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平等に与えられるもの 4

 昼食をとるためにいったん家に戻るとサラに、

「二人して泥だらけになって何をしていたんですか?」

 と氷点下のまなざしを向けられ、二人してながながい説教を受けた挙句、家に入れてもらうことさえ許されなかった。

 だがそれで終わらせないのが、サラに頭が上がらない所以ゆえんであるのだろう。

 サラは瞬く間に椅子とテーブルを外に持ち出すと、昼食を屋外おくがいに持ち出した。


「部屋の中に落ちた泥をぬぐい去るのには手間がかかります。それに比べれば椅子とテーブルをきれいにするくらい許容範囲きょようはんいです。今日は外で昼食を取ります。食べ終わったら川で汚れを落としてきなさい。」

 と許しを得ることができた。


「あのー、サラちゃん?この時期の川で体を洗うのは、ちょっと寒すぎるかなーって思うんだけど……」

「それは昼食は必要ないということでいいですか?」

「……いえ、何でもないです。」

 目の前に出された食事を人質に取られたコユビさんはあっけなく引き下がる。

 そもそも、そう思うのなら森で歩き回った後に胡坐をかくみたいな、汚れることをしなければよかったのでは?と思ったが黙っておく。

 昼食を運び終えテーブルに並べ終わったサラは、椅子に座って食べるように促した。

「冷めるので早く食べましょう」

 


「だいたい、井戸を使って汚れを落とすにしても、水が冷たいことに変わりはないでしょう。」

「井戸水で洗った後なら、すぐ家に入って暖を取れるだろう?そこまで離れているわけじゃないとは言っても、夜の森を通るのは寒いからいやだなぁ。」

「夜まで居座いすわって、晩ご飯まで食べようなどと考えるからいけないのです。」


 食べ物を口に運びながら言葉を交わすサラとコユビさん。

 つい最近までだれかと食事を共にすることなど想像できなかった自分には、今の状況が奇妙に思えて仕方がない。

 一人で何かを食べているときは、なにが汚れていようが冷たかろうが関係なかったのだが。

 それに食事中に会話をするサラも新鮮だ。

 彼女のことだからコユビさんが話しかけても「食事中です。行儀が悪いですよ」とかなんとか言ってたしなめると思っていたのだが、むしろ自分から話題を振っていたのには驚いた。

 自分と二人でいる時は無言でいることを強要してしまっているのだろうか。


「シフ。」


 突然名前を呼ばれて、はじかれたようにサラを見る。


「…………おいしいですか?」


 穏やかにこちらを捉える瞳に目が吸い寄せられる。

 しばらく声も出せずにいたが、小さく首を縦に振る。


「そうですか。」


 サラはそれだけ言うとテーブルに静寂が訪れる。

 ことにはならなかった。

 

「……え?サラちゃん?僕は?僕には聞かないの?僕に聞いてくれたら日が暮れるまでこの料理の素晴らしさについて語りつくせるんだけど!?」

「私がそれを本気で望んでいると思うのならば構いません。ですがその場合、二度とその椅子には座らせませんし、家の中での取引も認めません。」

「料理の感想を言うだけでその仕打ちはあんまりじゃないかねぇ!?」


 コユビさんが何か言うたびに、痛烈な一言をサラが見舞う。

 そのやり取りがなんとも喜劇じみていて、三人が食べ終えるまで冷たい静寂が訪れることはなかった。


 食事を終えた後、言われていた通りにコユビさんと二人で川に向かった。

「そうだ少年。そういえばアイテムボックスの解説が途中だったね。確かアイテムボックスには三つの特徴があって二つ目までは話した。違うかい?」

「いえ、合ってると思います。」

「それはよかった。約束するスキルを持っていながら、後で説明すると言ったのを忘れていたとなれば信用を失いかねないからねぇ。」


 コユビさんは川の位置を把握しているようで、迷うそぶりをまったく見せずに歩き続ける。

 自分はまだ行ったことがなかったので、おとなしくその後姿うしろすがたを追っていった。


「それで、三つ目の特徴は欠点でもあるとされている“保有者がいなければ使えない”だね。アイテムボックスは皆が平等に持っているものだけどその大きさや形は様々であり、それぞれの空間が同一となることはないと考えられている。つまり皆が別々のアイテムボックス使っているってこと。」


 まあ、そうでなければ個人の物置として活用しようとはしないだろう。

 しかし欠点?どこにもそんなものがあるとは思えないのだが。


「アイテムボックスには個人差があるってことは収納できる量にも差がある。って事まではわかりました。でも言葉の意味がしっくりこないんです。“保有者がいなければ使えない”って自分でアイテムボックスを使えて、ほかの人は使えないってことですよね?何がダメなんですか?」

