愛すべきごみ溜め
初回の戦闘訓練以後、コユビさんは毎日家に来るようになっていた。
以前までは早くても数日。場合によっては一ヶ月以上家に訪れないこともあった。それを考えると、ありえない頻度で訪れているのがわかる。
少し前までは食事を目当てに来ていたようだったが、今は明らかに戦闘訓練するためにきている。
もう二ヶ月くらいたっただろうか。
毎日こちらの空いている時間に、武器を持ったコユビさんと相対し続けた。
コユビさんは特別武芸に秀でているわけではない。
しかし扱う武器を換えたり、攻撃のタイミングを変えてきたり、作戦を練ってきたり、罠にはめようとしたり、とにかく様々な襲い方を試行錯誤していた。
なにその情熱……
よほど刃物を振り回すのが楽しかったのか、それともこちらを追い詰めるのが楽しかったのか。何がコユビさんをそこまで突き動かしているのか全く理解不能だった。
だが、幸か不幸か。自分の自己防衛技術は飛躍的に上達していった。
最初はナイフを掴んで止めたり、身体で受け止めたりすることが精々だったが、今では斧や剣の様な長物でも、かわす、受け流す、叩き落とす、くらいはできるようになってしまった。
実戦ほど上達するというのは本当のようで、多少避けられるようになってからは明らかに研がれている刃物で襲われていたので、下手したら死んでいた。
本気で何考えてんだこの人……
そうしたコユビさんの凶行によって、短期間で戦闘における勘の様なもの身に付けるに至った。元々の趣旨から外れてるのではないか?とは思ったが、生き残るという観点から見て有用な力であることは間違いないので何とも言えない。
しかし困ったこともあった。
コユビさんは毎日家に訪れて、文字通りこちらの空いている時間を自分との訓練に使うので、例えば昼までに家事が終わればそこから夜まで。引き受けた家事がなにも無ければ一日中。自分の考えた作戦をもってこちらに襲い掛かってくる。
とても時間的拘束が長く、何より非常に疲れるため次の日の家事にも悪影響を及ぼしていた。
だが頼んでいる身としては休ませてくれとも言いづらい。
なにより本人に悪気は一切なく、純粋な善意だからこそたちが悪い。いや、殺されかけてるし善意も何も無い気はするのだが。
どちらにせよ、あの危険人物を早く誰か止めてくれないだろうか。
そう思っていると、コユビさんが森を一時出入り禁止になった。
理由は単純。毎日こちらに来ることで長期間仕事を放棄していたらしい。
そういえば、自分で行商は副業だと言っていた。というより行商自体も放り出していた疑惑がある。
それはそれとして、二ヶ月も無断欠勤を放っておいた職場が逆に気になるのだが。
ついでに最近疲労でくたくたになっている自分を見かねてか、サラから今日は休めと言い渡されてしまった。
かくして激動の二ヶ月から、いきなり休暇ができてしまったのであった。
家の中。薪がパチパチと燃える音が暖炉から聞こえている。
そういえば今年もすでに寒い時期に差し掛かっていた。
テーブルを挟んでサラは編み物を行い、自分は本を読んでいた。
最初はこの静けさがとても緊張感のあるものだと感じていたが、今では集中して本を読めるようになっていた。
四年前に自分が井戸に落ちるという間抜けなことをしていなければ、いまだに残っている隣の小屋で寒さを凌いでいたのだろうか。それとも二回目の人生をすでに終えていただろうか。
わからないが少なくともあの頃の自分は、四年後にサラと同じ屋根の下で暮らし、様々な技術が叩き込まれていくことなど予想できなかった。
ぼんやりと過去を思い出しながら、自分の手を宙に突き出して大きくなった自分の手を眺めていた。その時だった。
突き出した手の先で、ほんのわずか。空間が陽炎のように揺らいだ。
「!?」
今のはなんだ!?
見間違いなどではない。確実に風景が揺らいだ。それが、つまり。何を示しているかというと……
「アイテムボックスだ!」
興奮気味に椅子を蹴って立ち上がる。その様子を何事かと驚いたサラが目を見開くが、自分にはそんな彼女の表情など見えてはいなかった。
四年、四年だ。
それだけの時間練習し続けて、もう駄目だと思っていたのだが。
いきなり見えた光明に、感情の高ぶりを抑えることなどできなかった。
ここ最近、展開は頭にあるのに続く言葉が全く出てこないという事態が続いていました。
物語を描くって大変ですね、はい。
さてシフが短期間で戦闘技術を身につけたことについて、少し注釈を付けさせてください。
「そんな短期間で技術が身に付くわけねえだろ。作者はアホか」と自分でも思いましたが、彼は別に新たな技術を身につけたわけではないのです。
彼が元々持っていた「何事からも逃げる」という性質が訓練にも生きたというだけだったんですね。
え、本編で書け?おっしゃる通りです……




