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持ち帰ったもの

「アイテムボックスの中に別のアイテムボックス、ですか?」


 時計職人(仮)の空間内に入り込んだ翌日の朝。

 テーブルを囲んで食事を取りながらサラに昨日見た光景を話していた。


「にわかには信じがたい話ですね。その見つけた空間も私のアイテムボックスの一部であるという可能性はないのですか?」

「ないね。根拠を聞きたい?」

 はっきりと否定したことで何かを察したのか、サラが視線を逸らす。


「いえ、結構です。……きっと私の空間とは様子が全く違ったのでしょう。そういうことですね?」

「その通り。」


 サラが何か言いたそうにしていたが、まあ気にしなくていいだろう。

 深く考えないことにしたのか「いいでしょう」と小さくつぶやいて話を戻す。


「つまりあなたは昨日、私のアイテムボックスから別人のアイテムボックスに移動していた、そういうことですか。」

「そういうことになるね。そんなに長居はしなかったけど」

「賢明な判断です。アイテムボックスの中はまだ未知の部分が多すぎます。危険が無いとも限りません」

 それは……確かに。


 自分からすればサラの意見はとても新鮮だ。

 昨日は空間の持ち主と置いてあるものばかりを警戒していたが、言われてみれば空間自体が本来危険領域なのだ。普通に過ごせてしまう分、危険性を忘れがちになってしまうのは気を付けるべきかもしれない。しかし身近に感じるために空間内での生活をしているわけで、問題ないと言えなくもないのか……?


 思考が迷走しているうちにサラが食器を片付け始めたので、自分も慌てて片付ける。

 というかこちらが考え込んでいたとはいえ、いきなり食器を片付け始めるのはどうなんですかね。ちゃんと話は聞いていたのだろうか。

 などと思っていたが杞憂だったようで、テーブルに戻るとサラの方から「話の続きですが」と切り出してきた。


「長居しなかったとはいっても、他人のアイテムボックスであるという確証を得る程度は探索したのでしょう。ならば“その空間は本当に他人の空間であるか?”という疑問は捨て去ることにします。そうなると今一番重要な問題はなんだかわかりますね?」

「もちろん。“誰のアイテムボックスなのか”でしょ?」

「そうです。その相手によっては、アイテムボックスが長距離移動の手段として使える可能性も考えられますから。」


 驚いた。まさかサラが自分と同じ仮説を立てるとは思わなかった。

 長距離移動の手段に使える可能性というのは、例えば時計職人(仮)の空間が一番近くにいた人物のアイテムボックスだった場合、現実世界でどれほど離れていようと隣り合う人物の空間どうしも隣り合っているのではないか?という可能性を考えたものだ。

 もしこれが正しかった場合、何キロ離れていようが空間内を通ればすぐにたどり着くという、どこかの青い二頭身のロボットが所持する扉のような使い方ができるのだ。

 アイテムボックスから出してもらわないとたどり着けないという欠点はあるものの、そうした使い方ができればかなり用途の広いスキルになる。

 ゆえに重要。

 こちらが一晩かけて考えた可能性をすぐに見つけ出されたことは釈然としないが、それはともかく。

 

「ここら辺に住んでいる人で一番近い人は誰なの?」


 当然の質問だった。

 近くにいる人物が時計職人でなくても、少なくない本を持っていたので学者、研究者、それから教師などであれば空間の持ち主である可能性がある。その疑問を早々に片付けようと考えるのは理にかなっていると思っていたのだが、どうやらサラは違っていたようだ。


