愛すべきごみ溜め 4
ゴツンッと何かに頭をぶつける鈍い音が響いた。
「~っ!」
しばらくの間頭を抱えて呻いていたため気づかなかったが、見慣れない荷物の山に倒れ込んでいた。
一瞬どこにいるのか混乱したがすぐに理解した。理解して、息を止めた。
(もしかしなくてもここ、アイテムボックスの中だろ!)
コユビさんに聞いた話だと、全身がアイテムボックスの中に入ってしまったらアイテムボックスの意志によって即時死ぬらしい。
やばい、しぬ。
いきなり陥った、というか落ちてしまった場所に目を白黒させて混乱する。
今のところはまだ生きているが、コユビさんからどのように死ぬのかというのは聞いていない。状態を保存するためとかなんとか言っていたからいきなり体が爆散するようなことにはならないと思うが……?
いや、だめだ。そうとも言い切れない。
体の保存を全身ではなくパーツ別に行う可能性も無視できない。別に詳しいわけではないが、体の中で動いているのは脳や心臓だけではないだろう。爆散しなくても徐々に体が動かなくなるなんてことになれば、それは恐怖でしかない。
百歩譲って死ぬにしても、恐怖を伴なう死に方はぜひとも遠慮してほしい。
口元を手で押さえて右往左往していると、足元にあったマグカップを踏みそうになった。
状況も忘れて、そういえばマグカップを探してって言われていたなあ。と思いだす。
未知の領域に落ちたことで混乱していたが急に冷静になれた。
自分はもうどうせ死ぬだろう。即時死ぬと言われていたのだ。例外はないだろう。ならせめて失くしものを取り出す手伝いをした方が有意義だ。
そう思いマグカップの周りにあった荷物を押しのけ始める。こうすれば多少見つけやすいかもしれない。空間内が思っていたよりも広いので、焼け石に水感はぬぐい切れないのだが。
そう、アイテムボックスの中は広かった。
バレーボールコートくらいはあるだろうか。物が散乱していて見えにくいので確実性はないがそれくらいはありそうだと思う。どうやってこんな広い場所から目当てのものを取り出すのか疑問に思ったが、死にそうだしそもそもアイテムボックスを使えない自分には関係ないと開き直る。
マグカップの周りを押しのけたときにできた、何もない場所に腰を下ろす。
いつの間にか呼吸を止めることも口を手で覆うこともしていなかった。冷静になると少し前までの慌てていた自分がバカみたいだった。死にそうな場所に入ってしまっていたのだから当然と言えば当然なのだが、受け入れてしまえばどうということもない。その時が来るまではせいぜい寛いでいることにしよう。
それにしてもコユビさんの情報もいい加減だ。即時なんて言うから急に胸が苦しくなったりするのかと思っていたのだが、身体になんの変化もない。
これは長丁場になりそうだ。
迫りくる死に対して欠伸をしていると、黄色いマグカップに手がぶつかる。
そういえば見つけやすいように周りの物を退かしたのだった。それなのに自分がここで死んだら邪魔な障害物となってしまう可能性があると気づく。それは本意ではない。
場所を移動しようと立ち上がる。
すると何かが肘のあたりに触れた。
……?
何かにぶつかったのだろうか。そう思い確認するよりも早く、肘が掴まれた。
「えっ」
驚いた次の瞬間には超強力な力で引っ張られ、足が地面を離れる。
「!?」
体が宙を舞い、何秒にも感じられた一瞬の後。体が床にたたきつけられた。
急に引っ張られ体を投げ出されるという突然の事態に目をぱちくりさせていると、深く大きなため息が横から聞こえた。
視線を向けると、顔を真っ青にしてへたり込んでいたサラと目が合った。
サラはこちらの様子を確認して、青ざめていた顔を真っ赤にした。
「あ、あなた!何を……!なぜ返事をしなかったのですか!何度も、呼び掛けていたのに!!」
サラが髪を振り乱して激高する。凄まじい剣幕にたじろいだが覚えがないことを主張する。
「いや……その、そんな声聞こえなかったけど……?」
こちらの言葉を聞き、息を荒げていたサラの動きが止まった。
「……そう、なのですか……?……いや、そうですね。あなたもアイテムボックスの中に入ることが危険だということは知っていたはずです。聞こえていたら返事くらいはします、よね……。」
吊り上げていた目を閉じて独り言のようにつぶやくと、固く握りしめていた拳をゆっくりとほどいた。
うつむいて大きく息を吐きだしたサラは、顔を上げるといつもの平静さを取り戻していた。
「申し訳ありません。謂れのない非難をしてしまいました。……どうか許してください。」
「えっと、それは別にいいんだけど……」
そのあとの言葉が続かなかった。
お互いが無言のままの時間が過ぎて、静寂で耳が痛くなってくる。
アイテムボックスから引きずり出されるわ、いきなり激怒されるわで訳がわからないし、足に力が入らず座り込むことしかできない。
あそこから出てこれた、もとい死なずに済んだことに思っている以上に安心しているのだろうか。
意識して強張っていた体の力を抜くと、自然と床に倒れ込んだ。
それを見て、急に目が覚めたようにサラが詰め寄ってきた。
「シフ、あなた体は大丈夫なのですか?わずかな時間とはいえ、本来致死である空間にいたのです。身体になにが起きていても不思議ではありません。」
そう言って倒れ込んでいるこちらを見て、またもサラが青ざめる。
「頭にコブが出来ているではないですか!」
言い終わるより前にサラは動き出していた。
コブ?え、嘘。
頭を触って確かめると確かにコブができていた。いつの間に……。というか自分でも気が付かなかったコブを見ただけで発見したサラの観察力が凄まじいな。
しかしコブか。今更どんどんコブが腫れあがっていって頭が吹っ飛ぶ、とかいう落ちにならないことを祈るばかりだ。
……いやまてよ?このコブの場所って……あー、そうか。
コブについてその出所に思い当たったころに、サラが水にぬらした布を持ってきていた。
「これはアイテムボックス内にいたことでできたものでしょうか? 間違っている可能性もありますがひとまず冷やしておきなさい」
腫れている場所に冷えた布を押しつける。絞り切れていなかったのか冷たい水が首元まで伝ってきていた。
「そんな危ないものじゃないと思うよ?」
「……どういうことですか?」
楽観的に言う自分を見つめるサラ。心配してくれているのだろうが、視線が鋭いので睨まれているようで少しだけ怖い。
「アイテムボックスの中に落ちたときに何かに頭をぶつけたんだよね。これはたぶんその時にできた。」
「そう、ですか。……身体に異常がなさそうで安心しました。」
息をついたサラの表情がようやく柔らかくなる。よく見るとものすごい量の汗をかいていた。それなりに心配させてしまったのかもしれない。
「それはそうと、一つはっきりしましたね。」
冷えた布を押し付けていることが面倒くさくなって手を下ろそうとしていたこちらを、手振りでたしなめながら言った。
しぶしぶ押さえる手を変えながら「何が?」と聞くと、サラはいまだに座り込んでいる自分に、視線を合わせるように屈んで答えた。
「あなたのスキルがです。」
基本的に一話あたり3000文字を超えたらそれ以上は次話にするようにしています。
そこまでいかなくてもひと段落しそうなところでまとめます。
その理由は、短めにしないと誤字の修正や「この言い回し何か違う……」というのを見つけられなくなるからです。
完全に作者の能力不足です。申し訳ない……。
ですがここまで読んでくださった心の広い方々なら許していただけると信じています。
……で、ですよね?(震え)




