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〈閑話〉埃の精霊 精霊の埃 3

「ごめんごめん。あまりにも雑な例えだったね。」


 コユビさんは苦笑いを浮かべながら、つまんでいた葉っぱをわきに置くと「うーん」と唸り出した。

 地面に胡坐あぐらをかいて太ももに肘をつく姿勢はいさましいが、年齢も性別もさっぱり謎のままだ。

 自分が直前にした質問とは全く別のことを考えていると、コユビさんが「ああ、なんだ」と息をらした。


「わかりやすいたとえを出す必要もなくなったぞ、少年。なにせみづから実演してくれるようだ」


 そう言って前かがみに身を乗り出したコユビさんの視線を追って、ようやく自分が今まで何を待っていたのかを思い出した。

 廃屋はいおく同然の小屋の壁、その隙間から黒い毛玉が飛びてきた。精霊だという小さな体はふわりふわりと宙を舞い、やがて地面に落ちた。それから……


 ……それから何も起こらない。

 小屋の中で見たときに生えていた腕は見当たらず、動き出す様子もない。小さな毛玉は只々地面に佇むのみだ。いったい自分は今、何を見せられているのだろう。思わず首をひねってしまう。


「あれが“面白いもの”ですか?」

「まだだよ。もうちょっと見ていたまえ」


 こちらを伺う様子もなく促すコユビさんに、不審に思いながらも黒い毛玉、もといパサパサに視線を戻した。

 埃に例えられるだけあってその身体からは重さが見てとれない。その証拠というわけではないだろうが、たった今肌を撫でた微風そよかぜで黒い毛玉は再び宙を舞った。

 風で浮かび上がるまで気が付かなかったのだが、彼らは今まで日陰にいたようで木漏こもの中で風にもてあそばれているパサパサは、太陽の光が反射して毛の先が白く輝いている。そして溶けて消えた。


「......は?」


 思わず口から声が漏れてしまった。が、しかし、そんなことよりも、消えた?

 わずかではあったのかもしれない。それでも確実に質量を持って動きまわっていた生物が、氷が溶けるように消えてしまった。

 いや氷と違って液状化したわけではなさそうなので、溶解と言うより昇華と言うべきかもしれない。いやちがう。そうではなくて。

 例えば虫が飛んでいたとして、小さな羽虫ならば見失うことはあるだろう。だが目の前で消えることなどありえない。それが起こりえるのは、それこそ氷などが自然現象によって……。

 ……自然現象だったのか?だとしたら腕が生えていたのは?自然現象に腕など生えるものか?

 そこまで思考を巡らせて、自分の馬鹿さ加減に気づいて辟易へきえきしてしまった。


 『()()()

 精霊の分類の一つで、自然現象などに関係がある精霊。

 つい先ほど説明されたばかりだというのに、すぐに結び付けられなかったことが何とも歯がゆい。とはいえ、目の前でおきたことは理解できそうだ。

 つまりパサパサという精霊は生物としての一面を持ちながら、水と似た性質を持っているということだ。

 原理は全くわからないが溶けたり固まったりできて、さらに推測を重ねるなら、身体からだにおこる状態変化は温度に左右されないのではないだろうか。あの一瞬で溶けるほどの温度の変化があったとは考えずらい。

 それよりも印象深いのはやはり、溶ける直前にパサパサがさらされた日光の存在だ。これも推測でしかないがパサパサという精霊そのものが、日の光が弱点ないし苦手としているのではと考えられる。

 ふうと一息ついて思考を落ち着かせた。

 流石に全容を掴んだとまでは思わないけれど、パサパサという精霊についてはだいぶ理解が進んだと言えるだろう。


「少年」


 唐突に呼びかけられて声の方向に顔を向けると、口をゆがめてにやりと笑っているコユビさんと目が合った。


「僕が言った面白いものはまだだよ」

作者さあ。これ閑話だよ?元々一話の予定だったよ?流石に三分割以上はやりすぎ。反省して?


……はい、すみません。 パサパサ周りのエピソードは次でまとめられると思います。そう信じています。

前回、前々回とあとがきを長々と書きすぎてしまったので、今回はここらへんで止めておきます。

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