45.フーリン様の好きな方
ストル家とエグラメル家が会話していると、上の方から音が鳴る。
「お腹空いた〜」
その声の後、下の方からも控えめに音が鳴る。
フラン君は顔を赤らめ、皇后の後ろに隠れた。
「お腹空いたね」
妹ちゃんがフラン君にそう言うと、フラン君は微かに頷いた。
「そろそろ食事にいきましょうか。あんまり長居してしまいますと、時間だけでなく席も無くなってしまいます」
「わたしとした事が、皆様と話している内に忘れていました。申し訳ありません、すぐに向かいましょう」
フーリン様と皇帝陛下のおかげでようやく食堂に向かうことになった。
「フーリン様のご家族、とても良い方達ですね」
正直乙女ゲームのフーリン様の設定からしてすごい怖い人達かと思ってた。
「お父様とお母様は厳しい方ですが、とてもお優しい方ですよ」
「フーリン様の人柄が良いのもご家族のおかげですね」
「家族だけでなく、友人のお陰でもあります。もちろん、マードリアも含めてです」
笑顔で答えたフーリン様を見ると、ふと、こんな質問が浮かんできた。そう、それは男子の借り物競争の時に思い浮かんだ事だ。この流れなら不自然じゃないし、声を抑えれば大丈夫だ。
「そういえば、フーリン様の好きな方もその中に含まれているのですか?」
極力小さな声で言ったはずなのだが、ある人には聞かれてしまった。
「フーリン皇子様、好きな方がいらっしゃるのですか⁉︎」
そう、我が母である。
悪気はないのだろうが、母の声で三家族には聞こえていたみたいだ。
「フーリン、好きな子がいるの? 聞きたいわね」
「フーリンの心を射止めるなんて、とても素晴らしい女性なのだろう。会ってみたいものだ。フーリン、応援してあげるから教えなさい。息子の好きな人とは気になってしょうがない」
お、これはフーリン様の好きな人を知れるチャンスなのでは? よし、このビッグウェーブに乗るしかない!
「フーリン様、私も応援しますのでぜひ!」
「マードリア様はやめた方がよろしいかと」
「え、どうして?」
フーリン様は手で口から頬を隠し、そっぽ向いている。
「い、いませんから! 好きな人はまだいませんから!」
フーリン様のその必死な訴えも
「皇子様顔赤〜い」
という妹ちゃんの言葉で意味がなくなってしまった。
「フーリン皇子様、まさかリアの事が好きだなんて言いませんよね?」
お兄様はいつもの冷たい笑顔を浮かべて問う。
「だ、だから言っているではないですか。好きな人はいませんと」
「そうですか、なら、僕の目を見てこう言ってください。フーリン・エグラメルはマードリア・フレーバに恋をしないと」
「お兄様⁉︎」
「リアの事、好きではないのなら言えますよね?」
お兄様、流石にこの場でそれを言うのはまずいよ! どうにかしなければ。
そう思ったが、皇帝陛下達は何気に興味深々だ。しまいには
「話を聞く限りとても良い子だし、先程の様子などを踏まえても良い娘だ。ぜひとも我が家に迎えたい」
「陛下の言う通りですね。マードリア様が我が家に嫁入りするのはとても喜ばしい事です」
なんて言われているし、お父様は陛下の手前何も言えなくなっている。
いつの間にかお兄様から降りてた妹ちゃんはレンちゃんを連れてフラン君に話しかけているし、レンちゃんの両親はお母様と話しているしで……。
いやしかし、フーリン様に恋的に好かれていられるのはかなりまずい。普段ならまだしも、両親がいる前で言われてしまえば断りづらい。
この時代恋愛結婚があるのかも怪しいし。
「それは、流石に……」
「なぜですか? 言えますよね」
「いえ、どこで誰を好きになるかは僕にも分かりませんので。その好きになる方が絶対マードリアではないとは言えません。ですので、そのような言葉を発する事は断らせていただきます」
これでお兄様も諦めてくれたら良いのだが……。
自分から始めて起きながらなんだけど、早く終わってくれ!




