愛すべきごみ溜め 3
サラがまさかの汚空間だった。しかも重要な何かを実際に失くしていたらしい。
「今からでも遅くないから探してみれば?」
「……もう終わったことです。今更見つからなかったところで困ることなどありません。」
失くした当初は困ってたのか……。
それはそうか。アイテムボックスが日常に必要ないと豪語したサラが、わざわざ空間内に入れていた物だ。それなりに大切な物だったに違いない。
それにしても強情だ。
だがここで一つ、言いくるめられる方法を思いついていた。
「じゃあ、自分の練習に付き合うと思って開けてくれない?」
「……?何がどうすれば、私がアイテムボックスを開くことがあなたの練習につながるのですか?」
お、食いついた。
「こっちはアイテムボックスについてほとんど知らないんだよ。どう開くのかとか、中に手を入れたらどうなるのか、とか。だからサラに開けてもらって自分が中を探してみる。そうすれば中の捜索もできて、自分もアイテムボックスを開くコツがつかめるかもしれない。どう?練習に付き合ってくれない?」
ここら辺は少なからず考えていたことだ。実際に使ってみた方が感覚的なものを掴みやすいのではないかと。
少しの間サラは迷う素振りを見せたが、やがて頷いた。
「いいでしょう。アイテムボックスが使えた方が旅は楽になるというのは事実ですから。」
そう言ってサラは空中に手をかざした。すると深紫色の靄が激しく渦を巻いて現れた。
中身だけではなくアイテムボックスの開き方にも違いがあるようで、サラの開き方は渦潮を思わせた。
サラは「どうぞ」と言って手を下ろす。
アイテムボックスを開いておくのに手を挙げている必要はないのか。また一つアイテムボックス取得に近づいた気がする。
渦巻いているアイテムボックスの入り口を通して窓のように中の様子を見ることができた。
確かにとてもごちゃごちゃとしている。だがしまったら二度と取り出せなくなる、というほど目茶苦茶ではないと思うのだが。
しかし未知の空間だ。“時が止められる部屋”に手から汗が止まらない。頭を切り替えてサラに声をかける。
「何を失くしたの?」
「マグカップです。」
「はぇ?」
変な声が出た。
それが無くなって困ったもの?
意外というか、コップは家の中にいっぱいあったと思うのだが。
「えーと、特徴は?」
「淡い黄色で……形は少々不格好だったでしょうか。ひび割れもあったかもしれませんが、それ以外は特に触れるべきところもない普通のマグカップです。」
黄色のマグカップか。
アイテムボックスの中の様子を見回してみると、言われた特徴が当てはまるマグカップが隅にちょこんと置かれてるのを見つけた。
……
いや……あるじゃん。
ちょっと探しただけで見つけてしまった。ほんとに困っていたのだろうか?
「隅の方にあるよ、マグカップ。ちょっと遠くて手が届くか怪しいけど。」
そう言って手を空間の中に突っ込んだ。
異空間に吸い込まれていく感覚とか、空気よりも重さを感じるだとか、そういうファンタジーを少しだけ期待していたが特に変わりがなく少々肩透かしを食らったが、危険が無いに越したことはないだろうと思い直し手を伸ばす。
「シフ、あなた何を言っているのですか?」
サラが唐突につぶやいた。
何かおかしなことを言っただろうか。そう思い振り返ると、驚愕で目を見開いたサラと視線が交わった。
「なんのこと?」
手探りでマグカップを掴もうと手を泳がせながら聞く。その様子を見て何かに気づいたのか、サラが息をのむ。
「あなた、どうやってマグカップを見つけたんですか?」
「どうって、普通にアイテムボックスの入り口が窓みたいになってたから、そこから中を覗いて見つけたんだけど?」
何かおかしいのだろうか。言いようのない不安を感じていると何かが手に触れた感触がした。
近くにあるかもしれない。その意識のままさらに手を突き出して探り続ける。
「シフ。アイテムボックスの入り口のことは扉と呼ぶのです。窓ではなく扉。そう呼ばれる理由は単純で、扉が本当にただの入り口の役目しか果たさないからです。空間の中の物を取り出すなら、手探りで見つける以外の方法はない。つまり、」
「つまり、普通は扉から中を見ることはできないのです。」
………………え?
耳にした言葉に頭が一瞬真っ白になる。
そのせいで気づかなかった。自分が必要以上に腕を扉に突っ込んでしまっていたことを。そしてアイテムボックスが現実とは違う空間だということを。
何の疑いもなく扉は空間の横に開かれていたと思っていた。が、そうではなかった。
扉はアイテムボックス空間の上部。要するに空間の天井から開かれていて、自分はそこから身を乗り出していたのだった。その結果何が起きたのかと言うと、
落ちた。
全身が入ってしまうと生存は不可能。
そう言われていたアイテムボックスの中に、あろうことか落ちてしまったのであった。
アイテムボックスの中に入り込んでしまったシフ。
少年の生死の行方は!?次回、乞うご期待ください!
……え?知ってる?
で……ですが、あらすじ読んでない方がいらっしゃるかもしれないので……




