表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼天の星と漆黒の月  作者: 紫月ふゆひ
12/99

帰還

 神殿に戻ると、世話係の助祭が変わっていた。全体に、何となくよそよそしい。

 神殿に戻されると聞いた時は、緩慢で、閉塞的で、でも危険のない、そんな生活に戻るのかとも思ったが、おそらくそうはならないだろうと、今は思う。

 前とは、色々なことが変わってしまった。

 全て、無かったことにはならないのだ。


 神殿には、墓所がある。主には、神殿で生を終えた聖職者の為のものだが、その一角に、施療院で亡くなった旅人などの為の、いわば無縁墓地のような場所があった。風雨にさらされる所だが、晴れた日は光も差し込む。

 その壁際に、一抱えほどの石が置かれていた。墓石のつもりだが、表面には何も刻まれていない。

 ヘザーがここにいるかどうかは分からない。神殿の人が、ここだと言ったから、目印を置いたのだ。ここで、彼女を思い、ここに戻って来られなかった仲間達を思い、祈っている。

 それは、何かを変えることにはならない。彼女達を救うことにもならない。私はヘザーを助けられなかったし、北の丘陵地帯で死んだ仲間達を、助けることもできなかった。

 だから、これは自己満足だ。祈るのも、花を手向(たむ)けるのも。


「レイナ」

 幼い声がかかる。

 アーシが、小さな花を、土ごと手の平に乗せている。

 キラキラした瞳のアーシは、まだ十歳に満たない。神殿に残していったときは、この先どうなるか心配だったが、結果的には、留め置かれて正解だった。

「その花は?」

「摘み取ってくると、すぐ枯れてしまうから。土ごとお墓に埋めておけば、長く咲けるでしょ。」

 この子は優しい子だ。ここに来てからずっと、弟とお母さんの心配をしていた。ここなら食べ物の心配がないから、二人ともここに連れてきたいと言っていたのだ。それが、本当に良いことなのかは、分からないけれど。

 一緒に、墓石の近くに花を植える。

「ありがとう。」

と言うと、アーシは眩しいくらいの笑顔で笑った。





 魔物討伐の詳細が報告されると、帰投した異境の民については、放免とされることが決まった。その後、会議を経て、正規軍の魔物探索班として、正式に組み込まれることとなった。当初は複雑な顔をしていた総司令官も、事前の魔物探知によって、兵の損害を減少できることが分かると、納得した。

 納得しないのは、その他の者達だった。


「リオディス卿。」

 王城の廊下を歩くリオディスを呼び止めたのは、壮年の貴族とその取り巻きだった。

「レヒバウエン伯爵。」

 立ち止まり、軽く会釈をする。

「どういうことですか。あの異民どもを連れ帰るばかりか、軍に取り立てるなどと。」

 レヒバウエン伯爵は、異民排斥を強く主張した貴族の一人だった。

「あの者達を連れて戻った経緯は、既に報告した通りです。」

 冷静に返すと、伯爵は大仰なほどの身振りで、感情に訴えるように続けた。

「リオディス卿。異境の民のせいで、我が家は跡継ぎを失ったのだ。貴方なら、(かたき)を討ってくださると思っていた。」

 息子を亡くしたことには同情する。だがその全てを異境の民の責とするのは、いささか飛躍が過ぎる。


 被害の拡大を招いた要因はいくつかある。

 伏兵の予測をしていなかったこと、兆候を見逃したこと、奇襲に対する初動対応の拙さ、連鎖的な判断の誤り。

 上級士官であったレヒバウエン伯爵の子息が、そのどれかに関わっている可能性もあった。そこから目を逸らすのに、異境の民は都合がよい。だが、処刑された娘以外の者達に、処罰を受けるべき(とが)は、初めからなかった。


「異境の民の扱いについては、御前で行われた会議で正式に決定されたことです。陛下も裁可なされた。余人が口を出すことでもありますまい。」

「その御決断は誤りです。国王が過ちを犯したなら、お諫めするのも臣下の役目ではないか。」


 リオディスの目が鋭く細められる。それだけで、周囲の空気が張り詰めたものになる。

 誰にとっての()()か。

 貴族が、自分に都合の良い理屈で、王の決定に口を挟み、あまつさえ覆そうとするならば、それは王の権威を脅かすことにつながる。近衛隊士として、見過ごすことはできないし、容赦するつもりもない。


「言葉に、気をつけられよ。伯爵。」


 一段低くなったリオディスの声に、己の失言を悟った伯爵は、しどろもどろの言い訳をして、取り巻きと共に去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