28.生徒組織の手帳です!
運動祭に向けての仕事をしていると、ビケット王子様がやってきた。
「マードリア、少しいいか?」
「どうされましたか?」
「渡したい物があってな。カロン、少しマードリアを借りるけど、しっかり仕事しろよ」
「どうぞどうぞ、ごゆっくり〜」
ビケット王子様はカロン先輩に近づいて目線を合わせる。
「しっかりとお願いします」
「は、はい」
ビケット王子様は私に向き直る。
「それじゃあマードリア、行こう」
部屋を出る前にカロン先輩の方を一度見ると、珍しくちゃんとやっている。相当ビケット王子様が怖かったのだろう。
◇◆◇◆◇
「仕事中に呼び出して悪いな。実はこれが届いたからみんなに渡そうと思って」
そう言いながらビケット王子様は立派な鞄を机に置いて、鞄を開いた。
中からは六つの小さな紺色の手帳が入っていた。
「みんな一つずつ取ってくれ。取ったら、その手帳に魔力を込めるんだ」
「こ、こうですか?」
手帳に魔力を込めると、学園の名前と生徒組織というオシャレな字が浮かび上がってきた。
「兄上、これは一体何ですか?」
「それは生徒組織の人間である事を示す物。それを見せれば、通常の生徒なら許されない事も特権で許される。概要は中に書いてあるからしっかりと読んでおくこと。
それと、君たちに限ってないと思うが、その手帳を濫用しない事、手帳が手に入ったからって組織の仕事をしないなんて事がないように。
アイリーンやコーリーは人一人抜けるだけでどんなに大変か分かるだろ?」
「ええ」
「うん」
「ビケット会長、もし手帳を他者に奪われてしまった場合はどのように対処すればよろしいのでしょうか?」
「フーリン様はいい事をいうね。コーリー、アイリーンの手帳を取って見なさい」
コリー王子様はアイリーン様の手帳に手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。
「取れない」
「え、本当ですか?」
私もアイリーン様の手帳に手を伸ばした。すると、指先に静電気のような痛みが走った。
それを我慢して手を進めると、痛みはどんどんと強くなっていく。
手帳の周りにはまるで見えない壁があるみたいである一定の距離からは全く手を進められない。
痛みよりも好奇心が勝ってしまい、私は見えない壁を押していく。
すると、手首を掴まれて一気に手帳から手を離させられた。
「マードリア、それ以上はだめだ。指が使えなくなってしまう。自分の指をよく見てごらん」
ビケット様に言われて指を見ると、指は真っ赤に腫れ上がっていた。
「マードリア様、大丈夫ですか?」
「う、うん。気づかなかったくらいだし」
「少々失礼します」
リリーは両手で私の手を包むと、回復魔法を使った。
リリーの回復魔法はとても優しくて、魔法をかけられているのは手だけのはずなのに、全身に安らぎを与えられているみたいだ。
「私の実力ではこれが限界です」
再度指を確認すると、腫れと赤みはかなり引いていた。
「リリーありがとう。あとは自分で治せるよ」
怪我を治すのに体に負担をかけるなんて本末転倒だなと思いながら、私は指を完全に治した。
「驚いたな、二人とも回復魔法が使えるのか。さすが、魔法実技試験では学年全体で一位と二位を死守しているだけあるな」
「本当に驚きました。回復魔法は使える者すらも少ないと言われていますのに、授業で学ばずとも使用できるなんて凄いですね」
「そうだ! リリーは凄いんだぞ!」
「なんであんたが誇らしげなの」
「うるせー、いいだろ別に」
「そんな大したことではありませんよ。今使った回復魔法も初級を少々応用したものですので」
「私も、ラミスにお願いしただけですから」
「あなた、体内にいる精霊とも対話できるの?」
「いえ、私はラミスのことは分かりませんが、ラミスは分かるみたいです」
「それでもかなり凄いですよ。私も口に出さずとも魔法は使えますが、それは心の中で呪文を唱えているからです」
……あれ? 私って異常なの? え、もしかしなくても所謂転生者特典的なやつですか?
「と、とりあえず魔法の事は置いといて、さっきマードリアが証明したみたいに、手帳は本人以外触る事が出来ないから安心して。それじゃあ解散」
みんなはゆっくりと持ち場に戻っていく。もちろん私も戻ろうとしたのだが、ビケット王子様に呼び止められた。
「マードリア、魔法の事はくれぐれも他言しないようにな。マードリアの魔法は軍事利用に最適だ。だから、もし知られてしまえば戦場に向かわされるだろうし、他国はどんな手を使ってでもマードリアを手に入れようとするだろう。
マードリアをそんな危険な事に巻き込みたくない。だから気をつけろ。
今回聞いたみんなは言いふらさないと思うから安心しろ。いや、絶対言いふらさないように念を押しとくから安心しろよ。いいか、絶対に、どんなに信用している奴でも言ったらダメだからな。
特に他国の奴は。
人は何がきっかけで裏切るか分からないということだけは忘れるな。もう行っていいぞ」
「は、はい、失礼します」
私は少々不安な気持ちを抱いて、カロン先輩の元に戻った。
昨日投稿出来ず申し訳ありません。
今後は投稿できるか怪しい日は前もってこちらの後書きにて記載させていただきます。