「付近の住人、ですか……?」

 明らかに動揺してこちらをじっと見つめたかと思えば、黙ったまま何かを迷うようなそぶりを見せた。

 そんなに変なことを聞いただろうか。

 首をかしげていると、こちらが疑問に思っていることに気づいたのか「いえ……ええと……」と視線を合わせないまま口を開いた。


「すみません。私も森から出ないので近くに誰が住んでいる、などということはわからないのです。」

「そうなの?」

 自分がサラと暮らすようになって減ってはいたが何度も出かける姿を見ていたので、てっきり森の外に出ているものだとばかり思っていたのだが。


「はい。出かけることはあっても森の中だけです。食料やその他の必要なものは持ってきてもらっていたので。」

 コユビさんは意外とこの暮らしに欠かせない存在だったらしい。


「じゃあコユビさんがわかっている中で一番近くにいる人ってこと?」

「それはないと思います。あの人の本来の職場はかなり遠かったはずなので。」

「じゃあ今確認する方法は無いのか……」

「そうですね。私にも思いつきません。」


 うーん、手詰まり感が強い。他人のアイテムボックスに入り込めたという大発見のわりに得られた情報が多くない。

 これなら持ち出した時計を観察した方が早いかもしれない。

 …………

 そうだった。

 実は無数の時計の中から一つだけ持ってきてしまっていたのを忘れていた。

 空間内に入っただけで不法侵入では?などと考えていた、自分らしくないとわかっていたが持ち出してしまった。

 いや……持ち帰らずにはいられなかった、というべきか。

 何の直感が働いたのかはわからない。けれど、これを持ち帰ることが誰かを幸せにするのだと感じた。

 誰を?わからない。だが人生を左右するほどのもの。

 それだけはなぜか確信を持っていた。


 とはいえ盗み出してしまっていることに変わりはないので、実はずっと気が気でなかったりする。


「あのー、サラさん?」

 おずおずと声を発したこちらにサラが怪訝な視線を向ける。

「何ですかわざとらしい。言いにくいことがあるならば早々に言ってしまいなさい。」


 ……お見通しですか。

 ならばお言葉に甘えさせてもらおう。


「実は……見つけたアイテムボックスから中身を持って帰ってきちゃったんだよね。」

「は?」


 サラが硬直した。

 しばらく空を見つめていたが、やがてゆっくりと指で眉間をもみ始める。

「あ……あな、あなたというひとは……」

 はあぁー……と長い溜息をついてから天を仰いだ。


「意外と大胆なんですね……。」

 

 ……え、そっち?何その感想。 


「……怒ったりはしないの?」

 聞いてみるとサラが脱力しながら驚くという器用な動きを見せた。


「おこる……怒る?私が?なぜですか。」

「他人の所有物を盗むと罰を与えられるって……」

 ああ、とサラが納得したようにつぶやくと思いもよらない発言をした。


「別にいいんじゃないですか?」


 一瞬言っている意味が分からなかった。

 人のものを盗むのが別にかまわないと言ったのか?

 あのサラが?噓だろ?夢でも見ているのか?


「あなたは私を何だと思っているのですか……。奪ったわけではなく盗んだだけなら返せば元通りです。相手の意志に反して手に入れたのでなければいくらでもやり直すことができるのですから」


 サラはそこまで言って、はっと顔を上げた。

「いえ、こんなことを言うつもりでは……。ともかく、盗むことはもちろんいけないことですが、あなたはそんなこと百も承知でしょう。それでも持ってきたのだから、そうしなければならなかったのです。それに私に打ち明けたときの様子を見るに反省もしているようなので、私からあなたに言うことは一つ。早めに持ち主に返しなさいと、そのくらいのものです。」

 サラは穏やかに締めくくった。その表情は笑顔であるかのように見えた。


「ーと長くなってしまいましたが、結局何を持ってきてしまったのですか?それほど重要なものだったのですよね?」

「うーん。自分でもよくわからないけど持ち帰るべきだと思ったんだ。」


 そう言って一つの懐中時計を取り出した。

 手に乗せたそれをサラがのぞき込み……………………顔面を蒼白にさせた。


「っ!?」


 椅子を蹴って立ち上がり怯えたように後ずさる。

 信じられないものを見た顔で唇を震わせていたが、大きく深呼吸をして倒れた椅子を起こすと座りなおした。

 自分はその一連の流れを訳も分からずただ眺めていることしかできなかった。


「突然取り乱してすみません。もう大丈夫です、落ち着きました。」

「そ、そう。」

 懐中時計を差し出した格好のまま固まっていたが、ゆっくりと手を引っ込める。


「えーっと……聞いてもいい?何に驚いたのか。」

「かまいません。これは私の知人のアイテムボックスにあったはずのものです。盗まれた可能性は考えられないので本人の空間から持ち出したものとみていいでしょう。つまりあなたが見つけた空間は、私の知り合いのアイテムボックスだったようです。」

「……え、そうだったの!?」

 

 予想外の答えに反応が一瞬遅れる。

 まさかこんなにすぐアイテムボックスの保持者が特定できるとは思わなかった。だがそうなると次に気になるのはその知人がどこにいるかだが……


「その人がどこにいるのかはわからないんだよね?」

「いいえ。わかります。」

「本当に!?」


 さっきは付近に住んでいる人すらわからないと言っていたので、これもまた予想外の反応だ。


「正確に言えば“どこにもいないこと”がわかっています。」

「ん?」

 それはつまり……?


「あなたが見つけたアイテムボックス、その所有者はすでに死んでいます。」

前話の投稿が先週の土曜……。

つまり一週間も一話に苦戦していたという事実に戦慄しております。

二人が頭の中で全然会話をしてくれないから進まなかったのです。そうに違いありません。

……などと言ったら二人に口をきいてもらえなくなったりするんでしょうか。

作者の立場、よわいなぁ……。

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