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追放の女主人 3

 結局目を覚ましたその日から2日間ベッドで過ごすことになり、3日目の今朝ようやくベッドから解放された。というか昨日のうちにベッドを抜けようとしていたのだが、案の定サラが許してくれなかった。

 向こうでの世界では一日を通して眠気がついて回っていたのだが、こちらの世界では日が落ちてすぐに寝る生活を繰り返していたことで朝から動き出せるようになっていた。そのおかげで朝から叱られずに済んだ。

 すでに起きているサラが朝食を作っている。手伝うかどうかを少し迷っていると、

「今日はとりあえず手伝いはいりません。今日一日でこの家の大体のことは教えるつもりですから、おいおいできるようになってください。それから……」

 そこまで言って彼女は口ごもる。

 何かを躊躇しているのか、かまどの火に向けている目を少し泳がせる。そんなに言いにくいことなのかと思っていたのだが、


「ここはいいので井戸に水を汲みに行ってもらえますか?」

 と言ったのだった。


 水を汲んで戻るとすでにテーブルの上に朝食が用意されていた。

「早く座りなさい。冷めていく料理を見ているほど無為な時間はありません」

 サラが自分の向かいの椅子を指で示す。

 恐る恐る座ってから彼女をちらりと確認すると、目があったサラが無言で食べ始める。

 テーブルの上にあるスープをじっと見つめる。

 なぜかスプーンを握ろうとする手が強張っていた。たぶん何かに怯えていたのだ。

 それが何かはわからないのだが。


「スープが冷めます」


 手を出せないでいた自分に、サラは急かすでもうながすでもなくただ事実を言った。 

 その言葉に手の強張りがほどける。

 そしてようやくスープを口に運ぶことができた。


 朝食を誰かと一緒に食べる。

 この当たり前に思えることをこちらの世界に来てからはもちろん、向こうの世界でもかなり長い間していなかった。確か死ぬ前の10年くらいは一人で飯を食っていた気がする。

 それは何も朝だけに限らず、昼も夜も変わらない。

 二人で向かい合って温かいご飯を食べる。

 それだけのことがひどく新鮮で、意味も分からず胸をかき乱されるような錯覚に陥っていた。無言で手を動かし続ける。

 耳が痛くなるほどの静けさの中、自分のスプーンが器にぶつかる音だけが響いていた。

 向かいの相手を盗み見るとさすがというべきか、サラは何の音もたてずにスープをすすっている。

 洗練されている動きはそれだけで絵画の一枚になりそうなほどだった。

 

 無言でスープをすくっていると黒いドロッとしたものをすくいあげた。

 ぎょっとしたがまさか異物が入り込んでるわけもない、と思い込むことで口の中に突っ込んだ。大分ふやけていて、ぶよぶよと形容できる感触だったが何を食べているか理解できた。

 ……黒パンだ。

 おそらくスープを煮込んでいる最中にぶち込んで煮たのだろう。

 寝ている間ずっとスープなのがずっと疑問だったが、おそらくその時から同じ作り方に違いない。

 ずっと気づかなかった自分もどうかと思うが、おそらく同じものを食べていたであろうサラが平然としているから驚きである。

 まだ直接食べていたことを根に持っているのだろうか。

 「黒パン(これ)はスープに浸して食べるものです」というサラの強い意志を感じさせた。

 数日間の間に全く違う世界に連れられてきたようだったが、以前と変わらないサラのおかげで少し安心した。

 それほどあの一言で生活が一変した。



「これからはこの家で私と一緒に生活しなさい。」



 何を言っているのかわからなかった。

 耳で聞いたことをなかなか呑み込むことができず、少しの間呆けていた。

 こちらの反応は大体予想できていたのだろう。特に動じる様子もなくサラは話を先に進める。

「私はあなたが死なない程度には食事を与え、住む場所を与えていました。」

 マジで生きるか死ぬかぎりぎりのラインだったんだけど……

「その理由は簡単です。なぜなら……」

「なぜなら?」

「死体の処理が面倒だったからです。」

 身も蓋もないこと言いやがった!まあ、それならあれほど無関心だったことも頷けるが。

「ですが、さんざん約束を破っただけにとどまらず勝手に死にかけるなど、さすがの私も怒りを覚えました。」

 勝手に死にかけるという言われようはあんまりではないだろうか。

 正論でボコボコにされるのが目に見えているから言わないけれども。

「そもそも生活能力が低すぎます。朝起きるのは遅いし食事への興味もない。私がいなければどう生きていくのか疑問なくらいです。」

 え、嘘……。早く起きている方だと思っていたんですけど……。というかだんだん、ただの説教になってきているような……

「これからも生きているかどうか微妙な者を気にしながら日々を送るなど我慢なりません。はっきり言って苦痛です。」

「く、苦痛……」

 そこまではっきり言いますか……。

「なのでこれから私と生活を共にし、生きるためのすべを身につけなさい。そしてこれが一番重要なのですが……」

 サラは一呼吸置くと言い放った。


「5年後にはここを出ていきなさい。」


 つまり生きていけるように面倒見てやるから5年したらどこかへ消えろということらしく、制限時間はあるが生活に必要な能力を身に着けることができ、なおかつこの世界についての知識を得られるという願ってもない機会を与えられた自分は、二つ返事で了承した。


最近の悩みは、よろしければ評価のほうをお願いします!

って言えるほど内容が進んでないことですかね

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