食べていたのは、あなたの感情なんです、溢れてきたので、ついいただいてしまって。こんな所にひょっこりやってくるわりには爽やかだったので、ついねえ。今のところ、感情を恵んでくれるあなたを食べたりはしないので、安心してください」
何となく予想はしていたこともあって、不思議とパニックになるようなことはなかった。
もしかしたら目の前の人が食べてくれているから落ち着けているのかもしれない。若干不穏な言葉が混じっているような気がしないでもないが、とりあえず落ち着いて話を聞くことはできそうだ…。
「ここから出る?抜け出す?にはどうしたらいいんですかね?」
「元の世界に戻りたいってことですか?…う~ん、戻りたいような要素、あります?戻せるけど、私はこのまま戻るのはあんまりおススメしないかも…」
…もしかして、今まさに俺の命が尽きようとかしているパターンだったりするんだろうか。
そうだな、ココから脱出したはいいけど、即ダンプでぐしゃっと行くのは勘弁してもらいたい。
「何とか…この場所から脱出して、平穏無事な生活に戻る事ってできないですかね?」
「…平穏無事?うーん、そうか、そうだね…、うん、じゃあ、ちょっと待ってよ…、ええと、少し質問させてもらってもいいかな?」
なにやらメモのようなものを胸ポケットから出して…見ている。
もしかして閻魔帳みたいなものだったりするのか??
ヤバイ、学生時代に借りパクしたファミコンカセットの事とか、賽銭箱にワッシャーごと小銭入れの中身をぶちまけた事とか、ジムのトレーニング用品の汗を適当に拭いて帰りがちだって事とか書かれているかも……。
「質問?答えられることなら、何でも…答えますけど」
まあ、どうせこのパターンは一切の隠し事ができないやつに違いない。今さらじたばたしたところでやらかした過去は消せないし、誤魔化す事も出来まい。
下手な事を言って即地獄行きになっても困る。気を引き締めて、おかしな回答をしてしまわないよう身構えつつ、質問を…待つ。
「もし…生まれ変わるとしたら、魔法のある世界、チート能力がもらえる世界、どっちがいいです?」
やけに今ふうの質問が来て、若干引いている自分がいる。
そんなこと急に言われても……。
「魔法のある世界へは、異世界転生します。赤ん坊からやり直しで、努力したらそれなりに魔法が使えます。ここから出向することになるので、記憶が継承されてしまうため、若干変わり者として生きて行くことになりますね。チート能力がもらえる世界へは異世界転移になります。おっさんのまま移動して、能力で若返ったりできます。今のその体を使いまわすことになるので、かなり原住民に後ろ指をさされることになりますね。ああ…、あと、今の人生を最後までキッチリ生きるという選択もできそうですかね、現在のあなたが本来いるべき場所に戻れば、今まで通りの気ままな生活はできなくなりますけど…」
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