10.自重は大事です
少し広くなった部屋のベッドに腰を下ろす。
「うう、あんなに怒らなくてもいいと思わない、レンちゃん」
「心配かけてしまいましたから」
「それはそうだけど〜」
やっぱり納得いかない。二人も怒られたは怒られたけど、私ほど怒られてなかったし。
「マードリア様が大切だからですよ。アイリーン様はそれほど心配してくださったのです」
「レンちゃんも怒る? 私がレンちゃんに心配かけたら」
「ええ! えーっと、私は立場的に少々難しいですね」
「あっはは、たしかにそうだね。でも、何かあったら遠慮なく怒ってくれていいよ。事態が大きくなるよりかはマシだもん」
「が、頑張ります。ですが、妹にしか怒ったことありませんので下手かもしれません」
「そうだったね。そういえばレンちゃんの妹ちゃんっていくつなの?」
「今年で五歳になります」
五歳、五歳……めっちゃ歳離れてんじゃん!
でもそれなら今は姉離れは厳しいよね。
「結構離れてるんだね」
「そうですね、あまりここまで離れている姉妹や兄弟はいませんよね」
「やっぱり妹って可愛い?」
お兄様があんなだし、カヌレ様も結構チコにデレデレだしね。
「もちろん可愛いですよ。少々お転婆ですが、そこもまた可愛いです」
「可愛いよね。私もたまに会うけど全く懐かれないのも新鮮でいいな」
「それは本当にいいんですか?」
「いいの」
空気として百合の波動が感じられるから!
少々美化された思い出に浸っていると、レンちゃんが時計を見て声を上げた。
「マードリア様、そろそろ夕食に行きましょう。席が無くなってしまいます」
「夕食? …………ああ! そっか!」
二年生からは食堂での食事になるんだ! すっかり忘れてたよ! というか二年で変わる事多すぎるんだよ!
「行こうレンちゃん!」
「はい。あ、マードリア様忘れ物です」
「え?」
まさか人がいるとは思っていなかったので、勢いよくドアを開けたせいでそのまま人とぶつかり倒れてしまった。
「すみません。……って、本当に申し訳ありません‼︎」
やってしまった、やってしまった。まさかアイリーン様にこんな失態をしてしまうとは。
「あなた、少しは落ち着きなさい」
「本当に申し訳ありません。どこか打ったりしていませんか? 怪我などはありませんか?」
「大丈夫よ、だから少し離れなさい。顔が近いわ。あなたの息がかかって少々こそばゆいのよ」
「あ、すみません」
私はアイリーン様の手を取って起き上がらせる。
「本当に申し訳ありません。少々失礼しますね」
アイリーン様に付いてしまった埃を叩いて皺を伸ばす。
「あの、お二人とも大丈夫ですか? こちらいりますか?」
レンちゃんは濡らしたタオルを二枚持ってきた。そういうところがマネージャー力高いのよ。
「ありがとうレンさん。特にぶつけたところはないから大丈夫よ。
ただマードリア、あなた新学期で浮かれているのかは知らないけれど、もう少し落ち着いて行動しなさい。兄上に迷惑かけたり、副会長さんに迷惑かけたり、挙げ句の果てに人とぶつかる。私だからよかったものの、他の人だったらどうするつもりだったのよ。もし怪我でもさせたら?
女性は、傷一つ一つが女としての価値を下げるのよ。本当に気をつけなさい」
「本当に申し訳ありません。以後気をつけます」
「あ、あの、アイリーン様、私も悪いのです。マードリア様を急かすような事を言ってしまったので……」
「レンさんもレンさんよ。そうやってマードリアを庇って甘やかさないの。甘やかすだけが良い事じゃないのよ」
「……そうですね。出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません」
私のせいでレンちゃんまで怒られてしまった。
私、何してるんだろう。本当に、少し浮かれてしまっているのかもしれない。
もっと、貴族としての意識をしっかり持って慎重に行動していかなければ。
ゴールデンウィーク終わったので明日から一話、20時代に投稿します。
20時が難しければ、12時か22時になります。
(土日は可能であれば、12、20時の二話投稿します)




