9.先輩です!
ビケット王子様はドアを三回ノックする。
「ビケットです、失礼するよ」
ビケット王子様がドアを開けると、少々暗めの茶色い髪に、目は逆に薄めの茶色の女性がイスに座って作業していた。
「遅かったね、どこで寄り道をしていたの?」
その女性はこちらを見ると目が厳しくなった。
「会長、女の子を誘って遅れてくるなんて見損ないました」
「違う違う! この子達は間違って男子棟に迷い込んだから、ショコラに女子寮まで送ってもらおうと思ったんだよ」
おお、見た目通りの美味しそうな名前だ。
「本当ですか〜?」
「本当だ。それにこの子はカーターの妹だ。そう易々と手なんて出せない」
「え、ほんとですか?」
ショコラ先輩は立ち上がって私に寄ってきた。
「へー、あーなるほどね〜」
ショコラ先輩はジーッと私を見る。なんだか段々恥ずかしくなってくる。
「目元は似てるね」
「あ、えと、初めまして、ドルチエ王国侯爵家であり、カーター・フレーバの妹、マードリア・フレーバです」
「本当に前会長の妹ちゃんだ。こちらこそ初めまして、テペル王国伯爵家、ショコラ・コアです。生徒組織の副会長を務めています。そちらのお二人は?」
「リリー・ホワイトと申します」
「マードリア様のペア、レン・ストルと申します」
「あら、二人のことも知っているわよ。常に学年トップのリリーちゃんと、器用なレンちゃんよね。ちょくちょく生徒会の話題に上がるから覚えちゃったわ」
二人はそんな事を言われて少し戸惑っている。
しかし、私はそんな二人をおいて、ショコラ先輩に聞きたいことがある。
「あの、お兄様は一体私に対してどんな事を言っていたのでしょうか?」
「そうね、妹ちゃんの日々を毎回毎回伝えてきたわ。正直そのせいで仕事が終わらなかったなんてこともあったわね」
「それでもしっかり期日までに仕事を完璧に終わらせていたから、カーターは本当にすごいよ」
お兄様がいくらシスコンでも、そんなに語らせるほど私はネタを提供してないよ。
「その流れで二人の話も出てたわね。他にも現会長の妹ちゃんに書記の妹ちゃん、ガーラちゃん、もちろん、会長の弟君にフーリン君、ダミア君のお話もよく出ているわ」
出ている、ということは今も出ているのか。
「私達にそんなに話せるほどの話題ってありますかね?」
ショコラ先輩は意地悪く笑う。
「それはもうた〜くさん、あるわよ。会長はね、いつもポロってこぼすから、それをわたしが拾って広げるの」
「そんなに面白いですか?」
「そうね、あなた達はいい意味で奇想天外な事をしてくれるからね。これからも面白い話題待ってるよ」
この人、たぶん本気で言っている。良い人なんだけどなんか残念だな〜。
「とりあえず話はそこまでにしておいて、ショコラはこの三人を寮まで送り届けてくれないか?」
「それじゃあわたしはそのまま帰っていいですか?」
ビケット王子様は軽く溜息をつくと、微妙な笑顔を浮かべた。
「いいよ、だから頼んだ」
「やった! それじゃあみんな帰ろう! 会長、お先に失礼します!」
ショコラ先輩は鞄を持つと、私達の背中を押して、すぐに部屋から出た。
案内中はさっきまでのような会話が続いたが、ショコラ先輩は案外話し上手で、私達も会話に参加できるように導いてくれていた。
何より、他者から見た私達の話を聞けるのは案外面白く、それでいて恥ずかしい貴重な物だ。
「それじゃあ後は自分達で部屋に戻ってね。確認はそこの貼り紙でできるから。またね」
こうして、無事私達は寮に着くことができた。
もちろんアイリーン様の雷も、無事私に落とされる事になりました。




