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愛すべきごみ溜め 6

 自分が水を汲んでくる間に、薪が燃えるまで火を大きくしていたサラが「私も聞いた話ではありますが」と前置きをして話題を振ってきた。


「アイテムボックスを用いた実験をする際には、嫌がられる実験対象があるそうなのです。それが何だかわかりますか?」

「嫌がられる実験対象?」


 なんだそれは。

 けねばならないわけでも、おこなってはならないわけでもなく“嫌がられる”?

 思いもよらない内容に面食らっていると、サラは薪をつつきながら苦笑にがわらいを浮かべた。


「そこまで複雑なものではありませんが、あなたには想像しづらいかもしれませんね。」

 運んできた水を鍋に流し込んでかまどまで持っていこうとすると、サラが片手をあげて少し待つように合図する。

 鍋がそれなりに重かったので早く置かせてくれと視線で抗議すると、やれやれと言った様子で鍋に人差し指を向けた。


「それです。」

「……はい?」

「だからそれです。」


 いや、意味が分からない。

 明らかに言葉数を減らして何かに誘導しようとしているが、唐突すぎて理解が追い付かない。


「……鍋がどうかしたの?」

「鍋ではなく中の“水”、それと“火”が正解です。」


 あー……。なるほど。


 そこまで言われてようやく理解できた。

 要するに、直前の話に出た“アイテムボックスに関する実験で使用するのを嫌がられるもの”。それが水と火だったということだろう。

 しかし、今答えられなかったのは思考力のせいではなく脈絡みゃくらくのないヒントのせいなので、クイズのつもりで出したのならば深く反省してほしいところだが、それはともかく。


 水と火が嫌がられる?

 アイテムボックスの空間自体が燃える、とかだろうか。だがその場合嫌がられるまでもなく禁止されるだろう。

 中の物が濡れるから嫌、などは考えられるのだろうか。……事前に物を退かせばいいのでは?

 いくらか考えてみたがあまりピンとこない。

 それよりいい加減鍋を持っていられないので、どこかに置かせてほしいのだが。


「重いならテーブルに置いたらどうですか?」


 ……………………たしかに。

 いや違う。料理をするというからかまどまで持っていこうとしていたのではないか。使わないのなら先に言ってほしかった。


「もちろん、料理にも使いますが実験もすると言ったではないですか。」


 そんなことも言っていたか。

 ……

 というか、さっきから思考を読んで返事をされてないか!?恐ろしすぎるんだが……。


「失礼な。あなたが考えていることがすべて顔に出ているだけです。そんなことではこれから出会う人全てに騙されますよ?」

「そんなにわかりやすいのかなぁ……。」

「くれぐれも変なことを考えないように気を付けることですね。」


 それは変なことを考えていればわかりますよ、という脅しだろうか。

 ついさっき着替えたばかりなのに、いやな汗が止まらない。


「さて話が大きくそれてしまいましたが、水と火が実験で嫌がられる理由を説明しましょう。」

 そういえばそんな話だった。

「濡らしたり燃やしたりすることを気を付ければいいだけじゃないの?」

「それは当然気を付けなければなりませんが。……シフ、あなたは一つ重大なことを忘れています。」

 重大なこと……?サラの言葉に少し考えて、

「アイテムボックスの中は見えない?」

 と思い当たることを口にする。


「そうです。本来アイテムボックスの中は見えない。それはつまり中がどうなっているかがわからないということです。」

「ー?それはそうでしょ。」


 当たり前のことをわざわざ言われて首をかしげるこちらの様子を見て、サラは一つ咳払いをして続けた。

「……では言い方を変えます。あなたはアイテムボックスの中を歩き回ったと言っていましたね?」

「うん。結構広い部屋みたいな場所で、床に散乱しているものを踏まないように、ね。」

 今思い返せば物の状態が変わらないということは、踏んでも別に壊れたりしなかったのかもしれない。


「そうですか。ですがそれも私たちには確信を得ることはできなかったのです。」

「確信?なにが?」

「アイテムボックスの中が()()()()()()()だということがです。」

「!」


 中が見えない。それは空間自体の情報がほとんど得られないということだったのか。

 四角いのか丸いのか。

 足がつくような、およそ地面と呼べるものがあるのか。

 重力はあるのか。

 もし重力があったとして、それは地面に対して垂直に働いているのか。そう言ったものが一切わからない。

 それでは不用意な実験はできないだろう。研究されてこなかったことにも頷ける。むしろコユビさんの知り合いの研究者はよく調べようなどと思ったものだ。


「大体納得できた。水や火が嫌われるのは形が不定形だからだね。それだけをしまってみても簡単に取り出せないし、それどころか中のものに何かしらの影響を与えかねない。試すにはリスクが高すぎる。」

「そんなところです。説明するまでもなく答えにたどり着けましたね。」


 サラがかすかに嬉しそうだが、あれだけ的確なヒントを出されているのだ。放っておかれていたとしても答えにたどり着いただろう。それに思考を読まれていることも含めて考えれば、ほぼ教えてもらったのと変わらないだろうに。

 いや、あまり深く考えるべきではないのかもしれない。頭のすみで考えている事すら見破られそうである。早めにポーカーフェイスを身につけなければ。


 ……思考が迷走していた。頭をアイテムボックスに切り替えて少し整理する。


 アイテムボックスの中を勝手に“別次元の部屋”の様に捉えていたが、それは自分が目で確認できたからこそ判断できたのだ。

 本来ならば謎の空間以上の認識をすることは困難。そんな場所に水や火など試したくない。

 しかしあくまでも“嫌われる”だから試してみる場合などもあるのだろう。


「じゃあ実際のところ、アイテムボックスに水を入れるとどうなるの?」

 口にした言葉にサラが大いにあきれ果てた。

「だから、今からそれを試すのではないですか。」

「それもそうか。で、この鍋の水を火にかけるなと。」

「そういうことです。熱湯である必要などありません。無意味に火傷をするリスクを背負う必要はないですから。」

「熱湯をアイテムボックスの中にいれたら冷めるのか……とかは意味があるんじゃないの?」

「……一理ありますね。ではそれについても試してみましょう。」


 ようやく本題に行きついた。

 何もしていないのにどっと疲れが出る。


「何度も言いますが料理と同時にです。薪もただではありませんし、水も大量に使う必要はないでしょうから。」

 言いながらサラはゲートを開いた。


「……………………今度は天井に開かないでほしい。」


 不信感を隠さずにじっとりとサラを見つめて言うと、少しだけ赤くなった耳を手で隠しながら「わ、わかっています……」とつぶやくのだった。


前回のあとがきは別にフリではなかったんですけどねぇ……。

読み返しているうちに見つけてしまいました。そう、誤字です。しかもかなり致命的な。

それは「かざした手の平」のシフの思考の中にありました。

急に修正するのも混乱を招くかと思ったので、次話投稿あたりで修正しようと思います。

読んでくださった方々にできる限り気づかれていませんように……。


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