7.勘違いしていたみたいです
クレア様はあのまま何も言わずに立ち去ったので、私も他のみんなと合流して帰ることにする。
「マードリア、これから頑張れ」
ガーラは机に手と頭を置いて喋りかけてきた。
「あ、そっか、ガーラ斜め前なのか」
「そそ。けど前列は勘弁して欲しいよ。でもまあ、ペアは知らない子だったけどいい子そうだった」
「それは何よりで。クレア様に関してはまあ、授業の間なら問題ないと思うし大丈夫だよ。あれでも一国の王女だから、国に泥を塗るような事はしないよ」
「まあそうだね。マードリアだし、もしかしたらクレアも誑すんじゃない?」
ガーラはイシシと意地悪おかしく笑う。わたし誑しと言われるほど誑してないし!
「私そんなに誑してないよ!」
「それはどうかな。でもとりあえずマードリアはいいとして、ボク的にはチコの方が心配」
「ああ〜」
あの子他人相手だとめっちゃ言葉噛むし、目線合わせないわ警戒するわですぐに仲良くはならなさそう。
定型文ならちゃんと言えるのにな。……そう考えると幼少期よりチコの人見知り悪化している気がする。
「そういえばガーラはどうやってチコと仲良くなったの?」
「マードリアの話と百合の話しているうちに仲良くなったよ。最初会った時は意味が分からなくてずっとボク一人で考えてたから話してなかったな〜」
「そういえばそうだったね。私あの頃のガーラとは関わらないようにしようと思ってたんだよね」
「わーひどーい」
わざとらしい棒読みで私に抗議してくる。
「ごめんごめん」
「あ、今思い出したんだけど、初めてボクとマードリアが話した時、マードリアボクに好きって言ってたけどなんで? まさかボクを落とそうとした?」
「そんなわけないでしょ。たしかだけど、名前の呼び方に関しての理屈? がゆうちゃんに似てるなって思ったの。だから、ああ、この子ゆうちゃんに似ててなんか好きだなぁって思ったの」
「なるほど、つまり前世のボクが好きだったと。でもごめんよ、ボクはマードリアとは付き合えない」
なんだろう、この告白してないのにフラれた気分。
何かやり返したい。
「チコがいるから?」
ガーラは驚いたように目を見開いて私を見る。
「はぁ?」
と間抜けた声を出した。
「え、いや、なんでそこでチコが出てくるの?」
「え?」
そしてその返答に私も変な声が出てしまった。
「え、なに、チコと付き合ってるんじゃないの? いや、そこまでいってなくても両想いとかだったりしないの?」
「…………はあ⁉︎ え、ボク達そんな風に思われてたの⁉︎」
「え、違うの⁉︎」
私達はあまりの考えのすれ違いに脳の処理が追いつかなくなってしまった。
ポンっと肩を叩かれてようやくハッとした。
「二人で話していたからそっとしておいたのだけど、そんな大声を出すのははしたないからやめなさい」
「ガーラも、いきなり大きな声出してどうしたの?」
「え、いや、えっと」
ガーラは未だに混乱しているようだ。
「何? 言ってごらん」
「マードリアがボクとチコが付き合ってるだとか両想いじゃないのとかなんとか言い出して」
チコはゆっくり私の方を見て、再びガーラの方を見た。
「えっ⁉︎ なんで⁉︎」
「え、あなた達そういう仲じゃないの?」
ここで意外にもアイリーン様が反応した。
「違いますよ! ガーラがあたしに惚れるのはともかく、あたしはそんなに……」
「どうしてボクが惚れるのはともかくなの! 普通チコがボクに惚れるでしょ!」
「え、いや、その、そうじゃなくて……、マードリアはどうして他人のそういうのには変な勘違いを起こす癖に、自分に向けられている恋心には気づかないの」
ええ、このタイミングで私に振らないでよ。
アイリーン様の方をチラッと見たつもりがばっちり目が合ってしまった。
その瞬間、ほんのりとアイリーン様の頬が赤くなる。
「ほら、こういうのしょっちゅうあったくせに気付いてないの」
「え、嘘⁉︎ い、いやいや、今は気づいてるからいいの!」
「もっと前から気づきなさいよ」
まさかのここでアイリーン様に抗議されるとは。
というかなんか話の論点ずれてない? 女子特有の話が飛躍するあれですか?
こういう時はどうするか、そう、逃げる!
「レ、レンちゃん、リリー帰ろ〜」
「あ、逃げた」
「逃げたね」
「逃げたわね」
逃げるよ〜‼︎