69 説得します!
私は休み期間を利用し、ブライト家に足を運んだ。
「急な訪問ですみません。早く済ませてしまいたいと思いましたので」
「…………」
カヌレ様が目を合わせたので、話を切り出す。
「単刀直入に言います。裁判を起こしましょう」
「…………勝ち目がない。さらに汚名を重ねるだけだ」
カヌレ様は諦めたように溜息をついた。
「ビケット王子様にも言われました。バラン王子は買収すると」
「それだけではない。もっと確かなものだ」
「確かなもの?」
「……地位と評判だ。君も貴族だ、ブライト家の悪評は聞いているだろ」
「えっと、運動祭の時に少々」
でも聞いたのはブライト夫人の事だけ。しかも全然教えてくれなかったからどんな評判かは知らない。けど、なんとなくは分かる。
しかしカヌレ様、今日はすごい喋ってくれる。そういえば、カヌレ様が話さないのって口調が貴族の割には荒いから、親に喋るなときつく言われていたんだっけ? だから別に性格の問題ではなかった気がする。
でも、ビケット王子様もフランクだけど、時と場合を考えてるから、そこの違いかな。
「なら、ブライト家全員貴族に嫌われている事くらい知っているだろ」
「え?」
ブライト家全員嫌われている? カヌレ様もチコも?
私も驚いたが、カヌレ様も珍しく少し目を見開いて驚いた表情を見せた。
「知らなかったのか?」
「詳しくは何も」
カヌレ様は私を一瞥すると、納得したように頷いた。一体何に納得したのやら。
「君の周りの貴族が、わざわざ言うはずもないか。恵まれているな。ちょうどいい、教えよう」
カヌレ様はそう言うと丁寧に教えてくれた。
ブライト家は昔からずっと嫌われ貴族だった事、フレーバ家とよく比較されいる事、そしてブライト夫妻(主にブライト夫人)にカヌレ様は疎まれている事。
「だから裁判をやっても意味がない。あいつの家も中々の嫌われ者だが、年月も反感も圧倒的に我が家だ。そもそも両親が俺に手を貸すはずもないからな。それに費用が──」
私は鞄からお金を取り出し、カヌレ様の前に置いた。
「裁判費用は私達が出します。そして、カヌレ様は負けません。絶対に勝てます。これは希望的観測ではありません。確実な未来です」
「……受け取れない。それに、一体どこから……。小遣いを貯めていたとしても、君はよく本を買っているのだからこんなに貯まらないだろう」
うっ、カヌレ様鋭い。
「裁判を起こすと言ったら、みんな出してくれました。それだけみんな、カヌレ様の冤罪を晴らしたいのです」
流石にリリーやレンちゃんも出すって言ってきた時は焦ったけど。
……ガーラは頑張れしか言わなかったな。まあ私が断る事分かっていたからだろうけど、形だけでも言わないのはさすがだよ。
「……聞いてもいいか? どうやって勝つのか。それを聞いてから、裁判をどうするか判断する」
その言葉を聞いて、私はなんとも言い得ぬ感情が湧き上がってきた。
「はい!」




