54.約束です
フーリン様に寮前まで送ってもらい、私はここからの案内人を呼び寄せた。
「で、なんでボク?」
「いや〜、アイリーン様にバレたら怒られるし、リリーに頼んでもアイリーン様にバレそうだし、チコはみんながいる時にぶっ込んできそうだし、レンちゃんには生徒組織で抜けるって言っちゃったから、アイリーン様達いないと不自然でしょ? だからガーラにお願いしたわけ」
「ボクが言わないって根拠は?」
「ガーラは自分も巻き込まれることが分かっているのに、わざわざ面倒事を起こすはずないから」
「よく分かってらっしゃる。ほら、行くよ」
「うん」
部屋の前まで送ってもらい、別れようとしたが、ガーラが私を引き止めた。
「あのさ」
「どうしたの?」
「漫画、作りたい」
「でも、全部アナログだよ」
「うん。でも、作りたいんだ。ボクがコマ割りして、背景ちゃんと書く。だから、前世と同じように、一緒に作りたい」
ガーラは真剣な目でそう訴えてきた。
「いいよ。オリジナル? それとも小説を漫画にする?」
「それはもう決めてある。今度渡すよ」
「りょーかい。それじゃ、今日はありがとう。あと、お疲れ様。ゆっくり休んでね」
「よく言うよ、休んでたボクを呼びつけといて」
「ごめんごめん。じゃあ、また週明けね」
「うん、じゃあ」
◇◆◇◆◇
運動祭後の生徒組織は、今まで以上に大忙しだ。もうすぐテストがあり、それが終われば夏休みがある。夏休みからは先輩方は引退となり、全て私達が引き継ぐ事になる為、私達は全ての仕事を覚え、先輩方は自分の仕事を終わらせなければならない。
「マードリア、その資料はこっち! あとこれ処理しといて!」
「分かりまし……。カロン先輩、さりげなく自分の仕事を押し付けないでください」
「あ、その、君の能力を買っているのさ」
「私に通じると思ってます?」
「思ってません。くっ、手強くなったな。トレットから遠ざけなかったのが失敗だったか」
「そんな事言ってないで仕事してください」
「はーい」
常々思う。やはり生徒組織は能力だけでなく性格も見るべきだと。よくまあ私が来る前まで一人で業務をやってのけたなと思うよ。
「マードリア、いるか?」
「あ、はい。います」
ノックをして部屋に入ってきたのはビケット王子様だ。
「仕事は全部カロンに押しつけていいから、ちょっと付き合って欲しいんだ」
「会長! 酷いです! あたしを殺す気ですか!」
「カロンが自分の仕事をよくマードリアに回してるのは知ってる。日頃楽してる分、今回はマードリアの分も済ませなさい」
「そんな〜」
カロン先輩の嘆きは無視され、私は会長室に連れてこられた。
そこにはショコラ先輩はもちろん、リリーやフーリン様もいた。
「悪いな。本来ならマードリアは必要ないのだが、命を守る為だと思って聞いてくれ」
てことは、お兄様関連だな。お兄様、どれほどビケット王子様に気苦労をかければ済むのやら……。
「実は今度、大学の方に顔を出すことになったの。これは毎年恒例で、いつもは会長、副会長、それと仮会長と仮副会長で行くんだけど、会長が、前会長にマードリアちゃんも連れてくるように圧をかけたらしくて……」
「本当にすまない。こんな繁忙期に手を止めてしまうような事態を招いてしまい」
「別に大丈夫ですよ。こちらこそ、いつもすみません。えっと、それでいつ行くんですか?」
「週明けの放課後に行く。待ち合わせは正門前。時間は無駄にできないから、リリーさん、マードリアの事をよろしくお願いします」
「分かりました。マードリア様、一人で先に行くことのないよう、お願いします」
「はい……」
フーリン様といい、リリーといい、ビケット王子様といい、私ってつくづく信用ないな〜。
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