「ダメなわけじゃないんだ。でも……」

 とそこまで言ってコユビさんは足を止めた。


 森を抜けた先には、き通った水が流れる美しい川があった。

 深さはどう見てもひざ下に届かない程度だろうが、流れが速いため足元をよく確認しないと危険そうに見える。

 コユビさんはアイテムボックスから布を取り出し、水でぬらすとこちらに差し出した。

「服は後で何とかするとして、まずは体を拭こうか。」

 布の水を絞ってから、面倒だったので上半身裸になるとコユビさんが「おお、若いねぇ。」などと、よくわからないところに感激していた。


「今少年が使っているその布は大切な物なんだ。あとできれいにして返してくれ。」


 コユビさんの突然の言葉に動揺する。

「え!そんな大切な物を渡さないでくださいよ!」

 と抗議したのだが、

「別に大切な物じゃないよ?」

 と返される。どっちだよ。


「例えばの話だよ少年。僕は今君に大切な布を貸したんだ。いいかい?」

 そういうことか。それは先に言ってほしいのだが。


「とりあえずわかりました。」

「よろしい。それで僕はきれいにしてから返すように言ったから、君はアイテムボックスにしまって次に会うときに渡すことにしたんだ。」


 ……?

 話の流れが見えない。


「何の話ですか?」

「まあ、聞いてて。……君は僕の大切な布をきれいにして、汚れないようにアイテムボックスの中で保管していた。状態が変わらないからね。けれど不幸な事故が起きて君は死んでしまうんだ。……で、本題なんだけどその場合僕の貸した布はどうなると思う?」


 勝手に殺されたことはどうかと思うが、言わんとしていることは何となくわかった。つまり、

「それがさっきの“保有者がいなければ使えない”という特徴の問題点だということですね?」


「そういうこと。アイテムボックスはその空間の保有者でなければ物を取り出せない。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということなんだ。これはかなり大きな欠点でね。なくなったものが僕の布くらいなら問題はないんだけど……」

 そこまで言って言葉を濁した。


 ああ、なるほど。

 死んだ人のアイテムボックスの中身は取り出せない。それは裏を返せば、人を殺せば相手のアイテムボックスの中身まで消し去れるということだ。

 そこまでわかれば想像など容易たやすい。

 犯罪の証拠隠滅などにも使えてしまうがそれよりも、例えば……

 

「条約を結んだ外交官などが死んでしまった場合、とかだとアイテムボックスの中身が問題になりそうですね。」

 

 それを聞いて一瞬だけコユビさんの眼光が鋭くなったのを見逃さなかった。

 

「少年は恐ろしいことを思いつくね……」

「そんなことはないですよ。コユビさんも知っていたなら、自分がそう考えてもおかしくはないと思いますよ?」

「………………」


 “約束”の絶対順守を行えるスキルを持つコユビさんが、それを考えないはずはない。

 そんなにこちらの口からその可能性が出たのは意外だったのだろうか。

 お互いが体を拭き終わるまでの間、ずっと何かを考え込んでいる様子だった。


 服の汚れもなんとか落とし(苦労していたのはコユビさんだけだったが)家に向かっている最中、ずっと疑問だったことを聞いてみた。


「そういえば、アイテムボックスは言葉を話せれば、誰でも使えるんですよね?」

「え、うん。そうだね、誰もが使えるよ。」

 それを聞いて安心した。


「じゃあ自分も使えますよね?」

「そりゃあそうだよ。なんなら今ここで使ってみれば?」

 そう言って振り返るコユビさんに「どうぞ」と促される。

 とはいえ使い方などわからないのだが。

「どうすればいいんですか?」

「どう……?そう言われても、空間を思い浮かべて開け!ってくらいだよ?」

 そんなのでできるのか。やはり異世界ともなると魔法などなくても充分ファンタジーなのだなと感心する。


 いずれにしても、まずはやってみて自分のアイテムボックスの容量を知る必要があるだろう。

 初めて使う本物の異世界なぞパワーに、思っていたよりも心が躍る。

 

「じゃあ、行きます!」

 少しの緊張と大きな期待を胸にアイテムボックスを使った。


「開け!アイテムボックス!!」





















 

 

 ……?


 何の変化もないのだが。

 困惑してコユビさんに助けを求める。


「……何か違いましたか?」

「……いや。問題ないと思うよ?」


 …… 

 ……

 ……

 もう一度だ。

 さっきよりも強くイメージしてはっきりと言葉にする。


「開け!!アイテムボックス!!!」

 

 ……

 ……

 ……

 おい。嘘だろう。

 そんなわけがない。

 人間誰しも使えるのだろう?


「開け!!!アイテムボックス!!!!」

「頼むから!!開いてくれ!!!」

「お願いします!!開いてください!!!」

「ほんとに!!マジで!!!」


 ……

 ……

 ……


 勢いよくコユビさんに顔を向けると、未だかつて見たことの無い速さで目をそらされた。

 それは、つまり。そういうことなのだった。



 静かに。

 とても静かに膝から崩れ落ちるのだった。


シフ君はヒトではなかった!?いえ冗談です。

長くなってしまいましたがスキル、アイテムボックスについての話は一区切りつきました。

このまま人生のハードモードに突入するのでしょうか!

話はそれますが評価していただいた方々、とても嬉しかったです。ありがとうございます!


深夜テンションですごい書いてしまいました。冷静になってから見るのが怖い……。

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