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〈閑話〉実にならないばかりか

「これは食べられる。」

「これも食べられる。」

「これは……。あー、うん。食べられないわけじゃないんだけど、絶対食べないように。少年には間違いなく毒だから。」

「うわっ、よくこれ持ってきたねぇ。結構近寄りがたい見た目じゃない?確かに香り自体はいいんだけど、この実は食べられないんだ。拾ったときに周りに花が落ちてなかった?……そうそう。白い花弁のね。そっちなら食べられるよ。そのまま食べてもおいしくないけどね。」

「おおっ!よくぞ根っこまで持ってきた!花に目が行きがちだけど根っこは身体にいいし、少し加工すると変わった飲み物として人気があるんだ。……でもちょっと少年には早いか。」


 シフが両手で抱えてきた雑多な木の実、葉っぱ、根っこなど。

 一つずつ指さしながら僕は少年へ助言を行っていた。助言とはつまり、食べられるか否か、ということだ。


 少し前にちょっとしたきっかけで目の前の少年に精霊というもの教えた。

 教えたと言っても大した解説はしていない。一般的に知られている精霊というものについて、目の前に実物がいたからあれがそうだと言っただけだ。

 けれどそれ以来何かと質問をされるようになった。少年は情報を必要としていた。当たり前だ。赤子と言っても通用する見た目で森の中に放り込まれたら誰だって困る。そんなことは考えずともわかる。

 だからこそ、気色が悪かった。理由は単純。赤子と言って通用する見た目だからだ。

 常識的に考えて赤子は食べ物の毒性について考えない。現状を真顔で受け入れることはしない。森を徘徊しない。議論を行わない。

 あまりに非常識。あまりに気味が悪い。あまりに異常。

 故に強く思う。

 “こんな子供を観察しないなんてもったいないじゃないか!”とね。


「コユビさん……?」


 (いぶか)し気に顔を覗き込んでくる幼児、もといシフ少年に曖昧あいまいに笑って応えると、少年には毒だと教えた赤い実を気づかれないようにふところに隠した。


「……」


 少年が呆れた目でこちらを眺めている。完全にばれていた。仕方がないので大袈裟に咳払いをして言い訳を試みる。


「いや、なに。少年が誤って口に入れてしまっては目覚めが悪いからね。ちゃんと回収させてもらったまでだよ。」

「他にも食べられない実があったのに、ひとつだけ回収する意味ってあるんですか?置いていけば自分が次に似た実を見付けたときの比較に役立つと思うんですけど」


 ……完璧なまでの論破である。興奮が止まらない。とはいえこのままでは年長者としての威厳が保てなくなりそうだ。少し反撃を試みる。


「まあまあ。良いじゃあないか。それはそうと少年。いつまで餌を取り上げられた犬のような恰好を続けるんだい?」

「もうやめていいんですか?」

「まだ駄目だね。」

「……」


 何を言っているんだこいつ、と言いたげな少年の様子に、思わず喉から笑いがこぼれた。


 シフは今、地べたに座り込んで体の前に置いた桶に両手を突っ込んでいる。

 桶の中には乾燥や加熱を行うことで水分を飛ばした草花を沈めた水、つまりはハーブティーが溜められている。

 本来飲むことを想定しているお茶に手を突っ込んでいるという、奇怪な行動を少年に指示したのは僕自身なわけだが、もちろん明確な理由がある。それは僕の足元の瓢箪ひょうたんの中身が発端ほったんとなっていた。



 数分前。サラの家に向かうこちらの様子を見図みはからって、シフは何が食べられるのか教えてくれと僕の目の前に現れた。

 だが少年にいろんな意味で心惹かれていたとはいえ、元々は断るつもりでいた。商売の真似事をしているが目利きに優れているわけではないし、内容が植物で尚且つ判別目的が食べることとなると、それはもう専門家を呼ぶべき案件である。

 だから口惜しく思いながらも断りの文句を考えていたのだ。


 ──手の中に燃えるようなきのこを見つけるまでは。


 急いで手から叩き落とし、廃棄方法を思案していた襤褸布ぼろぬのを取り出して茸を摘まむと、背負い袋に括りつけていた水の入った瓢箪の栓を引き抜いた。

 そのまま中身の水を勢い任せに捨てようとして、……すんでのところで思いとどまる。


「少年。持っているものを全て置いてこちらに手を出すんだ。」


 いきなり手を叩かれたことに目を白黒させていたシフだったが、こちらの言葉にこくこくと頷くと、集めた植物を地面におろし手を差し出してきた。

 瓢箪をゆっくりとかたむけ小さな手のひらに水を落としていく。中身が空になったことを確認すると、すぐさま茸を狭い口から中に突っ込んだ。


「そのまま待ってて。何も触らなこと!」


 言うだけ言ってその場を後にすると、急いでサラの家に向かう。そう遠くないことはわかっていた。それに少年の手に炎症が現れている様子はなかった。そう慌てる必要はないのかもしれないのだが、全く度し難い。


 やはりというか家にはすぐ着いた。

 サラは水をんでいる最中だったようで、息を切らせている僕を見て驚いていた。


「あなたのそんな様子は久しぶりに見た気がします。なにがあったんですか?」

「ああ……。シフが魔炎茸まえんじょうを触ってしまっていたんだ。」

「はあ。そうですか。」


 心底どうでもよさそうに生返事をしたサラに、若干の違和感を覚えながらもようやく呼吸が落ち着いたことを確認し言葉を続ける。


「不躾で悪いんだけどその水を貰っていいかい?ついでに桶と茶葉もお願いしたい。」

「かまいませんが、次の積荷に嗜好品が増えることを期待していいんですよね?」


 さも当然のように真顔で言うものだから思わず苦笑いがこぼれる。


「サラちゃんも、おいしいご飯を期待してるよ!」


 こちらを一瞥いちべつしてサラは無言で家に入っていった。

 一見無視されたようだけれど、僕が急いでいるのを見ていたのだから、会話する時間も惜しんで注文したものを取りに行ったに違いない。きっと、たぶん。……おそらくは。


 そうしてサラから水、桶、茶葉を受け取るとシフの元に戻った。

 戻る前に気づきたかったのだが、石鹸を貰ってくるべきだった。

 僕を迎えた少年の手は少しだけ赤らんでいたのだ。


 大人しくハーブティーに手をひたしたシフを改めて見る。

 何も知らないのだ。

 詳しいとか詳しくないだとかはどうでもいい。この幼児には少しでも知識を与えよう。


 ──いや、それでは面白くない。


 聞かれたことだけに答えよう。そうだ。それがいい。

 どんな思考で、どういった知識を求めるのか。そこを見どころとしよう。私にもそれぐらいの役得はあってしかるべきだろうから。

 手始めに……そう、何が食べられるのか。記憶を掘り起こさなくてはならない。 


「で、なんだっけ?どれが食べられるかだっけ?……ああ、手はそのままに。僕が教えてあげよう。全てとはいかないけどねぇ。」


前回から二ヶ月……。毎回似たような反省をしている気がします。作者です。

今回遅くなったのにはいくつか理由がありますが、物語に触れて挙げるなら植物に関して調べていたからです。

序盤に少しだけ描写のあった木の実でしたが、実際にはどういったものだったのか。どんな食生活だったのか。書くつもりだったんですが……想定よりあっさりになってしまいました。

というのも最初は出てくる植物の全てを名称付きで登場させていたのですが、気づけば図鑑みたいになっていたためです。配分が難しい。

ちなみにこのエピソードも、おそらくもう少し続きます。

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