85.準備です!
ガーラは一度深呼吸をすると、真面目な顔になった。
「はー。よし、やるか」
ガーラはたぶん、まだ自分を責めてる。ガーラは自分ですべて背負って溜め込んでしまうから。だからいつか、ガーラの負担を一緒に、無理矢理でも持ってくれる人が現れたら、ガーラは自分を許せると思う。そんな日が来ることを願って、今は目の前のことに取り組む。
「道具は揃えてるよ」
「おーサンキュー。はいこれ、色々と考えたやつ」
「ありがとう。……あ、これ」
「何? 何か問題でも?」
「ううん。これ、私とチコが初めて会った時一緒に読んだやつ」
「あー、だからそれお気に入りなんだ。ボクの時も、前作読む前に読まされたから」
「チコって強引なところあるよね」
「まあ、そこが個性なんだけどね。それでいい?」
「もちろん。で、そうとなれば漫画にする部分は」
「「王女が主人公に歩み寄るシーン!」」
もう十年以上の付き合いになるけど、好きは変わらないな。
「うん、完璧。これでいこう! 今日はもう遅いから明日から」
「りょーかい。じゃあボクは部屋に行くよ。どんなところか確認しないと」
「うん。夕飯はそっちに送るから」
「分かった。じゃね」
「うん、また明日」
次の日、朝早くから私の掛け布団が引っぺがされた。
「んー、あと十分」
「起きろ。早く起きないとベッドから落とすから」
「ゆうちゃんひどーい」
「ほら、寝ぼけてないでさっさと起きる」
言葉に嘘はなく、本当に私をベッドから落とした。
「いった!」
「下ちゃんとやわらかくしてるから痛くないでしょ」
「気持ちの問題だよ。本当のメイドだったらクビだよ」
「大丈夫。マードリアのお母さんとジェリーさんとメイド長には許可取った」
絶対反対するところは避けたな。はあ、娘でお嬢様になんて仕打ちを許してるの。
「ほら、そんなことどうでもいいから早く支度して。そしたら朝の分は終わりだから」
「はいはい。はぁ、ガーラって朝は強いんだから。ずるいな〜。性格的にそういうのは私の役目でしょ」
「ごちゃごちゃ言わないで支度する。それともボクに全部やってほしい?」
ガーラの場合じゃあお願いとか言うと本当にするからな。
「一人でやります」
「じゃあボクは着替えてくるよ」
「あれ? 仕事は?」
「マードリアが全部やるならボクはお役御免だから。じゃ、そゆことで〜」
ガーラが部屋を出たので、私は朝の支度を済ませる。
「おはようございます、お兄様」
「おはようリア。今日は早いね。たまに早起きするのも良いことだよ」
「ガーラに起こされまして。少々断雑に」
「友人だからこそ出来ることだね。ガーラさんがいる内は遅くまで眠れなさそうだね」
「勘弁してほしいです」
私は会話の傍らに食事をする。
「まだ食べてるの?」
「うわっ! ガーラ、びっくりした」
「おはようございます、ガーラさん」
「さっき挨拶しましたよ」
「でもリアはそのことを知らなかった。ですから、そういう場では礼儀として再度挨拶をするものです」
「そういうものですか。では、おはようございます、お兄さん」
「ありがとうございます。ガーラさん、リアをよろしくお願いします」
「はい。マードリア、先にコマ割りやっとくから。あとこれ。簡単にネームは描いといたから。とりあえず今日はマードリアとボクで五枚ずつ下書きをする」
「分かった。わざわざありがとう」
「じゃあ、ボクは先に取り掛かってるから。食べ終わったら来なよ」
「うん。お願いね。あ、鉛筆と消しゴム取り寄せてるからあるよ。ちょっと使いづらいかもだけど」
「いいよ、ありがと。早く来なよ」
「うん」
むしろ負担を押し付けるんだよな〜。




