探索班2(2)
オリファは今、人生で初めての規則的な生活をしている。今はまだ訓練中で、実戦には出ていない。
ここに来た当初は、起床時間の早さに慣れるのに苦労した。子どもの頃は早起きして炊事洗濯をさせられていたが、その後は昼夜逆転が当たり前だったのだ。
ただ、ここでは素でいられる。仕事のために演技をしなくていいし、仲間とは本音で話せる。その日の気分で、訓練に身が入らないこともあるが、今の生活の方が、自分には性に合っていると思う。
長かった黒髪は、ここに来てすぐに、肩にかからない程度にバッサリ切った。ここの班員は大体髪を短くしている。彼女たちの故郷では、気分転換という信じられない理由で髪を切ることもあれば、過去と決別するために切ることもあるという。だから、真似をしてみた。短くしてみると、動きやすいし手入れしやすいし、結構楽だ。普通は腰に届くほどに伸ばすものだから、街に出る時には布で覆ったり,
傭兵のふりをしないといけないけれど。
彼女たちは、神殿生活が長かったせいか、驚くほど街の生活を知らない。外の人間が当たり前に知っていることを、細かく教えてあげる必要があった。多少は、外国人で通せるにしても、あまりに頓珍漢なことをしていると、異民とバレる可能性があるのだ。
一般人の異民に対する感情は、あまり良くない。王都では、より冷たいと感じる。実際に知り合ってみれば、何も警戒する必要がない相手だと分かるのに。
探索班は、他の部隊と違って、班の中に上下関係があまりない。
班長のレーナは、一見物静かで、普段はあまり自己主張もしない。けれど、修練の際の集中力と気迫は群を抜いているし、誰よりも長く鍛錬をしている。彼女たちに何があったのかは、ここに来てすぐに聞いた。必死になるのも道理だ。
きっかけになったのがレーナだから、その流れで班長になっただけだと本人は言う。しかし、話し合いの中でも、要所要所で発言する彼女の言葉が、意見を纏めていくようにも見えるし、彼女の行動が流れを決めることもある。この集団を引っ張っているのは、間違いなくレーナだ。
その横で、この集団を纏めているのは、エレナかもしれない。小さないざこざや仲違いが起きた時、落ち込んでいるメンバーがいる時、すぐに間に入って修復するのが彼女だ。ここの班員は総じて育ちの良さそうな人が多いが、その中でも、エレナは本物のお嬢様ではないかと感じることがある。オリファが見慣れている下町の女たちと違い、物腰が柔らかく、擦れた物言いをせず、見た目も可憐だ。
彼女も、戦っているところが想像できないが、レーナの次に剣を取ったのが彼女だというから、人は見かけによらない。
レーナもエレナも、時折丁寧すぎる物言いをすることがあるが、特にレーナが訓練の時にする行動が謎だった。
指導教官に必ず頭を下げながら挨拶をする。近衛隊長にもだ。あの隊長のせいで死にかけたはずなのに、それでも、最後には感謝の言葉を述べている。決まり文句のようなものだということは、見ていれば分かるが、ちょっと丁寧すぎやしないだろうか。もっとも、あの隊長のおかげで生き延びた、とも言えるのだが。
「きっと、レイナは、サムライレディーなんだと思う。」
とアンヘラは言った。
「何それ?」
「ええと・・・騎士、みたいなものかな。」
「騎士と違うの?」
「う~ん、ちょっとニュアンスが違うみたい。もっとストイックな感じなのかな。レイナの国の文化でね、礼儀をとても大事にするの。あと、自分より周りを大事にしたり、死ぬことを恐れない、ていうイメージね。」
「ふ~ん、なるほど。」
レーナの戦いぶりを思い出して納得する。死を恐れないということはないだろうけれど、自分より仲間を優先する瞬間が、確かにあった。彼女の実力では、それはまだ危なっかしいことだけれど。
それに、騎士みたいなもの、と言われると、彼女の立ち居振る舞いは、兵士というよりは騎士に似ている。感情を露わにせず、概ね誰に対しても丁寧で、強制されなくても自分から規律に沿うように動く。
ただ、たまに感情がダダ洩れになることがある。相手に心底呆れた時や、軽蔑している時などは、とても冷たい目をするのだ。
首筋に氷を押し当てられた気分になりそうなほどに。
相手によっては問題になりそうだから、外部の人間と話す時は、あまり目を見ないほうが良いと忠告しておいたけれど、どこまで理解したかは疑問だ。
それでも、彼女の温かさは心に残っている。時折見せる強さは好きだし、前面に立とうとする姿勢も嫌いじゃない。若干危なっかしいところは、手を貸してやろうかという気になる。だからこそ、彼女を中心に、皆まとまっているのだと、オリファは思うのだった。




