77.少しは自重します
二人がもう食堂に向かっていない事を祈ってノックする。
「はい」
「マードリアです。お土産を渡しにきました」
ドアが開くとリリーが出てきた。
「マードリア様、わざわざありがとうございます」
「私もちょうど二人に話したい事があったからちょうどいいよ」
「でしたら、中に入られますか? アイリーン様、よろしいですか?」
「いいわよ。あ、ごめんなさいマードリア、今紅茶しかないわ」
「別に大丈夫ですよ。夕食もうすぐですし」
私は二人が座った事を見て、話を切り出した。
「そういえば今日、レンちゃんにお土産渡したんですよ」
そう言うと、明らかに二人に緊張が走った。
「ですが、部屋に戻るとレンちゃんの机の上に私がどちらにしようか悩んだ、帝都でしか手に入らない花の種があったんですよ」
二人はまるで時が止まったかのように動かなくなる。
「なので聞いたんですよ。そしたらなんとびっくり、アイリーン様達からの贈り物だそうです。どういうことでしょうか、アイリーン様、リリー」
二人はしばらくの沈黙の後、意を決して口を開いた。
「て、帝都に行ってもおかしくはないでしょう」
「アイリーン様、言いたい事はそれだけですか?」
「もう、分かっているのですよね」
リリーが諦めたように聞いてくる。
「ガーラから聞いたよ」
「ごめんなさい」
「申し訳ありません」
二人は頭を下げて謝った。普段は私が下げる側だから思うけど、二人のこんな姿を見るのは良い気分じゃないな。
「顔を上げてください。たしかに、つけられて良い気分はしませんが、心配だったんですよね? ガーラに聞きました。言い訳聞きますよ」
「あなたは、良く言えばで差をつけない。悪く言えば人との距離感を調整できない。みんながみんな、マードリアに同じ感情を向けているわけじゃないわ。私達が良い例でしょ」
「男女二人で出かけるのは良いです。それは否定しません。私もダミアと出かけたりするので。ですが、マードリア様は心配なんです。マードリア様は男性に手を握られてもなんとも思いませんよね?」
「うーん、まあ」
お兄様なんて抱きついてくるし。
「普通は意識するものです。特に、好きだと伝えられた相手からは。そうでなくとも、男性にそのような行為をされたら多少なりとも意識します。ですが、マードリアさまはしませんよね。そういうところが心配なんです。それと──」
リリーが口ごもり、言うか迷っているようだ。
「それと?」
「え、あ、その、羨ましかったというのもあります。私はまだマードリア様と二人で出かけた事がありませんし。昨年の出来事は出かけたとも言えませんし」
「そっか、なんかごめんね。その、言い訳になるかもしれないけど、私の身近にいる男性ってお兄様だから」
そう言うと、二人は少々納得げな顔をした。
「たしかに、兄がスキンシップ多いとそうなるわよね」
「ですが、お兄様でも私をつけたりはしません。ですので、今後は控えてください。忠告は聞きますので」
二人は今までで一番ショックを受けたようだった。そんなにお兄様と比べられるのが嫌なのか。
「気をつけるわ」
「もうやりません」
「お願いします。あ、あとリリー、今度出かけようね」
「え、良いのですか?」
「もちろんだよ」
「マードリア、私も」
「今回の事を企てたのってどうせアイリーン様ですよね? なのでダメです。それでは、私は食堂に向かっています」
「あ、私も行きます。アイリーン様も。……アイリーン様?」
初めて放心状態を目の当たりにした。少し冗談がきつすぎたのかな? まあ、おあいこと言うことで……。
あけましておめでとうございます。
そりゃあのシスコン兄と比べられたくないよな。ちなみに次の章はガーラメインです。
投稿する時くっそ長い幕間だなって思ってました。




