平等に与えられるもの 3
ゴホンッ……と大げさな咳払いをしたコユビさんは、まだ絶望から冷め切らない自分の背を叩いて話題を切り替えた。
「さ、さて少年。スキルについてはもういいだろう!今度はアイテムボックスについて教えようじゃないか。」
アイテムボックスか。想像通りの性能なら非常に有用な能力だ。
これを持っているだけで異世界に転生したかいがあるというものだが、果たしてどうだろうか。
まったく期待していなかったが、ひとまず聞いてみることにした。
「アイテムボックスっていうのは生物は入れられない代わりに、中の物の状態が変わることが無い。どこからでも物をしまうことができて、どこからでも中の物を取り出せる空間、のことですか?」
それを聞いて、コユビさんはポカンと口を開けて黙ってしまった。
なんだ?そんなに的外れなことを言ったのだろうか。
あまりにも突拍子もないことにあきれているのか。そう思っていたのだが、
「なんだ少年。知ってるじゃないか。」
とまさかの肯定をされてしまった。
合ってたのか。というかそんな凄まじいものを、人類全員持ってることの方が驚きなんだが。
「いや、知らなかったですけど。でもさっきコユビさんが使ってたのは二回とも別の場所だったから、自由に移動しても使える空間なのかなって」
「少年……。たまにめちゃくちゃ鋭いよね……。少年のスキルは、もしかしたら思考加速系かもしれないねぇ。」
思考加速系か。そんなスキルもあるのか。
しかし残念ながらそれはないだろう。
前世の知識で補っているだけなので、大人になれば平均的な部類に入るはずだ。
「アイテムボックスはだいたい少年の推測通りのものだけど、正確な知識ではないよね?そこを補うことで大人の威厳を保つことにしよう。」
それは言わない方が威厳は保てたのではないかと思うのだが。
余計なことを考えていたことに気づいたのか、半眼でジロリとこちらを睨む。
サラもコユビさんも、よくわからないところで鋭いのはどういうことなんだろうか。それとも自分が顔に出してしまっているのか?
その場合は気を付けなければなるまい。
あまり話とは関係のない決意を固めていると、はぁ。とため息をついたコユビさんが話題をアイテムボックスに戻した。
「えーと……。そう、アイテムボックスの特徴は“どこにいても使える”、“生物を入れることができない”くらいか?……あ、そうだ。“保有者がいなければ使えない”もあるから三つだね。」
「前の二つはわかりましたけど、三つ目は?」
自分の認識以外の特徴に疑問を持ち、答えを求める。
しかしコユビさんは「まあ、待て。」となだめるように言葉を続けた。
「一つずつ順に教えよう。とは言っても、何故“どこからでも使えるのか”はわかっていない。これは“何故アイテムボックスと呼ばれる異空間を自由に開けるのか”という問題と同じくらい難解なものだとされていて、ほとんど手つかずの分野なんだ。」
それもそうか。地球で実際に研究されたとしても、結果が出るまでに長い年月が必要となるに違いない。
「それほど難しい問題なんですね。」
「ん?そういうわけじゃないんだ。」
あっさり否定されてしまった。
「実はアイテムボックスについて研究が行われるようになったのはつい最近なんだ。個人個人でちょっとした検証をすることはあっても、明確な答えを出すために研究することは行われてこなかった。だから分かってないことの方が多いんだよね。しかも研究者が一人しかいないうえに変わり者だから……」
とそこまで言って、流れがそれたことに気づいたのか話を切り、苦笑いをしながら「ごめん、ごめん。つい愚痴が……」などと言葉を濁す。
おそらく研究者本人と会ったことがあるのだろう。
コユビさんが変わり者と言うほどの人か……。興味深いが、会いたくはない。
確実に厄介な人物だろうから。
「で、どこでも使える理由はわかっていなくて、そういう性質があるってことしか言えない。まあ便利な空間ぐらいの認識でも、今まで問題なかったんだから大丈夫なんだろうね」
「そうかもしれないですけど……」
なんだか突然投げやりになった気がするけど、単純に興味を持たれなかった、だけが研究されなかった理由ではないんだろう。
スキルを信仰に繋げる人がいれば、同じようにアイテムボックスも神聖化していた人がいてもおかしくはないだろう。もちろん、それだけが理由だとは限らないのだが。
「でもって、二つ目はすでに確認されている。“生物を入れることができない”ていう特徴。まあ、間違ってるんだけど。」
研究で答えが出されているのに間違っているとはこれ如何に。
自分が首をひねっていると「言い方が悪かった」と訂正される。
「正確に言うと生物はアイテムボックスの中に入ることはできる。ただし、即時死ぬ。」
「即時。ということは入ることはできるんですね。」
「そう。実際に手とかは入り込んでるし、生物でも一部なら何の問題もないみたい。ただし全身がアイテムボックスの中に入ってしまったら、生存は不可能。」
「それはアイテムボックスの内部が、生物が生きることができない環境ということなんですか。例えば毒ガスが充満しているみたいな。」
そうであれば手だけでも危ない可能性が出てくるのではないだろうか。
研究者と知り合いらしいコユビさんが、アイテムボックスの中に普通に手を入れていたのだから、そうした理由ではないと思うのだが。
その考えを肯定するように、
「いやそう言った環境ではないだろうって言ってたよ。」
と返された。
だが続けて紹介された仮説は、思わず耳を疑うものであった。
「彼女が考える仮説だと、アイテムボックス自体に意志のようなものがあるんだって。それが内部の物の状態を保存しようとして、生物の時間を止められる状態。つまり死体にするように働きかけるのではないか。って考えてたみたい。」
彼女とは研究者のことだろうか。しかし、それはあまりに荒唐無稽に思えた。
「アイテムボックスが意志を持つ……?」
「あくまで仮定の話だよ。僕もまさかと思ったけど、彼女にはそう思えるだけの何かがあるみたいだったね。」
あまりにも突飛な話で頭が追い付かない。
が、自分よりアイテムボックスに詳しい者の仮説を否定することもできない。
なんだか頭が痛くなってきた気がして地面に倒れ込んだ。
前世の自分だったら躊躇して座り込むぐらいにとどめただろうが、何年もサバイバル生活を送った今となっては気にすることなく地面に飛び込める。
無駄に汚れるからやらないけど。
「途中だけどいったん家に戻ろうか。もう昼になるし。今行けば僕もサラちゃんの料理が食べられるし。」
下心を隠さないのはどうかと思うが、その意見には賛成だったので小さく頷く。
鳴り出した腹の虫に導かれるまま、二人そろって家に向かうのだった。
おかしいですね。一つにまとまるはずだったのが、気づけば四分割されています。
まったく、アイテムボックスについて考察してみようとかアホなことを考えたのは誰なんでしょう。
……そういえば作中で実際に考察を行った女性がいました。見つかる前に逃げなきゃ……。




