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第1話 恋せよ乙女、たとえ人類が滅びても


 神は過ちを犯した。

 自身の子である人間を、彼は余りにも自由にさせ過ぎてしまったのである。


 空も海も山も。全ては人間の手によって、取り返しがつかないほどに汚され、そして破壊し尽くされた。


 それに神が気付いた時には……もう、何もかもが手遅れだった。荒れ果てた大地を見た神は、深く(なげ)き悲しんだ。



 結果、神は一つの選択をした。


 初期化――つまりは、世界の浄化である。


 失敗した絵を、キャンバスごと無地に戻すかのように。これまでの全てを、一切無かったことにした。



 いったいどうやったのか?


 神は星を、深い雪で覆ってしまったのだ。

 それも、あっという間に。



 白銀、白雲、白煙。

 視界に存在している天地すべてを、あらゆる白が埋め尽くす。穢れの無い、無垢な赤子の世界。


 どんな色も、圧倒的な雪と風の暴力にかき消され、やがて白へと還っていった。



 今では、全ての命が平等だ。

 ひとえに()()しかないのである。


 そこには倫理観も、法さえも存在しない。

 すべてはこの過酷な自然によって生かされ、そして死んでいく。


 嗚呼(ああ)、なんと残酷で、美しい世界であろうか。



 これに神は喜んだ。これでもう、大丈夫だろうと。人間の殆どが死に絶えたが、それも自業自得なのだから仕方がない。今度は上手く管理しよう。僅かな希望を与え、細々と生かそう。


 その為の準備を終えた神は、再び深い眠りへと沈んでいった。



 こうして白の浄化によって、地上からは生命がほぼ消え去り、世界は静寂に包まれた。



 確かに平和な時代だった。争いが起きることも無く、やがて百年の月日が経った。


 もういいだろう、と神はそう判断した。

 ようやく、世界に再び目覚めの時が訪れたのだ。



 目覚めの使者となる少女は今、死の大地を独りで歩いていた。(きら)めくシルバーの長髪を揺らし、白の世界を行く。


 ダンスのステップでも刻むように、ラン、タン、タンと。楽しそうに鼻歌を唄いながら、雪と共に舞い、跳び、踊る。


 驚くべきことに、彼女は簡単なローブしか着ていない。


 それでも寒さに身を震わせることも、雪に足を取られることも無い。普通の人間であればとっくに、この深い雪の墓地で永遠の眠りについているはずなのに。


 こんな地図も目印も無い場所で、いったい彼女は何処へ向かおうとしているのだろうか。


「えへへっ♪ はっやっく、逢いたいなぁ~私の御主人様♡ いったい、どんな人なのかなぁ? 私のこと、思いっきりぎゅーって抱いてくれるかなぁ……うふふっ」


 誰に言うでもなく、ただの独り言を風に乗せて微笑む少女。


 ――間違いない。誰が見たって、異常である。


 吹雪が見せた幻想、雪の妖精とでも言った方が、まだ現実的かもしれない。

 


「もう少し、あとちょっと……あの場所に、絶対に居るはずなんだから。……うん、頑張ろう」


 情緒が不安定な言動は、兎も角として。彼女はまだ、完全には狂ってはいなかったようだ。別に自殺志願者というわけでもなさそうである。


 なにより彼女の瞳には、生きるという強い意志の炎が灯っていた。必ず、あの人に会うのだ。私の使命を果たすために、と。

 


「見えた……アレがスノゥドーム!!」



 ――そして彼女の願いは近く、果たされようとしていた。



完結まで執筆済みです。

13話+α予定。お付き合いくださるとうれしいです。

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