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皇帝と女神と俺と

エリヌの背中に乗って闇の中を突き進んでいると、夜の闇を払うかのようにライトアップされた皇帝が居を構えるマキュタ帝国の城がその姿を表した。機械で構成されている分機械に反射してしまい明るさが増大し思わず目を逸らす。がそこで俺の頭にショートカット出来るかもしれないアイデアが浮かんだ。

「もう少し近づいたらさ、思い切り加速して城の上空を通り過ぎてほしい!」

「え?何言ってんの、振り落とされたい?」

「まさにその通り!そのまま風に乗っていくから」

「風って程強く吹いてないけど!」

「だから思い切り加速してほしいんだ、振り落とされても勢いがあるから城までの距離を稼げると思う」

「でも上空まで近づくのは危険すぎるなあ」

「え何で!」

「私がそもそも降ろすの手前って言ったのはあのデカイ城には自動迎撃システムがあって近づいたら敵味方関係なしに人口雷を起こすして攻撃するんだよね」

「そういう事だったのか…。なら予定通り手前でお願いしたいけど思い切り加速して手前で元きた方向に戻ってほしい。俺が勢いがある内に勝手に落ちるから」

「まあアンタがそれで良いなら別に良いけどさ、後悔しないでよね」

そう言うとエリヌは速度を上げて前へと突き進んだ。必死にしがみつきながら城の手前まで来たのを確認する。

「ありがとう!元気で」

そう叫んで思い切り加速したエリヌの背中から飛び降りる。そのまま着地しても敷地にすら入れないのを瞬時に悟るとまたもや求肥を具現化させてパラシュート代わりにして緩やかに落下しようと試みる。するとみるみる内に城が近づいてきて遂に城を囲うガラクタの城壁を超えた。人口雷が今にでも降ってきそうな気がして空や周りを気にするが特にそんな気配はない。それどころかそのまま城の中腹に位置するバルコニーのような場所に無事着地出来てしまった。だがここまで何も無いことを俺は怪しんでいた。とりあえず目の前にあるガラス窓を巨大煎餅を投げつけて窓を割り内部への侵入に成功する。中には誰一人居る気配が無く折角の立派な城に寂しさを感じた。少し歩くと上へと続く螺旋階段を見つけたので登っていくことにした。エリヌの話では皇帝は立派な城の上部に住んでおり、その部屋の窓から日々地平線を眺めているとのことだった。

螺旋階段を登っていくと明らかに立派な装飾が施された巨大な扉が踊り場の脇に佇んでいた。

「これだよな…さっきからあからさま過ぎて怪しいな…」

そんな独り言を呟きながら扉に手をかけて押す。

鉄製に見えた扉だが意外に軽く難なく扉を押すことが出来た。そうして扉が充分に開き部屋の全貌が明らかになったが意外さが勝ってしまい目を丸くした。なんと部屋には立派な椅子が一つあり、そこに老人が一人座っているばかりで後は城同様がらんとしていたからだ。

「まあそう警戒するな…」

扉が開き入ってきた部外者にそう細々とした声で老人は言い放った。

「あなたがマキュタ帝国の皇帝なのか?」

「…そうじゃよ」

「てっきり恰幅の良い筋肉質のおっさんが皇帝してるのかと思ってた」

「はは…昔はそれに近しい姿だったかもしれんな、今となっては随分と昔だったのでどんな姿だったかも思い出せないがな」

「そっか…。いきなり本題に移るけど、戦争を辞めてくれないか?この戦争に意味は無いだろ。だかがプライドの問題だ、それで全国民を巻き込むなんておかしいだろ」

「ふむ、世間じゃそういう扱いになってるのか。別にワシは戦争しろとは一言も発しておらんのにワシを神格化した一部の国民が騒ぎ立ててこのような有様になっていると言っても誰も信じないだろうな」

「今更責任を擦り付けるのかよ!」

「?別に今更誰に擦り付けるとか考えとらんよ、ただ戦争を焚き付けた訳ではないと知ってほしいだけじゃ。それにお前さんがここまで何も危険を侵さずに来れたのはお前さんにワシを罰してほしいからに他ならんのじゃよ」

その言葉を聞いて思わず口が開いてしまう。

「どういう事だ?」

「もっと具体的に言った方が良かったか。お前さんの能力でワシを殺してくれないかって話じゃよ。ワシはもう充分に生きた。生きすぎたと言っても過言ではない。だからこの際、前途ある若者の手によって殺されるのも一興だと思ってな」

