70 やります!
遡る事二日前。
「ノワール、お願いがあるんだけど」
「マードリアのお願いなら聞いてあげるの! なんなの!」
「あの、精霊を強制的に人の身体から出して、正直な事を言わせることってできる?」
「そんなの簡単なの。ラミス、出てくるの」
ノワールがそう言った瞬間、ラミスが勝手に出てきた。
「ノワール様、お呼びでしょうか?」
「これで分かったの?」
「いや、うん、分かったけど、でもなんでラミスは出てきたの?」
正直引きずり出す事はできないと思ってたから、フーリン様の力を借りて強要してもらおうと考えていたから。
「精霊は上下関係が厳しいのよ。というか実力主義だから、力が上の者にはそうそう逆らえない。もちろん、私自身やマードリアに危害を加えられるとなったら抵抗するけど、ノワール様はそんな事しないから」
「どうやって危害を加えられるとか判断できるの?」
「あなた達人間は分からないと思うけれど、精霊には微細な魔力の動きで害ある魔法かどうか分かるの。その魔力の動きを読み取って、ノワール様の呼び出しにも応じた。仕組みは分かった?」
「分かったけど、だったら呪いとかどうにかできたでしょ」
「呪いは精霊の力が変化したやつだから簡単には防げないの。ノワールならできるけど、ラミスは無理なの」
「そういうこと。実力がかなり離れてないと対処できないのよ。で、私は戻っていいの?」
「あ、うん、いいよ」
ラミスが私の体に戻ったので、話を続ける。
「えーっと、話を戻すけど、私がノワールにしてほしいのは、ノワールの力を使って精霊に真実を吐かせて、ある人の冤罪を晴らしてほしいの」
◇◆◇◆◇
「という作戦なんですが、一つだけ確認しておきたい事があるのです。本当に、殴っていませんよね?」
「ああ。だが、本当にその子が俺に協力してくれるとは……」
そう言われると思い、私は横を向いて声をかける。
「いいよ、ノワール」
そう言うと、今まで見えなかったノワールが姿を現した。
「仕方ないから、マードリアのためにお前に協力してやるの」
カヌレ様はノワールを見ても一切動じない。流石だよ。
「……君が、従わせられるという証拠は? 話は聞いたし、マードリアが嘘を吐くとも思えない。ただ、それだけで完全に信じられるほど、俺は世を軽く見ていない」
百聞は一見にしかずだしね。
「そんなの、そこにあるの。出てくるの」
ノワールがカヌレ様を指しながらそう言うと、カヌレ様の精霊が出てきた。
「どのような御用でしょうか、ノワール様」
カヌレ様の精霊は片膝をついてノワールに頭を下げている。ラミスの態度とは大違いだ。
「こいつは本当に人を殴ってないの?」
「はい、殴っておりません。彼は必死に怒りを鎮め、堪えておりました。今回の事件は、彼を陥れる為の自作自演と言えます」
「分かったの。戻っていいの」
「失礼します」
精霊は一礼すると、カヌレ様の元に戻っていった。
「分かったの?」
「……何もしないでこのままチコに、皆に迷惑をかけるくらいなら、戦おう」
「それって!」
「ああ、裁判を起こそう」
カヌレ様のその言葉を聞いて、飛び上がりたいほど嬉しくなった。
「勝ちましょう!」
カヌレ様は頷くと、しばらく席を外した。
戻ってきたカヌレ様の手には大きな革袋。中身は私が持ってきた金額と同等のお金が入っている。
「ずっと貯めていたものだ。けど、これは一時的に使うだけだ。お金は勝ってバランに払わせる。だから、気にするな。もしマードリア達がお金を出した事がバレれば、俺に加担したとして面倒な事になる。だから返す。その代わり、勝てるよう祈っておいてくれ」
「もちろんです」
そこからは私達三人でより綿密に作戦を立てた。




