62.恋文?
テストも終わり、無事順位も死守できたのでどうにか報われた気がした。
「ああ、やっと終わった……」
「さすがに生徒組織との両立はキツイわね。でもマードリア、これで悲鳴あげてたらダメよ。今後はもっと厳しくなるのだから」
「うう……」
「まあまあ。マードリア様は前日まで仕事でしたから仕方ありませんよ。テスト期間は私も協力しますから」
「ありがとうリリー」
「え、リリーがマードリアの勉強見るなら、ボクの勉強は誰が見るのさ」
よく言うわ、テスト一週間前までは勉強しないでチコと一緒に小説読み漁ってるくせに。
「あなたは日頃から勉強してれば問題ないでしょう」
あ、私が言いたいこと代弁してくれた。
「そうだよガーラ。そんなんだから万年六位なんだよ」
「チコも、今後は要領の良さだけでは済まなくなるわよ」
「平気平気。あたしが何となく理解してる事はレンちゃんが完璧に理解してくれてるから」
「完璧ではありませんよ。それに私が理解できるのは、皆さんが分かりやすく教えてくださるからです」
はあ、心が癒されていく。レンちゃんを見習えという目で二人を見る。
「何? 何か言いたいことでもあるの?」
「いや、別に」
「あたしも文句を言いたいところだけど、今日は呼び出しがあるから長々追及できないの」
「呼び出し?」
チコは一枚の手紙を見せた。
「また婚姻関係だよ。いつもは無視するんだけど、王家の紋章がついているのは流石にね」
「え、恋文的な?」
「そうそう」
へー、青春だなぁ。……あれ? いつも?
「え、いつも貰ってるの?」
「毎日ってわけじゃないけど、よくね」
「へー、さすが貴族一の美少女と言われるだけあるね」
「いや、そういうのじゃないよ。アイリーン様とかも貰ってるよ」
……え⁉︎ 初耳なんですけど!
「貰ってるわよ。婚約者がいないとこういう時不便なのよ。もちろん、全部断るか無視してるわ」
「あの、実は私も……」
リリーも控えめに手を挙げる。
「私も少し……」
そう言って、レンちゃんも今日貰ったであろう手紙を取り出す。
「まさかガーラも⁉︎」
「まさかとは失礼な。ほら」
そう言って見せたのは、紛うとことなきラブレター。
「ま、チコ宛だけど」
「なーんだ、良かった良かった」
一瞬信じたではないか。
「また〜。ガーラ、断っといて」
「はいはい」
ガーラは手紙を内ポケットにしまうと、私を見る。
「ま、ボクは貰わないね。扉に挟まってるのは全部まとめて捨ててるから、ボクのがあるのか分からないし、直接渡して来る奴には迷惑って言って追い返してる。告白も全部フってる」
「じゃああたしのも断ってよ」
「貴族相手にそれはできないでしょ。一度受け取るくらいしないと」
なんだろう、未知の話を聞かされてる気分。
「私、モテてないのかな……? ちょっとショック」
そう言うと、また皆んなにやれやれって顔をされる。
「マードリアに告るのはよほどの命知らずだよ。手紙なんて証拠が残るんだから、告白よりもリスキーでしょ。レンも念を押されてるんじゃない? ボクも押されてるから」
「はい。たまに私を通してほしいって時がありますが、カーター様や王子様方の名前を出したら逃げて行きます」
「ボクは本気でマードリアと付き合う気があるなら、お兄さんの許可もらってから自分で渡せって言ってる。面白いくらい顔真っ青にして逃げてくよ」
二人に念を押されてるって事は……
「あ、私もです。カーター様から直々に。もし引き下がらない方がいたら、連れてくるよう言われました」
「またお兄様……」
「良いじゃない、変なのに引っかからないだけマシよ」
絶対にそれ以外もあるな。
「ほおほお、で、本心はどうなんですか〜?」
「本心も何も、これが私の意見よ」
「よく言うわ、マードリア宛の手紙が来たら睨んでるくせに」
「カーター様に半殺しされる覚悟もない方の手紙なんて受け取るはずないでしょう」
いや、お兄様なら全殺ししそう。
「半殺しで済んだら良い方でしょ。マードリアを友人の妹くらいでしか見ていないアイリーンのお兄さんだって、圧かけられてんじゃん」
「それもそうね」
納得しちゃったよ。納得されちゃったよ。
「あれ? アイリーン様も私の分貰ってるんですか?」
「ええ」
「どうして私にはアイリーン様やチコ宛の手紙こないんだろ?」
「もしマードリアに手紙渡したなんて噂が広がりに広がったら、たとえマードリア宛じゃなくてもお兄さん飛んでくるよ」
あー、噂って変に伝わるもんね。
「うーん、でも一枚くらい欲しいな〜」
「ならコーリーにでも書いてもらえばいいじゃん。喜んで書くよ」
「コーリーに書かせるくらいなら私が書くわ」
「でしたら私も書きます」
「で、では私も!」
「じゃああたしも書こうかな〜」
「え、これボクも書く系?」
え、これみんなから貰う系?
二人除いた三人は恋文じゃないでしょ。
「えーさすがに無理だわ」
「ガーラ一人だけ生き残らせるわけないでしょ。道連れだよ」
「流石にお兄様もそんなに酷くはないよ。まあ、どうして僕に言ってくれなかったんだとは言われるだろうけど。んー、でも、どうせなら私も皆んなに書こうかな。恋文ではないけど。だからガーラも付き合うんだよ」
ガーラはため息を吐くと、やれやれと笑った。
「じゃあいっそのこと、チコを抜いた四人に書くよ」
「じゃああたしも、ガーラ以外の皆んなには書くね」
「またあなた達はそんな事言って。でも、手紙を書くのは良いわね。一度、相手への気持ちを物にして渡すのは、一生残るし良いかもしれないわね」
「仲が悪くならなければね。あたっ!」
私はガーラの額を軽く叩き、溜息を吐く。
「またガーラは余計な事を。そんな事思ってないくせに。リリーとレンちゃんはどうする? 書く?」
「もちろんです!」
「貰って迷惑でなければ、書かせていただきます」
「それじゃあ、今度手紙書くのに必要なの買いに行こ。どうせなら凝りたいし」
「テスト休みは?」
「あ、ごめん、テスト休みはフーリン様と二人で出かける約束してるから」
口を滑らせたと後悔したが、既に遅し。二名に肩をがっちり掴まれてしまった。
「あ、じゃ、じゃああたしはもう行くね」
「ついてこうか?」
「ううん、今回は相手が相手だから兄様に付き添ってもらう」
「そっか。じゃあレン、ちょっとどこか出かけよう。レンが育ててる植物見せてよ」
「良いよ。むしろ見てほしいな」
「それじゃあ、ボク達はこれで」
「あ、わ、私もそっちに──」
「その前に色々と聞かせなさい」
「安心してくださいマードリア様。やましいことなどないって分かってますから。ただちょっと確認するだけです」
助けて! 私のライフはもうゼロだから!
次週から暗めの話になります。