「…それじゃまるで俺がテロリストだろ」

「ここまでズケズケと侵入してきてまだそれを言うのか、既にお前さんは充分テロリストじゃよ」

「だが俺はここに説得しに来ただけで武力でどうこうしようとは思ってない」

そこで帝王が高らかに笑い始めた。

「お前さん、小娘と居た時には武力でねじ伏せるのもありとか言っとったのに今更何をほざく」

「え聞いてたの」

「まあ正確には聞かされた、が正しいのだがな」

意味が分からず首を傾げる。すると後ろの開いた扉の方から足音が聞こえて振り返る。

「…何で…ここに」

驚愕して思わず口から声が漏れ出る。その言葉に反応して扉から入ってきた人物が微かに微笑んだのが見えた。

「何でって私、女神様だし居たって不思議じゃないでしょ?」

例の女神がそこに確実に存在して立っていたのだった。とそこで俺は先程の皇帝の言葉を思い出す。

「聞かされたってまさかこの女神からってことか!」

「まあね~。こんな面白い子いたら誰かに言いたくなっちゃってさ~」

「いやそもそも女神様と皇帝はどういう関係なんですか、ってか女神様は本当は何者なんですか!」

「あーずばり聞いちゃう感じ?やっぱ良いね、君」

「女神とは大層な名前を付けられたんだな、フロテア」

皇帝の口から初めて聞く名前が飛び出し余計に頭が混乱してしまう。それを察してか女神が皇帝をたしなめた。

「ほらほらおじいちゃんったら昔の名前を引っ張り出してきちゃって~。まあいいや。説明してあげる私の正体を」

女神の瞳が輝いたように感じられ俺は思わず息を呑んだ。

「私はね、古代から今までこの世界の管理を任されてるいわば管理人で古の魔法で創られたお人形さんなの」

衝撃的なカミングアウトをされ呆然としてしまう。

「そんな驚かないでよ~。何で私が創られたのかって所から話したら私の事も受け入れられるから、まあ聞いててよ」

すっかり静まり返った皇帝の広間で人形は自らの歴史を淡々と語り始めたのだった。

「あれはもう何千年か前の事、当時この世界の人々は自分達の発展させた魔法によって争いの絶えない日々が続いていたの。そんな時、当時の世界で最強だった魔術師が居てね、その人が自分の亡き後もどうかこの世界を見ようとして人間の肉体から魂だけ引き離して人形に移し替えたの。それが私って訳。その後不老不死の体を得た魔術師こと私は自らの魔術を長い時間をかけて洗練していって、つい百年前くらいにやっと世界を覆う巨大な魔術を完成させて常にこの世界の全てを視ることが出来るようになりましたとさって話なんだけど、どう分かった?」

「じゃああなたの正体って本来なら数千年前に生きてた魔術師だってことですか」

「そうその通り!私こそが最強の魔術師ことフロテア!あ、ちなみにその洗練していく期間の中で魂があの世に行く前にあらゆる並行世界から集まる場所を見つけちゃってさ、そこからたまに面白い事してくれそうな魂を拝借させてもらってたの」

「そうなると俺がショック死してから一番最初に目が覚めた白い壁で囲まれた所ってあの世とこの世の境的な場所だったんですか!」

「おー理解は早くて助かるね~。あんな死に方、並行世界から魂の集まるあの場所でも珍しいから転生するかって声かけたら結構乗り気で内心ビックリしてたんだから~」

「ちょっとそんなに言わなくても…。ってまさかマキュタの土地の数え方も気になってたんですけどまさか今目の前に居るマキュタの皇帝も引っ張って来たんですか!」

すると皇帝がフロテアの代わりに俺の質問に答えた。

「そうじゃよ。ワシも目の前の奴に引っ張られてきたんじゃよ」

「今思うとやっぱり私の目に狂いは無かった!って感じだよ。今までありがとうね」

「高速道路上で物を落として、探そうとして轢かれたバカなワシを救ってくれたんじゃ。何も言えんよ」

「そうじゃんね、ミキオっちも結構やばめな死に方だったよね。やっぱ私ってそういう死に方した人を引っ張って来たくなっちゃうんだよねー」

「そういえば、さっきから皇帝が殺してくれとか言ったり今度はありがとうねって言われたりとかしてるんですけどもしかして何かあるんですか?」

「いや何かもう皇帝としての役目を終えたいって気持ちになったって感じみたい。そんでこの際、ミキオっちの魂を開放して上げて代わりに皇帝の座に誰かすげ替えようかなって魂胆なの」

ここまでの話を聞いてようやく俺は皇帝の座に着けと周りから無言で圧をかけられていることを察した。すると表情に出てしまっていたのかフロテアが言葉を掛けた。

「ようやく気づいたみたいね。傑君を引っ張ってきたのは次期皇帝の座についてほしかったからなの。でもまさか転生して早々、戦場をぐちゃぐちゃにかき回したのかと思いきや逃亡生活送るだなんて女神である私でさえ予測出来なかったよ~」

「でも皇帝にしたいなら最初からそう言えば良かったんじゃないですか?」

「まあそれでも良かったんだけどね。右も左も分からない状態でいきなり皇帝って言われても困るよねーって思って」

「意外と優しいんですね」

「いやいや私、意外でも何でもなく普通に優しいから!」

「思い返せば転生後に逃亡生活した奴蘇らせるなんて結構突飛な考えですもんね」

「ね、でも皇帝になるくらいの人材なんてこんくらいぶっ飛んでた方が良いから」

「となると今の皇帝も一回目の転生でやらかしたりしたって事ですよね」

「お前さんと同じにするなよ、ワシは女の子を助けようとして死んだくらいじゃよ」

「まあその後、助けた女の子に気に入られようとしてずっと付きまとった挙げ句、女の子の両親を殺したんだけどね」

予想の斜め上をいく所業に俺は思わず一歩引いてしまう。

「あーそうだったよね。んで転生し直したんだけどそしたら間に合わずに女の子死んじゃうっていうねー」

「それからワシは魔術を学んでいって、いつしかマキュタの当時の皇帝に目をつけられて呼び出されたかと思ってたら今と同じ様に殺してくれと頼まれたて殺して皇帝になったんじゃよ」

