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43.ストル一家

「ねーーちゃーーん!」


レンちゃんは声が聞こえてきた方に体を向けて屈み、腕を両サイドに広げる。


「ねーちゃんねーちゃんねーちゃーん!」

「来てくれてありがとう、ラメル」


妹ちゃんはレンちゃんに抱きつくと、顔を擦らせている。レンちゃんは動く妹ちゃんの頭を撫でる。


お兄様はその二人の光景を見て何を思ったのか、静かに私に向けて両腕を広げる。


「私は遠慮しておきます」


お兄様はあからさまに残念そうにゆっくりと腕を下ろす。

その手には乗らないよお兄様。


「マードリア様、お久しぶりです」


いつものメイド服とは違う、いいところのお嬢さんが着るような服を着たジェリーが微笑んでいた。


「ジェリー! 久しぶり、わざわざ来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ」

「こちらこそ、わざわざ招待状を用意していただきありがとうございます。この後何か種目に出られるのですか?」

「うん、チーム別リレーにでるよ。それくらいかな、午後は生徒組織の仕事がほとんどだから。あ、部活対抗リレーにも生徒組織として出るよ」

「それは楽しみです。頑張ってください」

「うん、応援しててね」


ジェリーとの会話に花を咲かせていると


「ラメル〜」


と、遠くから妹ちゃんを呼ぶ声が聞こえてくるが、妹ちゃんには聞こえていないのか、ずっとレンちゃんに甘えている。

レンちゃんには聞こえていたらしく、妹ちゃんを抱き上げて遠くを見る。


 人をかき分けて現れたのはレンちゃんの両親と思われる人達だ。


「レン、久しぶりね。もう休憩に入っていたの?」

「久しぶりお母さん。休憩はさっき入ったばっかだよ」


この人がレンちゃんのお母さん。さすがレンちゃんの母親、可愛らしい方だ。背が低いのも母親譲りか。

というか、レンちゃんのお父さん何センチ⁉︎ 私と三十センチ以上も差のあるお兄様よりも背が高いなんて。

しかも少々顔がこわ……厳つい。

あ、目合った。いや、人を見た目で判断したらダメって分かってるけどこれは怖い。


 レンちゃんのお父さんは私にゆっくり近づき、目の前に立つとしばらく私を見下ろした。


「え、えっと、あの」


レンちゃんのお父さんはゆっくりと頭を下げる。


「お初にお目にかかります。レンの父親のロルーキ・ストルと申します。いつもレンと仲良くしていただきありがとうございます。これからもレンの事をよろしくお願いします」


低音かつゆっくりと言うのがよりこわ……いや、もう正直になろう。怖さを際立たせている。


「こ、こちらこそレンさんにはいつもお世話になっておりまして、とても助かっております。あ、えっと、ドルチエ侯爵家のマードリア・フレーバです」


あまりの迫力に変な言葉になってしまった。貴族として情けないところを……。

というか、なんかすごい顔が近い気がするんだけど。ていうか近い!


「お父さん! マードリア様にそんなに近づいたら怖がられるよ!」

「え、ああ、申し訳ありません。何分目が悪く、視界がぼやけてしまうもので」

「い、いえ、お気になさらないでください。それより、眼鏡などはかけないのですか?」

「あのような高級な物は我が家では厳しくて。家族を養っていかねばならないので」

「魔法で治すとかはできないのですか?」

「そのような高度な魔法を使えるお医者様にはいけないので」


大半の貴族は眼鏡をかけない。なぜなら医者によって治してもらえるからだ。眼鏡をかけるのは儲かっている商人がほとんど。

どんなに優秀な冒険者でも眼鏡を買えないなんて、前世との経済の差を感じる。


日頃のお礼という体でなんとかしたいけど、それは権力を乱用してしまうことになり、他方から厳しい目を向けられる。

これは、仲の良いペアの子にお世話になっているからっていう理由の範疇を超えている。


「はじめまして、レンの母のフォレスと申します。いつもレンがお世話になってます。実はレン、学園に入る前は緊張のせいで暗い顔をしていたのですが、夏休みに帰ってきた時はすごく明るい顔をしていたんですよ。それもこれも、マードリア様のお陰です。ありがとうございます」

「い、いえ、そんな。私もレンちゃんに会えて良かったって思っています」

「あら、マードリア様にそんな風に思ってもらえるなんて嬉しいです。よろしければ学園でのレンの事を教えてもらえませんか?」

「そうですね──」

「お母さん! 恥ずかしいからやめてよ」

「良いじゃないこのくらい。可愛い娘の事を聞きたがるのは親としては当然よ」

「本当にやめて」


レンちゃんが困り顔を浮かべているのに対し、レンちゃんのお母さんは微笑みを浮かべている。


「お話のところ申し訳ありませんが、そろそろ食堂に向かわないと時間がなくなってしまいます」


妹ちゃんを肩車したお兄様がそう言った。お昼の事、すっかり忘れてた。


「そうですね。よろしければ一緒に食べませんか? ……あ、すみません。久しぶりに会ったのですから家族水入らずで食べたいですよね」

「そんな事ありませんよ。ぜひ、ご一緒させてください」

「ラメルはパパのところおいで」

「パパ高すぎるからこっちがいい〜」

「ラメル、カーター様に失礼だよ!」

「大丈夫ですよ。ラメルちゃんが喜んでくれるなら嬉しいです」

「にーちゃんもこう言ってるからいいの」


私はねえとかあんたとかなのに、お兄様はにーちゃんって。

羨ましい!


「それじゃあ行きましょうか」

「では、場所が取られないよう魔具を使わせていただきます。少々離れてください」


ジェリーは地面に鍵を突き刺すと、右に一回転した。


「お待たせして申し訳ありません。これで場所の確保は完了です」

「それじゃあ行こう」


場所もしっかり確保したので、食堂にみんなで向かう。

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