愛着が死にゆくとき
部屋の中を片付けながら昨日のことを思い出して大きなため息をつく。
昨日は本当にいろいろあった。
元々はコユビさんが来られなくなったことで休養日になった一日をゆったりと過ごすはずだったのが、アイテムボックスに落ちたり、スキルが判明(?)したり、いろいろと濃い時間になってしまっていた。
そして、昼食後に言った自分のささやかな我が儘。
「これから、アイテムボックスの中で生活したい。」
この一言によってそれまでの和やかだった空気が一変。
また一悶着起こることとなった。
その時、部屋の中は不気味なほど静まり返り、沈黙するサラとはしばらく向かい合っていた。
やがてサラは、一つ二つとこちらの発言の意図について質問を投げかけ始め、それに対しこちらもひとつずつ答えていった。
サラからの反対を予想していながら、“生活したい”とまで言ったのにはもちろん理由がある。
短時間での実験では正確な情報を得ることが難しい場合がある、と思ったことが一つ。
さらに“食う”“寝る”“試す”を常に行うことで、アイテムボックスについての理解を十分にしたいと考えたことがもう一つだった。
質問をされるたびにそれらの考えをもとに答えていったが、予想に反してサラが強く反対することはなかった。
むしろ激怒されると思っていたので、落ち着いて質問されるたびに胃が軋むようだった。
だが、そもそも何故サラが激怒すると決めつけていたのだろうか。サラが感情のままに行動することの方が稀であるというのに。
今のサラからは怒りどころか感情すら読み取れない。
では全く恐怖を抱くことはないのかと聞かれれば、間違いなく超怖いと答えるだろう。
冷静なサラに質問され、それに対し落ち着いて答えていただけだ。にもかかわらず、いつの間にか正座をしていたくらいには、サラに説明できない迫力があった。
そのまま三時間ほど質疑応答と言う名の尋問が続けられたのだった。
最終的に条件付きで認めるという形でまとまったのだが、昨日のことなのに思い出したら体が震えてくる。
出された条件とは、まず朝と夜、最低でも夜は食事を共にすること。
分担された家事は今まで通り行うこと。
三日に一度はコユビさんがいなくても外で体力づくりを行うこと。といった内容だった。
「何かあれば条件もその都度修正しましょう。」
とサラから言われたことで、その場は解散となった。早速アイテムボックスの中に、と思っていたのだがすでに日が傾いていた。
顔には出さないように渋々夕食の支度をするのだった。
そして今現在、サラのアイテムボックスの中を掃除しているところだ。
昨日の時点で分かっていたがやはり汚い。サラは誰もがこうだと主張していたが疑わしい限りである。
まずは生活できる程度には整理しなくてはいけない。
何から始めようか見渡すと、物がない空白地帯が二カ所あった。どちらかを中心に何もない空間を広げていくことにする。
一カ所は料理ついでに火と水を空間に入れようとして、物を無理やり退かしてできた場所だ。もう一カ所は……。
……
そうだった。いつの間にか忘れていた。
もう一カ所のぽっかりと開いた空白の中心には、サラが失くしたと言っていたマグカップがあった。
歪で不格好、しかもひびまで入ってしまっている。これは使っている中で損耗したというより、もとからこの形だったのだろう。もう少し形が曲がりくねっていれば、芸術品と言われて納得していたかもしれないのだが、そういうわけでもなさそうな微妙な造形である。
陶芸の経験はないが、自分も頑張ればこのくらいのマグカップくらいなら作れそうだ。
しかし、サラが重要だと言っていたものだ。何か特別な力がある可能性も……
……
いやないな。これには間違いなく特別な何かはない。根拠はないけど断言できる。でもただのマグカップと断定するのも早いのだろうか……?
手に取ってまじまじと観察していたが我に返り足元に置く。どうせならここを起点に整理をしよう。散乱するものを前に意志を固めるのだった。
最近誤字ばかり量産していたので変換には大いに気を付けているのですが、一カ所などの「カ所」の部分に戸惑いました。
カ所、ヵ所、ケ所、ヶ所、どれでもいいんだそうです。
どれを当てはめても、なんか違う……?となってしまい混乱してました。何が正しいんだ……
ここばかりに気を取られて別の誤字をまた量産していなければいいのですが。(あ、フラグが……)