「前も似たような感じだったとは…」

「まあこの世界で王族とか皇帝とか大層な肩書き持ってる人は例外なくこの世界の住人じゃないよ。だってこの世界の人達だけのやり取りとか見飽きちゃったから。でもそれ思いついたのが丁度ミキオっちを転生させた時期からだけどね。ってそんな事よりどうすんの君!皇帝になるのならないの!」

「…それはもう決めてます」

そう言った俺を見て覚悟を決めたのか皇帝ことミキオさんはゆっくりと両手を広げて目を瞑るとその体躯に合わない立派な椅子にもたれ掛かった。俺もそれを察して硬さを倍にした千歳飴を具現化させてそれを無防備な状態の老人の胸に思い切り突き立てる。

うっ…という苦悶の悲鳴を一瞬上げるとうなだれてあっさりと力尽きた。俺は血の付いた千歳飴を地面に放るとカランという無機質な音が室内に響き渡る。俺も感情を抑える為に目を瞑った。

「ねえ、やっぱり君面白いね」

だが余韻に浸かる暇を与えないと言わんばかりにフロテアが話しかけてくる。

「それってどういう意味ですか」

何故今その言葉を掛けるのか気になり問いかけてみる。するとフロテアは俺の横に立つと言葉を続けた。

「だって今、笑ってるもん君」

そう言われ俺自身の顔が自然と笑顔になっていることに気付く。

「君さ、いつの間にか誰かを殺す事に快感を覚えるようになってきてるでしょ」

この世界の管理人である彼女に隠す事なんて出来るはずがないが、一応どこが引っかかったのか気になり質問をしてみる。

「…どこでそう思ったんですか」

「色々とね。まず一番最初の戦場で怒りで我を忘れて兵士を殺し回ってたときも最後の方は笑ってたし、その後何十年と逃亡生活してた時も道すがら人を殺してたけど、それよりも自分が孤独を覚えることを嫌悪してた。多分皇帝の所に行くってなった時もエリヌが居たから交渉って言ってたけど、どこかでさっさと話が決裂して殺し合いになるのを心待ちにしてたんだと思ったんだけど、どうなの?」

フロテアが今言った事は確かにほとんど合っていた。合っていないことがあるとすれば一番最初の戦場で怒りに任せて人を、エリヌをうっかり殺めてしまったがその時に心のどこかで今までに感じたことのない気持ち良さを感じていたことだ。

「確かにその通りです。だとしてどうする気ですか」

「え、別にどうもしないよ。でも改めて面白いなーって思っただけ。あそうそう皇帝殺したけど後継ぐ気なんて更々ないでしょ」

「さすが女神様、何でもお見通しですね」

そう言うと俺はフロテアを横目に部屋の扉へと向かって駆け出した。それから窓を見つけるとそのままの勢いでガラスを突き破り外に出た。もちろん足場など無いため落下するが巨大なマシュマロを具現化させて緩衝材代わりに下に置いてそのまま落下する。皇帝亡き今この城の防衛システムは稼働することはないだろうと考えて堂々と正面を走った。

走り続けているとあっさりと城壁まで辿り着くことが出来たのでそこを伝って正門へと歩みを進めた。この時周辺はただひたすらに静かで己の心臓の高鳴る音だけが身体を伝わり鼓膜を震わせていた。しばらくすると正門まで辿り着いたがそこにはフロテアがただ一人立っていた。

「折角転生し直したのにまた前回と同じ逃亡生活始めちゃうんだ」

「…次期皇帝を継いでくれと言われた瞬間、目の前の椅子にしゃがれた状態で座っている皇帝に自分の姿が重なりました。いつしかこうやって見ず知らずの誰かに自分も殺してくれって懇願する時が来るんだろうなって考えたら寒気がしていつの間にか走り出してました…。俺はそんなことになるなら前みたいに世界中から疎まれる悪人として逃亡生活を繰り広げる方がましです!例えその中で殺される日が来たとしても皇帝の椅子に座って世界を傍観する日々を選択するより自分は満足していると思います。だから通して下さい!」

「そこまで言わなくても通すよ、でもやっぱり面白いね君。こういう人生を選ぶ人も居るんだって参考になったよ」

そう言うとフロテアは道を開けた。すかさず俺はその横を通り過ぎて外に一歩足を踏み出す。

「そうそう、もう後悔しても転生のチャンスは無いからそのつもりで。じゃ頑張ってね」

フロテアはそんな言葉を最後に残すと手を振りながら何処かへと消えていった。

「もちろん、覚悟の上だ!」

誰に聴かせる訳でもない宣言すると荒野へと駆け出していた。その時の俺の口角は確実に上がっている感覚がした。

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