66 ばれてました
なんとなく、お兄様がこれから言うことを想像できてしまう。
お兄様の口が少しずつ開いていくたび、鼓動が今までにないほど早くなる。
「リア、僕は一つ謝らなければならない。実はあのノート、全部読んだんだ。その近くにあったノートも」
お兄様のその言葉の意味が分かるのに、私の脳は分かる事を拒否している。
お兄様はそんな私に気づいたのか、私達にお茶を勧めて落ち着かせた。
「僕はリアに前世の記憶があっても、たとえ前世の家族の方が馴染みがあったとしても、君は僕の妹だ。それは絶対に変わらない。幼い頃の僕は、リアにとっては頼りなく、到底兄とは思えない存在だったかもしれないし、昔の家族が恋しかったかもしれない。それでも、僕を兄として慕ってくれて、家族の一員だと思ってくれてありがとう」
「お兄様は、それで良いのですか? 私のこと、なんとも思わないのですか?」
「例えリアの中身が水上凛花だとしても、僕にとっては大好きな妹のマードリア・フレーバだ。僕は、マードリア・フレーバだから、妹だから好きなんじゃない。リアだから好きなんだ。
僕は、マードリア・フレーバがどんな人物かは知らない。知りたいとも思わない。僕にとってのマードリア・フレーバはリアだけだから」
心のどこかで罪悪感があったのかもしれない。お兄様に、家族に対し、マードリア・フレーバとして偽っている事に。そして、そんな私を受け入れられてる事に。
だから、お兄様が今、私を心から受け入れてくれている事を知って、思わず泣きそうになる。
「ありがとう、お兄様」
お兄様は何も言わず、私の頭にそっと手を置いた。
「あの、マードリアの事はともかく、どうしてボクも前世があると思ったんですか?」
流石ガーラ。この空気の中遠慮なくお兄様に質問できるなんて。
「ノートにガーラさん、もとい優李さんの事も書いてありました。おそらく忘れないよう、覚えている限りの事を書き記したのでしょう。ですから、ガーラさんの話を聞いた時分かったのです。たくさん書いてありました。ガーラさんの謝罪の言葉も」
「謝罪?」
「リアと初めて喧嘩した時の言葉ですね。いえ、仲良くなったきっかけとでもいいましょうか」
「マードリア、書きすぎ」
「ご、ごめん」
しかし、お兄様はよくそんな事まで覚えてるな。
「でも、お兄さんよく覚えてますね」
「あー、日を分けて書き写しましたから。マードリアがちゃんと日本語? にルビを振っていたので、読むのに支障はありませんでした。おかげで多少の日本語なら読み書きできますよ」
流石にそれは馬鹿正直に言っちゃダメなやつだよお兄様。
「お兄さん、流石にそれは引きます」
うん、それが一般的な感想だよ。
「僕もそう思います」
思うんかい!
「ですが、重要な事でしたので。僕にとっては、未知の世界を知ることのできる伝書、未来が知れる予言書と同じ扱いです。
実際、マードリアの描いた絵の通りに皆成長し、似た出来事がそれぞれの身に起きていました。似たと言ったのは、悪い方向に転ぶ出来事が良い方向へと転がった為、このようにおっしゃいました。ですが逆に、ノートに書いていないのにも関わらず、危うい方向に転じた出来事もありました。それが、リリーさんの件に、ガーラさんとチコ様の件です。この世界が本当にゲームの世界、またはそれを忠実に模した世界だとすれば、二人が掻き乱した分、世界は軌道を元に修正しようとするでしょう。それが──」
「リリーの呪いと、ガーラとチコの喧嘩」
お兄様は何も言わずに頷いた。
投稿期間空けすぎてしまい申し訳ありません。本日から定期的に投稿しますので、よろしくお願いします。




