46.救世主
「あれ? マードリア達こんなところで立ち止まって何してんの?」
ガーラが不思議そうな顔して近づいてきた。
「これから食堂に行くなら一緒に行こう。ボク親来れなくて一人だからさ」
「それは構わないけど、今まで何してたの?」
「これ、リリーにお願いしてもらってきた。マードリアとレンのもあるよ」
ガーラに渡されたのはルールブックだった。
「リリーには、ボクが預かっている時に駄目にしたって言っといたから。フーリンも、今回はマードリアを見逃してあげて。じゃないとボクまで嘘つきになる」
フーリン様は息を漏らして微笑んだ。
「仕方ありませんね、今回は見逃しましょう。そもそも、しっかり確認していなかった僕達にも非はありましたからね。ですがマードリア、次回からは流石に見逃しませんから、気をつけてください」
「良かったですね、マードリア様」
「うん! ありがとうございます、フーリン様! ガーラもありがとう」
「いいよいいよ、頼みたい事あったし」
ガーラめ、あえて私に貸しを作らせたな。この策士め。何をしてほしいのか運動祭が終わったら聞かないと。
しかし、フーリン様ってガーラに弱いのかな? あんなにあっさり見逃してくれたし。
……まさか!
「フーリン様の好きな方ってガーラですか⁉︎」
今度こそ小声で、フーリン様にしか聞こえないように言ったつもりなんだが。
「いや、それはないでしょ。てかもしそうだとしてもボク断るし」
「なんだか振られた気分であまりいい気がしませんね」
「ガーラちゃんはあまり恋愛しなさそうだよね」
「しないというより経験ないからね〜。まあ、恋愛ってしなきゃ幸せになれないとかそんなのないし。平和に暮らせるのが一番だよ。毎日終電ギリギリまで働かされて疲れが取れてないのにまた働きにいき、繁忙期には帰れないなんてことさえなければ……」
なんか、社畜の闇を見てしまった気がする。私も生きていたら社畜の渦に飲み込まれていたのだろうか。
「リア〜何してるの? 早くおいで」
「あ、お兄様達もうあんな遠くに。急ごう」
「マードリア! 走ってはいけませんよ!」
「あ、すみません」
止まるのが一歩遅かったせいで誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です。……マードリア様?」
「あ、リリー。ごめんね、ぶつかっちゃって。立てる?」
「はい、大丈夫ですが、なぜこちらにいらしているのですか?」
リリーに手を貸して立ち上がらせて、頭を傾げる。
「これから昼食に行こうと思ってたんだけど」
「ですが、ガーラさんがマードリア様達がお食事をしているので、代わりにルールブックを受け取りに来たと」
ガーラの方を見ると、憐れむような目で私を見ていた。もしかして、私自爆してる?
「え、えーっとね、二回目のお昼に」
「そうなんですね」
お、上手く誤魔化せた。
「なんて、冗談ですよ。マードリア様、言い訳はよろしくないですよ。ルールブックを渡す事を忘れていたのですか?」
せっかくガーラが嘘ついてもらってきてくれたのに、全てが水の泡だ。
「はい……。誤魔化してごめんなさい」
リリーに怒られるのかとヒヤヒヤしているが、そんな事はなかった。
「ありがとうございます、正直におっしゃってくださって。マードリア様、足を怪我したりと他の役員の方よりも大変でしたからね。今回はガーラさんも匿おうとしていたので目を瞑りますが、次回からは気をつけてくださいね」
私はあまりに嬉しすぎて、リリーに抱きついた。
「ありがとうリリー!」
「え、えっと、あの、マードリア様」
「あ、ごめんね」
「い、いえ」
リリーは前髪をいじって顔を隠すようにしている。
「良かったね、二人とも」
「うん!」




